004 ヒーロー系女子
ここで、私達―外村うてなと先輩がどうしてその事実に気づいたのか、説明したいと思う。
これは、決して彼女から話を聞いた瞬間に、先輩から私へのテレパシーを送ったわけではない。頑張ればできないこともないけれど、そんなことをする必要がない。
なぜなら、彼女と出会う前から、すでにその情報を手に入れていたからだ。
「まどか先生、それって本当?」
私は、まどか先生に問いかける。
まどか先生からの指令は、最終的には同一同盟の復活阻止だった。たぶん。勘だけど。
「あの兄貴からの情報だ。正しいと思っていい」
かつての部室―改め、フリースペース。
「同一同盟が、まだ残っているなんて」
かの大戦で、ほとんどは死に至ったはずなのに。
かの大戦。小学生の時の恩を返すべく、私は満身創痍になりながらも、戦った。
戦って、闘った。
結局彼は全能を失い、全知を私達に預けたわけなのだけれど。
「だが、これが最後だ。あとは本当に『とんけん』しかない」
「でも、どうして?」
まどか先生は、少し表情を曇らせ、それから窓を見た。
「『鏡面世界』の持ち主は、同一同盟の人間でありながら、個人世界を持つ、いわば一般人の側面を持っている」
それから彼女は、立ち上がってコーヒーを淹れた。私には飲めないブラックを調達した彼女は、座り直し、喉を整え、話し始めた。
「少しだけ長い話になるが、付き合ってもらう」
幸いにも、今日は文化祭の振り替え休日である。時間はたっぷりとある。
「『とんけん』―鳶研究所の所長から、こんな連絡が入った。
『うちの保護対象が逃げ出した』
私は、いつものような戯言かとも思ったんだが、その文章からただならぬ何かを感じた。
よくあるだろ? 明らかに真面目な雰囲気を醸し出す文章ってやつ。
続きに記されている情報を見て、私は確信した。彼女―彼女らは、完全に独立しようとしているあるいは、同一同盟に加わろうとしている。
その彼女というのが、馬屋原奏だ。
逃げ出した方は、所謂ギャルともいうべき見た目をしているが、私達が見つける対象はその真逆だ。
おっとりしている、そして内気な女子だ。
彼女を囮に使えば、必ずあっちは動く。
君たちは彼女をマークしてほしい。
……意外と早く終わったな。
ちなみに、馬屋原奏と瀬川十哉を合わせるな。
もしかすると、そこに最終決戦の号砲があるかもしれん。
ああ、聞いたことのない名前だ。
だが、『とんけん』が保護していた対象だ、どんな奴なのか全く分からない。
話は以上だ」
まどか先生は、私をじっと見つめ、それから今まで見せたことのないような、申し訳なさを前面に押し出す表情でつぶやいた。
「すまないな、こんなことに巻き込んで」
それは先生からは程遠い謝罪だった。
「何でそんなこと言うんですか?」
私は、思い出す。
彼がしてくれたことを。
小学生の時の思い出。彼は、何でもできて、何でも知っていた。私を励ます方法も、私を独りぼっちにさせない方法も、そのすべてを知っていた。
そして、何でもしてくれた。
芸術同好会への参加を決めた後、私は彼に関する情報をすべて聞いた。とても信じがたいもので、ありえないと思っていたが、それでも彼がおかれている状況を放置などできるはずもなかった。
絶対に恩返しすると誓った。
あの惨劇の後、私は後悔した。
目いっぱい後悔して、立ち直った。
「私は、大好きな男の子が困っているのが見ていられないだけですよ」
今度こそ、私は彼を助ける。
全知なんて要らない。
全能なんて要らない。
もしも、今までの優しさがその全知全能によって生じたものだとしても。
私は、信じる。
彼の心を。
大好きな、彼を。
「なんか、少年漫画の主人公みたいだな」
先生のツッコミに私は溌溂と答える。
「今の時代、女の子が男の子を救うのが主流ですよ」
私は、フリースペースを出る。
あれ、なんでこんな話を。
ただ馬屋原奏を見つけ出し、こちらで保護しようという話だったはずなのに。
まどか先生の雰囲気は、明らかに違うものだった。
ああそうか。
同一同盟の復活阻止だ。
忘れてた。
最近、よくある。その場その場の頭は冴えているのだが、その数分前のことを忘れているということが。
「頭を使いすぎているのかなぁ」
そんな風に、のんきに考えながら、私は馬屋原さんの同クラスである未桜先輩に、情報の共有をしに行くのだった。




