42章「転校生ハイヒライ・コーザンカイト 1」
教室はHR前の柔らかく騒々しい雰囲気に包まれていた。
教室の窓からの太陽のやる気ある陽気に少しうんざりしているこの頃。
ある程度行事も終了し、後は長期休みを待つのみ。
その為か僕達含め他の生徒は皆何処かだらけて、スローペースで進む学校生活を心の奥底で楽しんでいる様でもあった。
その様子を眺めながら僕は本を読んでいた。
佐藤は何やら分厚い参考書を読んでいたが、それを清水が彼の頭を無茶苦茶に手で擦ってちょっかいをかけていた。
僕も二人の元へ行こうとしたが、その瞬間、後ろから寒気がした。
この感触にも慣れてきた。
「コタロー。来ちゃった」
「ああ、そうか」
バケだ。偶に学校に来る。普段は散歩をしている様だが。バケが隣にいると、バケが見える人間、霊感の強い人間は独特の寒気を覚えるのだ。
「皆楽しそうだね。特に清水君と佐藤君」
「いや・・・あの二人は年中あんな感じだから」
あの二人が大人しくしている所を見た事がない気がする。僕は普段のお笑いコンビの様な二人の様子を想起しながら言った。それを聞くと右にいるバケは口元に手をかざし微かに笑った。
「ははは。そうなんだ」
右にいるバケの方を見てみた。一昔前の学ランを着て、周りに火の玉が浮かんでいる。そして体は半透明で浮いている。
いかにも霊らしい。どうやら人がイメージする霊と大差ない様だ。
その時、HRの始まりを告げるチャイムが鳴った。生徒達が一斉に席に着き始める。
そしてそれから10秒後に担任がやって来た。二年目の眼鏡をかけた男だ。
「おはよう。早速HRを始めたい所なんだが・・・今日は新しくこの教室に加わる転校生を紹介しよう」
担任がその言葉を言うと、今まで閑静だった教室がざわめき始めた。まるで嵐の前の小鳥の様だ。
「そして、外国人の生徒だ。不安な事もあるだろうから、仲良くしてやってくれ。では、入って来てくれ」
担任が扉に向かって声をかけると、直ぐにガラガラと扉が開かれた。皆の視線が扉に集中する。
「・・・転校生かあ」
バケが傍らでそう呟いた。
そして足音が教室に響く。
金色のくせっ毛、そして海の様な色の碧眼、すらりと伸びた足。
そして真ん中で立ち止まり、彼は皆に向かって言った。
「・・・Freut mich dich kennenzulernen.いや、えーと。初めまして。ドイツから来ました、ハイヒライ・コーザンカイトです。これからよろしくお願いします」
彼は流暢な日本語で自己紹介した。ヴァイオリンの様な声だった。
「・・・言う通り、彼はドイツ人だ。分からないこともある。その時は助ける様に。・・・えー、コーザンカイト?」
「あ、ファーストネームの方で読んでもらえると嬉しいです」
彼は担任の方を見て微笑みながらそう言った。
「そうか、済まない。じゃあハイヒライ、後ろの席に座ってくれ」
そう言われると彼は鞄を持って席の方に歩き出した。
優雅なステップだった。まるでクラシック音楽の様な、美しい姿だった。
途中僕の横を通り過ぎると、ふわっと花の様な匂いがした。
「・・・綺麗な子だねえ」
バケは頬杖をしながらそう微かに呟いた。




