43章 「転校生ハイヒライ・コーザンカイト 2」
転校生のハイヒライは、一躍クラスの注目の的となった。
確かに、ドイツから来た美形の男子という存在は、クラスルームをかき乱すのに十分だっただろう。
彼は、いつどんな時でも明るく、そして笑顔で接していた。
彼が話す度に、クラスの全員が彼に注目するのだ。
そんな彼だが、どうやら勉強、運動の方はまるっきりダメだった。
数学は初歩的な問題でミスをし、保健体育は走れば転けていた。
だが、そんな所がギャップ萌えしたらしく、周りの男子達はその度にハイヒライを助けていた。
勿論、それは清水、佐藤、そして僕も例外では無かった。
ランニングの時、僕の目の前でハイヒライが転けた時には流石に驚いたが、足を擦りむいたハイヒライを、僕達三人で救護室に連れて行った。
彼の白く美しい膝が赤く染っているのは見ていられなかった。
例えるならば、芸術品が傷を負ってしまった様な感覚だった。
そしてそれを治したくなる感覚があった。
バケはそんな光景を見て、
「・・・・・・本当に綺麗な子だねえ」
と、呟くばかりだった。
だが、事件は授業の時起こった。
それは、音楽の授業の時だった。
その時の授業は、アコースティックギターを弾く、という内容だった。
そもそも、今回が初めての演奏だったので、上手く弾ける訳もなく、木製の物体と皆で悪戦苦闘していた。
滅茶苦茶なメロディが流れる中、ハイヒライがギターを持った。
その時、彼のギターから、威圧する様な、世界を優しさで包み込む様な、形容しがたい音が流れた。
皆が思わず彼の方を向く。
そのまま彼はギターを弾き続ける。
その音色は、聞くだけでその音色の方に意識が向き、彼の残酷ながら優しい世界観に引き込んでいく。
鳥が唄っている。風が五線譜を作っていく。小動物が鑑賞する。その様は正しくオーケストラだ。
その時、嵐がやって来る。全てを粉々に打ち砕いてゆく。
鳥は飛ばされ、川に沈んでいく。風は残酷ながらも、激しいリズムを奏でている。
・・・・・・そして、演奏が終わると、皆、
「・・・・・・な、なあ、ハイヒライ、俺にギター教えてくれよ」
「私も」
「僕も」
と、一斉にハイヒライの方へ駆け寄っていく。
彼は、一瞬でそのギターの音色で、皆を虜にしてしまったのだ。
そして、音楽の授業の終了後、あろう事か、ハイヒライが僕達三人に話しかけてきた。
「栗島さん、清水さん、佐藤さん。体育の時に助けて貰ったお礼に、何かしたいんですけど」
背の低いハイヒライは、こちらから見ると可愛い下級生にも見える。
清水が率先して答えた。
「いや、いいよいいよ、お礼なんて」
すると、ハイヒライはこう返した。
「じゃあ、近くの楽器屋に放課後来て貰えませんか?僕が居るので」
そう言うと、彼は僕達にまるで天使の様な笑顔でこちらを振り向き、去っていった。
「・・・・・・栗島さんって、違和感あるな」
佐藤が言った。
「面白そうだな、行こうか」
清水が顎に手を当て言う。
「本当に、不思議な奴だ」
彼の後姿をじっと見つめ、僕は呟いた。




