ミッションクリア
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ワイリーが先陣切って部屋に入る。
コンクリート打ちっぱなしの元は倉庫だった割と気密性高めの空間にはスクラップ・鉄屑・メカ型アンドロイドっぽいものの残骸が転がっていた。
「何これ」
ワイリーは革靴のつま先で頭部パーツと思しき金属片をつついた。
「違法就労アンドロイドがすぐ飛ぶ理由さ。誘拐からの解体しての人身売買。アンドロイドだから何ていうんだろう違法転売?」
「えー、同じメカ型なのにこんなことしちゃうんだ」
「人間も同じ人間を売ったりするからおあいこさ」
「あー、確かに。俺も売られた側だったわ。雪山で冷凍されてさながらマグロのように市場に直送されて」
雪山で冷凍ってオリジナルのウィリアム・カチマチは一体何をしたんだ。というか、この状況でそんな気になる話をするなよ。
「気になる?」
ワイリーが横目でにやっと笑う。
しかし、もうワイリー出生のディテールを聞いている暇はない。
「てか、エバンズのメモリもまさかこの山の中にあんの?えー…コーヤ、見つけられる?」
「もう見つけた」
俺は部屋の奥で明滅するディスプレイの方へ大股で向かう。
そして部屋の奥にMC-A146の頭部を見つけた。
頭部と脊椎代わりの太い電線がかたわらに転がっているむき出しの心臓部とバッテリーに二股でつながっている。
本当に機能する最小限って感じ。
「へぇ、賢い手だな」
ワイリーも感心したように口笛を吹く。
手足をもげば高性能メモリはもう逃げられない。
「マフィアもこうしておけばよかったのにね」
まぁ、単に組み立て直すのが面倒になっただけかもしれないけど。
「なんか頭脳労働には余白が必要、みたいな方針らしくてさ。その余白を戦闘職の俺らにも回してほしいもんだ」
俺はディスプレイに向き直り、手の甲で軽く端っこを叩くが、ブルースクリーンが瞬いたままで、内部のファンが急速に回る音しか聞こえない。
「おーい、懐かしい匂いで郷愁に浸れたかー、こら」
バシンと強めに叩くと一瞬画面から光が消え、シンプルな白い円が二つぴょこぴょことディスプレイの中央部分で跳ねた。
これ、目のつもりか?
本来の目の機能を果たすカメラはディスプレイの縁、人間でいうところの額の位置なのにさかしらな。
坊主憎けりゃ袈裟までなんたらなんだよこっちは。
MC-A146の偽物の目が困惑したように怪しげなガスマスク2人組の間を行き来する。
「あ、あんたらが今のをやったのか…?」
ワイリーがMC-A146の機体を持ちやすいようにまとめて上着で包んだ。
「何をする!」
抗議するが、抵抗するための手足がないので大人しく抱えられる。
解体した時にスピーカーを少し痛めたのか、元々古いスピーカーだからなのか、その声の音質はガサガサだ。どうせなら全身を解体するついでに喉のスピーカーも取ってくれてりゃよかったのに。機械音であってもこいつの声を聞くことさえ不快だ。
俺はできる限りの敵意を抑えて答える。
「騒ぐなよ、ドクター・エヴァンズ。あんたを助けに来てやったんだ」
「助け…?」
ワイリーが後を引き取る。
「ジーノの命令でね」
ジーノの名前を聞くと、エバンズのディスプレイに大きなバッテンが表示される。
「嫌だ!」
断りもなく音声を最大ボリュームにして来やがった。
キーンと耳鳴りがする。
「離してくれ!それならここで死んだ方がマシだ!」
「もう死んでるじゃん。ホステルファミリアがあんたにいくら掛けてると思ってんだよ」
なおも抗議しようとするエバンズのスピーカーをワイリーが片手で握りつぶす。
不恰好な機械音がスピーカーから溢れるばかりでやっと静かになった。
「ナイス」
ワイリーの肩を叩く。
エバンズは諦められないのか、無線通信で俺のメモリに直接メッセージを送ってきた。
「あんたはマフィアじゃないだろう?助けてくれ!私がマフィアの手元に戻ったら大変なことになるんだ!」
よりによって俺に助けを求めるのか。
この俺に。
「あのさぁ…」
続く言葉は出なかった。
ヒヤリと冷たい金属がうなじに触れる感触に、悪寒が背骨の上をさっと駆け上る。
だが、次の瞬間背後で炸裂音がし、冷たさはふっと離れた。
さっきまで正面に立っていたワイリーがいつの間にか横に立っていたかと思うと、また背後で金属が床に叩きつけられるような音がした。
「大丈夫、かすり傷ひとつついてない」
ワイリーが片手で俺のうなじをチェックしながら呟く。
振り返ると、両手を破壊されたメカ型がひび割れたディスプレイを明滅させながら仰向けに倒れていた。
きっとスクラップの山に紛れて気絶していたんだろう。
濃縮してあるとはいえこの広い空間では『地獄』の効果はこの程度しか続かないか。
「まだ残党がいるかもしれない。さっさとずらかろう」
「ああ…」
ワイリーに差し出された包みを無意識に受け取る。エバンズの頭部だ。
続いてたくましい腕が腰に回ったかと思うと、米俵のようにひょいとその左肩に担がれた。
自分で歩けるのに。
断る間も無く、ワイリーは駆け出していた。
いや、正確には走ってはいない。
壁に向かって射出したワイヤーを引き戻しながら高速で宙を飛んでいた。




