47章 「INVISIBLE 1」
ハイヒライが入団して一週間経った。彼は僕達と会う度に「仕事はまだですか」と聞いてくるが、こちらも手が出せない事だから言い訳に困っている。
彼の健気な姿は見ていて心癒されるのも確か。このまま出来れば平和な日々が続いて欲しい。
ある日、教室の隅でクラスメートが何か話していた。その二人の声があまりに大きかったので、本を読んでいた僕の耳にも嫌でも届いた。
「なあなあ知ってる? ポルターガイストの噂!」
聞き慣れない単語が耳に入った。ポルターガイスト。
その言葉について調べようと、スマートフォンを取り出し検索にかけた。
「誰一人手を触れていないのに物体の移動、物音、発光等が起きる現象……か」
最初は全く知らないと思っていたが、その説明を聞くと何となくその単語についてのイメージが固まってきた。
……それでも、現実にそんな現象がある物なのだろうか。……いや、あるのか。
この世界に解放団という存在がある限り、そんな現象も無いとは言えない。
僕は二つの空席を眺めた。……生憎清水と佐藤のコンビは今日、やんごとなき事情で欠席中。
肝心のハイヒライも今日は姿を見ない。
……つまり、僕が頼れる相手は……。
僕は後ろを振り返った。
「や、コタロー君」
無邪気な笑顔で僕を迎える怨霊。そう、我らがバケ。
「なあ、バケ。……肝試しって行った事あるかい?」
「……あー、そういえば無いかも」
彼はふわふわと浮かびながらそう言う。この空間にいる人間達には、彼の姿は見えていない。……まあ、何となく感じている者は居るかもしれないが。
「そうか。じゃあ、行こうぜ」
「……どーゆー風の吹き回し? ……まあいいや。それなら楽しみだなあ!」
彼はそう言うと、辺りを高速で動き回りながらはしゃいだ。
……一人はバケ。……そしてもう一人は。
僕は放課後、ある人物にメールを打った。「ポルターガイストの噂を聞いた事があるか? それの調査に付き合ってくれ」と。
すると、直ぐに返信が届いた。
「初めて聞きましたね。コタロー先輩さえ良ければ今夜でも行きましょうか」
僕の事をコタロー先輩と呼ぶのは一人しかいない。……山本香しか。
すると、バケが後ろから覗いてきた。
「お? 何? デート?」
「……違えよ」
正直に言うとバケに言われて初めてそんな意識を持った。……そうか、客観的に見ればそうか。
……確かに彼女は素敵だと思うが……。彼女が男と恋仲に堕ちる事は無いだろう。そもそも巫女なのだから。色恋沙汰に陥る様な人では無い……。
その夜、僕はバケを連れ、二人夜の校門の前で待っていた。
夜風が冷たく、身体が震える。ふと横を見ると、バケは涼しげな顔でこちらを見ている。……そうか。霊は気温を感じないのか。それもある意味羨ましい。
周りの家は皆電気を消して静まり返っている。この街には、今は僕とバケしかいない。
このまま時が止まってしまいそうだ。
「……バケ。どこか行きたい所はあるか?」
「うーん……。そうだ、水族館行こうよ、水族館」
「……おう。いいな」
僕とバケはそんな他愛の無い会話をする。最近はバケもそれなりに生活に慣れてきた様で、色々な所に出かけたりしている。
……折角だし、これが終わったらバケの言う通り水族館にでも行こうか。
そうしていると、足音が聞こえた。その先には、巫女装束を着た山本が居た。
「ふー……。コタロー先輩、バケ君、お待たせしました」
月光に照らされて映る彼女の紅白模様は、いつもより美しく見える。
「……ああ。じゃあ行こうか」
「そうですね!」
なんだかぎこちない。……夜の高揚感からか、はたまた見慣れない夜の彼女の姿か、それとも後ろで僕の事をにやにやと見るバケのせいか。




