48章 「INVISIBLE 2」
校門に足をかけて、夜の学校の中に入る。取り敢えず防犯システム等はかかっていない様で、中に入っても何も起こらずただ静まり返っていた。
「……人がいるといないとで、こんなに変わるものなんだな」
「人の力って大きいんですよ、コタロー先輩。人が居なけりゃどんな建物だって廃墟同然です」
僕に続いて山本が巫女服の動きづらさをものともせず門を飛び越えてきた。その後ろからバケがぬうっと門をすり抜けた。
「……ところでさあ、お二人。……これ絶対肝試しじゃないよね」
バケが頭をぽりぽり掻きながら聞いた。……そういえば、バケにはこれが調査だと言っていなかった……。
「え? 先輩伝えてなかったんですか?」
「……ああ……いや、バケ。まあ確かにこれは……調査みたいな側面があるが……肝試し……なのかなあ。……少し話を聞いてくれ」
これならバケには最初からポルターガイストの調査だと言えば良かった。僕は事の顛末をバケに伝えた。
「……ふうん。だから香ちゃんは巫女服なのか」
「そう。……妖怪が引き起こしてる可能性もあるから」
改めて妖怪という単語を聞くと、身が引き締まる思いだ。……どうかただの噂であって欲しい。
正直、山本がピッキングを使って出入口の鍵を開けた時は至極驚いたがもはや今はどうでも良くなってきた。
……月のみが光源となる夜の校舎。僕と山本の足音のみが響くこの空間は、酷く不気味だ……。
「……え、もしかしてコタロー君怖いの?」
「……大丈夫ですか? 震えてますよ……」
バケと山本が口々にそう言って僕を気遣う。
「……い、いや……。大丈夫……」
今はもう床だけを見ていたい。……前を見て、この空間を認識したくない。
「……まさか、コタロー君が真っ先にギブするとは思わなかったなあ」
僕としても驚いている。バケか山本が怯え始めて、どう慰めてやろうか台詞まで考えていたのに。まだバケが怖がらないのは分かる。バケ自身がオカルトな存在だから、同じ存在を怖がらないのは納得だ。本人の性格だったらその仮説は立証しなくなるが。
だが後輩の女子の山本が全く怯えずに、ピッキングまでこなす様な器の持ち主だとは思わなかった……。神社の娘は一味違う。
「先輩頑張って下さい! 噂の教室までもう少しですから!」
「あ、ああ……」
こうして散々にバケに煽られたりもしたが、何とかポルターガイストの噂が立っている二階の教室まで辿り着いた。
鍵のかかっていない教室の扉を開けた。
「……ここが」
入った瞬間に特に寒気等も感じない。僕には他の教室と全く同じ様に思えた。ただ窓から月が覗いていて、整頓された机を照らす。それはまるで一つのパズルの様だった。
「……」
山本とバケが奥の方に入り調査を始める。僕も同じ様に散らばろうと中の方に進んだ次の瞬間だった。
大きな音を立て、ばたり扉が閉まってしまったのだ。
「……!? は!?」
僕は慌てて扉を開けようとする。……だが、鍵は開いている筈なのに、何か強い力に抑え込まれて扉が開かない。
「コタロー君どうしたんだい!?」
バケが慌ててこちらに飛んでくる。
「分からん、急に扉が閉まったんだよ! バケ、扉をすり抜けて何か無いか確かめて来てくれ!」
「了解!」
バケは意気揚々と扉にぶつかる。……そう、ぶつかるだけであって。
「……あれ? 扉にぶつかって……出れない……?」
怨霊であるバケすら、ここから出られない……らしい。その様子を見ていた山本はこう呟く。
「……結界だ。……これは、間違い無い。……妖怪」
妖怪、という言葉が発せられた瞬間、教室中の机ががたがた揺れ始めた。
「二人共気を付けて! ……ポルターガイストは、やっぱり妖怪が引き起こしてたんです!」
校舎内の静寂を突き破る様に、教室内の至る物が、宙を舞い始めた。




