005 おののこみち
とりあえず、私は未桜さんのお家に保護されることになりました。そして、休日である明日、繁華街改め商店街へと出向こうという話になりました。
まあ、表向きは「お泊り」ということになっているのですが、普段全く友達と遊ぶことがないので、両親は「今夜は宴だ!」と盛り上がっていました。なんだか複雑な気持ちです。
「まあ、私の家ならたぶん誰も狙いに来ないよ。関わりがあるとは思われていないだろうし」
夜の住宅街は、ところどころ部屋に電気がついているくらいで、意外と暗いものですね。
そもそも夜外に出ることもないので、そんなことすら新鮮です。
「あ、あの」
私は、彼女に尋ねます。
「どうして、助けてくれるのでしょうか」
すると、すぐに彼女は訂正しました。私の発言は、少し間違いだったようです。
「残念ながら、助けるのは君じゃなくて、君以外の人たちのことなんだ。君を放置すると、他者が危ないってことなんだ」
なんでしょうか、本当にその通りなんでしょうけれど、少し残念です。
まるで、世界ののけ者にされているような気分です。
「ああでも、君が心配ってのはちゃんとあるよ。この世界をちゃんと解決した暁には、ちゃんとご両親とお話しした方が良い」
彼女の笑顔に、私は心を暖められてしまいます。たまに見せる魔性な雰囲気を、もっと前面に見せればクラスでも浮くことは無いのに。
そんな風に思ってしまいます。
「もう君は独りじゃないからさ」
心臓が高鳴ります。
空に向かって吐いた彼女の台詞は、そのまま私の心に突き刺さって抜けませんでした。
そんな言葉が、聞きたかった。
……の、でしょうか。
「あ、ありがとうございます」
しかし、そんな甘く優しい時間も長くは続きません。
「やあやあ、君は猪口未桜さん、だよね?」
目の前に現れたのは、逆馬屋原さんでした。
「私の姉に、さわらないでもらえるかなぁ」
恐怖を混ぜたかのような満面の笑みで、彼女は未桜さんを睨みます。
「姉?」
未桜さんは、平然としながら問いかけます。
「そうだよ。私を作り出したお姉ちゃん」
「ははーん。こりゃ良いこと聞いたな」
彼女は、そう言うと私の方を向き、
「良かったじゃん。お姉ちゃん」
と言いました。
「へ?」
「別に、嫌われているわけでもないみたいだし、むしろ一緒になりたそうだし」
「いや、でもそれじゃあ」
「私は彼―彼らさえ生きていれば、君らがどうなろうとどうでもいいからさ」
そんな風に、まくしたててきました。
なんですか、急に。
どうして?
私を助けてくれるんじゃないんですか?
いや、助けてはくれないんでしたね。
彼女にとっては、事件のうちの一つなんでしょうね。
そうですか、そうですよね。
がっかりです。
あなたを信じた私がバカでした。
「あなたが純粋で良かった」
瞬間。
未桜さんは逆馬屋原さんの方へ手をかざし、「孤独世界」と宣言します。
「あ、しまった」
にらみを利かしますが、彼女は何もできません。そのまま世界は彼女を覆い、そして彼女を包んだ世界を、彼女は手のひらに乗せます。
「……どういうことですか?」
「いやあ、話は単純だよ。君が作り出したということは、君とつながっているということ。二人は、足してようやく平均点になる。どちらかが怒れば、どちらかが喜ぶ。どちらかが嫌いになれば、どちらかが好きになる。君が私を嫌いになれば、逆馬屋原さんは私を好きになる。そこに一瞬のスキが生まれる。そこに、私はつけこんだってこと」
……怖い。恐いです。
「さあ、帰ろう」
私はこんな人と帰っているんだと思うと、安心の反面、反抗できないと思うのでした。
「でも、敵を捕まえちゃったよ。後で報告しないと」
彼女はそうのんきに言うのでした。
「こうもまあ、簡単に捕まるとはね」
声がして、私達は振り向きました。
刹那。
目の前の人間が持ってた槍か何かは、音速で私の隣にいる未桜さんの体まで伸び、そして突き刺しました。貫通です。
貫通です? 貫通です?! 貫通です!?
「……へ?」
「……うぐっ」
その槍の持ち主は、のっさのっさと歩き、そして私にようやく全貌を見せました。
少し私より大きいくらいの身長に、明らかに不摂生な下っ腹。完全な肥満体の男は、私に向かって言います。
「やめてな、これ誘拐案件にするの。俺は、命令を受けてやっているだけで、首謀者は他にいるんだから。ったく、自分でやれっての。ああそうだ、その人の元に連れて行ってあげるよ。というか、そこまでが俺の仕事なんだけど」
「だ、だ……だれ、ですか?」
彼は、とぼけた表情を見せて、それから言いました。
「同一同盟残り2人のうちの、下っ端の方のこと、小野小径だ。君―君たちには、神様狩りを手伝って欲しいんだ」




