第十三話 週末の約束は突然に
前書き
誰かと過ごす時間が、少しずつ楽しみになっていく。
けれど、友人と呼べる相手が増えても、毎日が特別な出来事で満たされるわけではない。
授業を受けて、昼食を食べて、くだらない話で笑う。
そんな日常の中で、駿がふと思いついたのは、いつもとは少し違う週末の過ごし方だった。
それは、航平にとっても、結衣にとっても、まだ知らない時間の始まりだった。
金曜日の朝。
水野航平が教室に入ると、窓際の席で佐久間駿がスマートフォンを睨んでいた。
「……ない」
低い声だった。
朝から何を探しているのだろう。
航平が鞄を机に置いていると、駿はもう一度画面を確認し、深いため息をついた。
「何がないんだ?」
「週末の予定」
「予定なら、自分で作ればいいだろ」
「そういう話じゃないんだよ。土曜日も日曜日も、今のところ予定がない。つまり、俺の休日は自由という名の虚無に支配されている」
「ずいぶん大げさだな」
「航平、お前は分かってない。高校三年生の休日は貴重なんだぞ。勉強もしなきゃいけない。進路も考えなきゃいけない。なのに、気づけば一日が終わっている。そんな悲劇を繰り返していいと思うか?」
「……課題を後回しにしてゲームをするからじゃないのか?」
「それはそれ、これはこれ!」
駿が勢いよく顔を上げた。
その声を聞きつけた成瀬明里が、前の席から振り返る。
「朝から何を騒いでるの?」
「休日の有効活用について考えている」
「課題の有効活用について考えたほうがいいと思うけど」
「俺の課題は今、人生の優先順位について考えているところだ」
「課題に意思があるみたいに言わないで」
明里は呆れたように前を向いた。
航平は笑いながら椅子を引いた。
窓から差し込む朝の光が、机の表面に細長い影を作っている。教室の後ろでは、数人の男子が昨日のテレビ番組について話していた。廊下からは、登校してきた生徒たちの足音と、遠くの教室から聞こえる笑い声が響いてくる。
いつもと変わらない朝だった。
ただ、最近はこうした何気ないやり取りの中に、以前よりも自然に加わっている自分がいる。
航平はそのことを、少し不思議に感じていた。
「そういえば、航平」
駿が椅子を引きずって近づいてきた。
「お前、今週末は何か予定あるのか?」
「特には。家で本を読んだり、続きを書いたりするつもりだけど」
「ほら、やっぱり!」
「何が?」
「お前も暇なんじゃないか!」
「暇とは言ってないだろ」
「予定がないという点では同じだ!」
「ずいぶん乱暴な理屈だな」
駿は腕を組み、真剣な顔で考え込んだ。
「……よし。決めた」
「嫌な予感しかしないんだけど」
「明日、俺の家に来い」
「急だな」
「友達と遊ぶのに、そんなに複雑な理由が必要か?」
その言葉に、航平は一瞬だけ黙った。
必要なのかと聞かれれば、必要ないのだろう。
ただ、これまでの航平は、誰かと遊ぶ予定を自分から作ることがあまりなかった。学校で友達と話すことはあっても、休日まで一緒に過ごすことは、それほど多くなかったのだ。
「……何をするんだ?」
「ゲーム!」
「予想どおりだ」
「それから、何か食べる!」
「急に計画が雑になったな」
「細かいことは後で決める!」
「決めてから誘えよ」
航平が笑うと、駿もつられて笑った。
そのとき、蒼太が二人の会話に加わった。
「明日、駿の家で遊ぶのか?」
「そう! 蒼太も来いよ」
「別にいいけど。何時から?」
「……何時がいい?」
「誘った側が聞くことか?」
「時間はみんなで決めるものだろ!」
蒼太は少し考えてから、時計を見た。
「昼過ぎなら行ける。午前中は家の用事があるから」
「よし、じゃあ昼からだ!」
駿は満足そうに頷いた。
航平は、こんなふうに予定が決まっていくことが、少し新鮮だった。
最初から完璧な計画があるわけではない。
ただ、誰かが言い出して、別の誰かが乗って、足りないところを少しずつ埋めていく。
それだけで、何もなかった週末に予定ができる。
「……あ、そうだ」
駿が何かを思い出したように顔を上げた。
「結衣さんも誘ってみるか」
航平の手が、机の上で一瞬止まった。
「……早坂さん?」
「そう。せっかくなら人数が多いほうが楽しいだろ。明里も来るよな?」
「私は、明日なら午後は空いてるけど」
明里は少し考えてから答えた。
「ただし、あなたの家をゲームセンターみたいにするのはやめてね」
「家でゲームをするのに、ゲームセンターみたいになるわけないだろ」
「あなたの場合、声の大きさが問題なの」
「俺の声は場を盛り上げるための才能だ!」
「近所迷惑と才能は別物よ」
蒼太が小さく笑った。
駿は明里に言い返そうとしたが、すぐに航平の肩へ腕を回した。
「というわけで、結衣さんも誘おう。お前、最近よく話してるんだろ?」
「……まあ、話すことはあるけど」
「じゃあ、ちょうどいいじゃん」
「何が?」
「普通に友達として誘えばいいんだよ。別に難しいことじゃないだろ?」
駿はあっさりと言った。
その言葉に、航平は少しだけ考え込んだ。
確かに、難しいことではないはずだった。
同じ学校の友達を、自分たちの集まりに誘う。
それだけのことだ。
それなのに、なぜか結衣を誘う場面を想像すると、少しだけ言葉に迷ってしまう。
「……そうだな」
航平は、ようやく頷いた。
「聞いてみよう」
「よし、決まり!」
駿は嬉しそうに両手を叩いた。
「明日は佐久間家で休日交流会だ!」
「その名前、今つけただろ」
「名前があると立派なイベントに見えるだろ?」
「名前だけ立派でもな」
「細かいことは気にするな!」
始業のチャイムが鳴った。
駿は慌てて自分の席へ戻り、航平も教科書を机の上に出した。
休日の予定が決まった。
ただそれだけのことなのに、午前中の授業がいつもより少しだけ短く感じられそうな気がした。
*
二時間目が終わった休み時間。
航平は廊下へ出て、窓際で友人と話していた結衣に声をかけた。
「早坂さん、今、少しいい?」
「うん。どうしたの?」
結衣は友人に「また後でね」と告げて、航平のほうへ歩いてきた。
「実は、明日なんだけど……」
そこで、航平は一度言葉を切った。
自分から誰かを誘うという行為が、思っていたよりも難しいことに気づいた。
何をするのか。
誰が来るのか。
どう説明すればいいのか。
頭の中で考えているうちに、かえって言葉が出てこなくなる。
「……駿の家で、みんなで遊ぶことになったんだ。蒼太と明里も来る予定で」
「そうなんだ」
「もし予定がなければ、早坂さんも来ないかなと思って」
結衣は、少しだけ目を丸くした。
それから、嬉しそうに笑った。
「私も行っていいの?」
「もちろん。駿が誘ってみようって言ってたし、俺も……来てくれたら嬉しいと思う」
最後の言葉は、思っていたよりも自然に口から出た。
言ってから、航平は少しだけ気恥ずかしくなった。
結衣は彼の顔を見つめていたが、やがて柔らかく微笑んだ。
「ありがとう。明日は午後なら大丈夫だよ」
「本当?」
「うん。何時に行けばいい?」
「昼過ぎに集まる予定。詳しい時間は、今日のうちに駿が連絡すると思う」
「分かった。楽しみにしてるね」
その言葉を聞いたとき、航平は胸の奥が少しだけ温かくなるのを感じた。
自分が誘った相手が、楽しみにしていると言ってくれた。
それだけのことが、思っていた以上に嬉しかった。
「……俺も、楽しみだよ」
結衣は一瞬だけ目を瞬かせた。
そして、ほんの少し頬を緩めた。
「じゃあ、また後でね」
「うん」
結衣が教室へ戻っていく。
航平は、その後ろ姿を見送ってから、自分の教室へ戻った。
扉を開けると、駿が待ち構えていた。
「どうだった?」
「来てくれるって」
「よっしゃ!」
駿は拳を握りしめた。
「これで人数も揃ったな!」
「別に、人数を揃える大会じゃないだろ」
「大事だろ! ゲームは人数が多いほうが楽しい!」
「そういうことか」
蒼太が納得したように頷いた。
明里は机に頬杖をついて、駿を見た。
「それで、肝心の準備は?」
「……準備?」
「ゲームをするなら、何をするのか決めておくんじゃないの?」
「行き当たりばったりも、また一興だろ!」
「あなたの人生、行き当たりばったりばかりね」
「それは言いすぎだ!」
駿が抗議すると、明里は笑った。
航平も笑いながら席に座った。
明日、何をするのかは、まだはっきりとは決まっていない。
それでも、集まる相手が決まっただけで、少しずつ楽しみになっていた。
*
昼休み。
五人は、いつものように机を寄せて昼食を取っていた。
結衣は自分の弁当箱を開け、箸を手に取った。
「駿くんの家って、ゲームがたくさんあるの?」
「任せろ! 俺の家には、友達と遊ぶための設備が整っている!」
「設備って言い方が大げさね」
明里が弁当の蓋を閉じながら言った。
「普通のゲーム機とテレビがあるだけでしょう?」
「それが大事なんだよ!」
「ほかには?」
結衣が興味深そうに尋ねる。
「ボードゲームもあるぞ。昔、家族で遊ぶために買ったやつがいくつか残ってる」
「へえ、ボードゲームもあるんだ」
「そうそう。あと、カードゲームもある。たぶん、どこかにしまってあるはず」
「たぶん?」
「細かいことは気にするな!」
駿が胸を張った。
蒼太が箸を動かしながら、淡々と言う。
「明日までに見つけておけよ」
「分かってるって!」
「それと、充電器も確認したほうがいい。途中で電池が切れたら面倒だろ」
「おお、さすが蒼太。準備の鬼!」
「普通のことを言っただけだ」
明里は、呆れたように笑った。
「あなたたち、遠足にでも行くつもり?」
「休日交流会だ!」
「まだその名前を使うのね……」
結衣は、みんなの会話を聞きながら楽しそうに笑っていた。
やがて、彼女は自分の弁当から卵焼きを一切れ口に運んだ。
「そういえば、みんなは普段、休日に何をしてるの?」
「俺はゲームだな」
駿が即答した。
「知ってた」
明里が言う。
「私は買い物をしたり、家でゆっくりしたり。課題が多いときは、そっちを優先するけど」
「蒼太は?」
「家の用事を手伝ったり、本を読んだり。あとは、気が向いたら散歩する」
「散歩?」
結衣が少し意外そうに聞き返した。
「うん。特に目的を決めずに歩くことがある。知らない道を通ると、思いがけない店を見つけたりするから」
「それ、ちょっと楽しそう」
「実際、楽しいよ。何も見つからない日もあるけど」
「航平くんは?」
結衣がこちらを向いた。
航平は箸を置き、少し考えてから答えた。
「本を読んだり、小説を書いたり。あとは、家で動画を見たりかな」
「やっぱり書いてるんだね」
「うん。時間があると、つい」
「どんな話を書いてるの?」
「今は、前に話した短編の続き。……というか、少し前の部分を書き直してる」
「前の部分?」
「主人公の女の子が、病気になる前の話」
結衣の表情が、わずかに明るくなった。
「本当に書き始めたんだ!」
「まだ少しだけだけど」
「それでもすごいよ。どんな子なのか、もっと知りたいと思ってたから」
彼女は、嬉しそうに言った。
航平は少しだけ視線を逸らした。
「……まだ、朝寝坊するところしか書いてないけど」
「えっ?」
「朝が苦手で、目覚まし時計が鳴っても起きられないんだ」
結衣は、目を丸くしてから笑い出した。
「何それ。かわいい!」
「そうかな」
「うん。だって、そういうところがあると、ちゃんと生活してる人なんだなって思えるもの」
航平は、静かに頷いた。
結衣は、いつも自分が気づかなかった部分に目を向ける。
悲しい結末だけを考えていたときには、必要ないと思っていた部分。
けれど、彼女はそこを大切にしてくれる。
「……続きを書いたら、また読んでもらってもいい?」
航平が尋ねると、結衣は迷わず頷いた。
「もちろん。楽しみにしてる」
その言葉を聞いて、航平は自然に笑った。
今度は、以前ほど戸惑わなかった。
自分の書いたものを読んでもらうこと。
感想を聞くこと。
次に書くものを、楽しみにしてもらうこと。
少しずつ、それが当たり前になってきている。
もちろん、まだ慣れたわけではない。
それでも、以前のように、誰にも見せずに引き出しへしまってしまうことだけが、自分の物語との向き合い方ではなくなっていた。
*
午後の授業は、いつもどおりに過ぎていった。
黒板に書かれた数式をノートに写し、教科書の指定されたページを開き、先生の説明を聞く。
窓際の席では、風が吹くたびにカーテンが揺れていた。
航平は授業に集中しようとしていたが、ふとした瞬間に、明日のことを考えてしまう。
駿の家でゲームをする。
明里が駿に文句を言う。
蒼太が淡々と勝負を進める。
結衣がどんなゲームを選ぶのかは、まだ分からない。
そんなことを想像していると、いつもより少しだけ時間が早く過ぎていく気がした。
「水野、次の問題を解いてみろ」
「……はい」
藤本先生に名前を呼ばれ、航平は慌てて顔を上げた。
教室の何人かが、くすくすと笑った。
「大丈夫か? 今日は少し上の空だな」
「すみません」
「まあいい。次は集中するように」
「はい」
席に座り直すと、斜め前から駿がちらりと振り返った。
その顔には、明らかに何かを察したような笑みが浮かんでいた。
航平は小さく眉を寄せた。
駿は何も言わずに前を向いた。
その態度が、かえって怪しかった。
*
放課後。
終礼が終わると、駿は勢いよく立ち上がった。
「よし、明日の予定を確定させるぞ!」
「まだ決まってなかったの?」
明里が鞄を肩にかけながら言った。
「大まかには決まってる。細かいことを決めるんだ!」
「具体的には?」
「明日の午後、俺の家に集合。ゲームをして、何か食べる!」
「……朝と何も変わってないじゃない」
「いや、時間が決まった!」
「それは進歩なのかしら」
蒼太はスマートフォンを取り出した。
「じゃあ、十三時に集合でいいか?」
「いいぞ!」
「私は大丈夫」
明里も頷いた。
結衣は少し考えてから答えた。
「私も大丈夫。十三時なら間に合うと思う」
「よし、決定!」
駿は満足そうに笑った。
「場所は駅から歩いて十分くらいのところだ。詳しい住所は後で送る。迷ったら連絡してくれ!」
「駿の家に行くのは初めてだから、ちょっと楽しみ」
結衣が言うと、駿はさらに嬉しそうになった。
「任せろ! 最高の休日にしてやる!」
「そこまで期待を上げて大丈夫?」
航平が言うと、駿は胸を張った。
「問題ない! 俺には秘策がある!」
「……何?」
「まだ考えてない!」
「問題しかないだろ」
蒼太が静かに突っ込んだ。
明里は額に手を当て、結衣は声を立てて笑った。
航平も、とうとう堪えきれずに笑ってしまった。
こうしていると、明日のことが少しずつ現実味を帯びてくる。
いつもの教室で、いつものように話していただけなのに。
気がつけば、五人で過ごす予定ができていた。
「じゃあ、また明日ね」
結衣が鞄を持ち直して言った。
「うん。また明日」
航平が答えると、駿がすかさず二人の間に顔を出した。
「おいおい、二人とも明日会うんだから、そんなに名残惜しそうにしなくてもいいだろ?」
「誰も名残惜しそうになんかしてないだろ!」
「そうかなあ?」
「駿、あなたは本当に余計なことしか言わないわね」
明里が駿の肩を引っ張った。
「痛い! 俺は事実を指摘しただけだ!」
「その事実がどこにあるのよ」
「俺の鋭い観察眼の中に!」
「はいはい。帰るわよ」
明里は駿を引っ張るようにして歩き出した。
蒼太も二人の後を追い、結衣は笑いながら軽く手を振った。
航平は、その背中を見送りながら思った。
明日も、きっと騒がしい一日になる。
けれど、それを嫌だとは思わなかった。
*
家に帰ると、航平は制服を着替え、机の前に座った。
夕食までの時間を使って、短編小説の続きを書こうと思ったのだ。
ノートを開く。
そこには、病気の少女が朝寝坊をする場面が書かれていた。
航平は、続きを考えた。
少女は慌てて家を出て、いつも通る道を走る。
途中で友達に呼び止められ、遅刻しそうなのに立ち話をしてしまう。
学校に着けば、先生に注意されるかもしれない。
そんなことを考えながら、彼は一行ずつ書いていった。
気づけば、窓の外は夕暮れになっていた。
航平はペンを置き、書いた文章を読み返した。
まだ、病気のことは出てこない。
ただ、少女が日常を過ごしているだけだ。
それなのに、書いていて不思議と楽しかった。
これまでの自分なら、物語をどこへ向かわせるか、最後に何を起こすかばかり考えていた。
けれど今は、彼女がどんな一日を過ごすのか、その続きを考えている。
それは、ほんの小さな変化だった。
スマートフォンが震えた。
駿から、グループメッセージが届いていた。
『明日は十三時に集合! 遅刻厳禁!』
続けて、明里から返信が入る。
『あなたが一番遅刻しそうだけど』
『俺は主催者だぞ!』
『主催者なら、なおさら時間を守りなさい』
蒼太が短く送った。
『住所、送ってくれ』
駿はすぐに住所を送信した。
そのあと、結衣からもメッセージが届いた。
『明日、楽しみにしてるね。みんなで遊ぶの、久しぶりだから』
航平は、その文章をしばらく見つめていた。
みんなで遊ぶのが楽しみ。
その言葉の中には、自分も含まれている。
当たり前のことなのに、少しだけ嬉しかった。
彼は返信を打った。
『俺も楽しみにしてる。明日はよろしく』
送信してから、スマートフォンを机に置く。
そして、再びノートを開いた。
今日のことを、何か一行だけ書き残しておきたいと思った。
しばらく考えてから、彼はペンを動かした。
――何も予定のなかった週末に、誰かと過ごす約束ができた。
――それだけで、明日が少し楽しみになった。
航平は書き終えた文章を見つめ、静かに笑った。
物語の中の少女にも、こんな日があるのだろうか。
誰かと遊ぶ約束をして、翌日を楽しみにしながら眠る夜。
特別な出来事がなくても、明日が来ることを嬉しく思える夜。
もし彼女にもそんな日があったのなら、きっと書いてみたい。
悲しい結末へ向かうためではなく。
彼女が確かに生きていた時間を、残すために。
航平はノートを閉じた。
明日は、どんな一日になるのだろう。
駿は本当に秘策を用意しているのだろうか。
明里は、また駿に呆れるのだろう。
蒼太は、相変わらず落ち着いているのだろう。
そして、結衣は。
彼女は明日、どんなふうに笑うのだろう。
そんなことを考えながら、航平は机の上を片づけた。
まだ、恋と呼べるほどはっきりした気持ちではない。
ただ、明日が来ることを楽しみにしている。
その小さな気持ちを、今は大切にしてみようと思った。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
第十三話では、駿の思いつきから、五人で休日を過ごす約束が生まれました。
いつもは教室で顔を合わせるだけだった友人たちが、学校の外でも一緒に時間を過ごすことになります。
駿の勢いに振り回される明里、落ち着いて予定を整える蒼太、そして少しずつ輪の中に入っていく航平と結衣。
それぞれの性格が、何気ない会話の中に表れるように描いてみました。
また、航平は物語を書くときにも、以前とは違う視点を持ち始めています。
悲しい結末へ向かう出来事だけではなく、登場人物が何でもない一日を過ごすことにも意味がある。
そのことに気づき始めた彼が、これからどんな物語を書いていくのか。
次回は、いよいよ五人が駿の家に集まります。
何が起こるのか、そして一緒に過ごす時間が彼らの関係をどう変えていくのか。
次のお話も、楽しんでいただけたら嬉しいです。




