突入作戦のブリーフィング
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「やー、労働はしんどいもんだぜ」
ワイリーは外したカツラを俺に寄越した。
独特の金属臭と、オイルの匂い。
この金属粉は工場でついたのか、さっき破壊したアンドロイドのものか。
「おかえり、ワイリー」
化粧落としのオイルを投げて渡す。
ワイリーは片手でキャッチしてふと机の上に目が止まる。
「お、あれ美味いやつじゃん」
緑のカラコンが見つめているのは屋台で買った夕飯。
「俺の分?」
「冷めてるけどね」
「サンキュ」
「先、シャワー浴びてきなよ。食うのは作戦会議しながら」
不服そうなワイリーをシャワールームに押し込む。
5分後変装用の化粧を落としたいつものワイリーが戻ってくる。
「綺麗にやったつもりだったんだけど結構オイル飛んでたわ」
とカーキ色の繋ぎの肩口を指差しているが、正直肉眼ではわからない。
ワイリーは腰にタオルを巻いただけでどかっとベッドであぐらをかいた。
横着してベッドの上から手を伸ばしてサイドテーブルの屋台のパックに手を伸ばす様子をみるともなしに見る。視線はワイリーの鳩尾あたりの拳大の円形のライトの瞬きに吸い寄せられていく。人体に不自然に食い込んだシルバーの細いフレームの中央で、鼓動のように規則的に瞬くネイビーの弱い光。
こうやってみると本当にワイリーは機械なんだな。
「やーん、コーヤくんのエッチ!」
ワイリーは変な裏声でそう言って胸筋を両腕で隠した。
「そういうんじゃなくて…なんか、思ったより機械だと思ってさ」
「コーヤだって!」
ワイリーはこめかみを人差し指で叩いた。メモリ端子のことを言ってるらしい。
「それに俺のメカメカしさの本質はこんな表面的なものじゃない!内臓とか血管とか内部の方はこの比じゃなくメカっぽい。見せてあげたいくらいさ」
「いや、見ないけどね。…じゃあこのライト以外は機械部分てないの?電源とか?」
「格闘中にうっかり電源オフにされて気絶する戦闘員なんて嫌だろう、コーヤ!俺の電源はアプリケーションでしか操作できない。朝菊のロボコップ集団みたいにコンセント抜けば無力化できるわけじゃないんだ!」
ワイリーがドヤ顔で屋台飯を手づかみでぱくつく。
「あー、酒があれば冷めてても完璧なんだけどな!」
「まだ仕事中だぞ」
ワイリーは口の端についたソースをペロリと舐める。
「だな。打ち上げはエバンズをとっ捕まえてから摩天街でやろうぜ。ここの屋台もいいけど酒はイマイチだからな。あ、それこそアリスの働いてる店なんてどうかな?」
打ち上げねぇ。酒と聞いて一瞬Mirageがチラついたが、ワイリーを連れて行くことはないだろう。
「そういうのは終わってから考えよう。それよりさっきのアンドロイドたちから得た情報だが、おかげでエバンズの居場所がわかった」
「お、マジ?」
ワイリーの隣に座り、こめかみを押す
「ほら」
露出した端子をワイリーに向ける。
「え、いいの?」
「今更だろ」
ワイリーはイカの胴体を掴んでいない方の手を俺に向けて人差し指をUSBに変えた。
カチリと軽い音とともに接合する金属。
まとめておいたデータをワイリーに転送した。
「は〜…」
ワイリーがため息をつく。
この街の犯罪の途方もなさへの反応かと思ったら違った。
データ転送が終わったのにワイリーはUSBを抜こうとしない。
「どうしたの?まさか抜けなくなった?」
「もう二度と人間とこういうことできないのかなって思うと名残惜しくて」
ワイリーは渋々といった様子で端子を引き抜き、人差し指に戻す。
俺と組めば毎日できるよ!なんて言ってもワイリーは苦笑するだけなんだろうな。
ワイリーの感傷は無視してデータの説明をする。
「最初に送ったマップ。ここが彼らの拠点」
「ここにエバンズもいるのか〜。企業に抗議してるくせに、そこの労働者住宅を占領するとはずいぶん厚顔無恥。メカ型は顔の代わりにディスプレイな奴も多いから気にならないんだろうね!で、どの部屋?」
「2枚目の画像の通りだよ」
「地下の貯蔵庫?まさかこれ丸々乗っ取ってるの!?」
俺が頷くと、ワイリーがうなった。
「構成員は総勢二十人ほど」
「ワォ、まあまあの規模だね」
「それだけ勢力が多いからこれまで上手いことやれてたんだろう。なんなら別の労働者住宅の地下も構成員の住居みたいな感じで使ってるみたいだし」
「堂々としすぎじゃない…?」
「ここの地下空間で拐った違法就労アンドロイドを解体して売り捌いてるんだって」
「えっ…」
ネイビーの目が不安そうに瞬く。
「幸いにしてエバンズはまだいるみたいだよ。最初は売る予定だったみたいだけど、性能の高さを買われて業務を手伝ってるみたい」
「優秀なやつはどこいっても引っ張りだこだね。エバンズは墓から引き摺り出されるほどだし」
俺は抗議団体が使っているという地下空間の間取り図をディスプレイに移した。
地下空間だから入口は1つしかない。堅牢とも言えるし、袋のネズミとも言える。
「ワイリーは20人を制圧することってできる?」
「勿論!エバンズ以外の命は保証できないけど、いいよね?」
純粋そのものな視線。
この数日で薄々わかっていたけどもワイリーって根はマフィアだ。それが悪いってわけじゃない。むしろこの胆力は裏社会で生きるのに必要だ。でもこんなにもカジュアルに暴力を行使できる男が、田舎で漁師なんて無理じゃないの?なんて老婆心で思ってしまう。
この手の才能は摩天街でこそ…。
そう言いたいが、今は作戦会議中だ。
「いや、ダメだよ」
「なんで?」
物理的にはそれもありだ。きっとトードーに話を通せば、リーダーさえ確保できたら他の構成員の殺傷の隠蔽くらい手伝ってくれるだろう。アンドロイドだから殺傷ではなく毀損扱いか?まあどちらでも関係ない。
トードーに伝える気はないから。
エバンズへの接触はあくまでこっそりが望ましい。
「…事を荒立てるのは俺のやり方じゃない」
ワイリーがニヤッと笑う。
「腕利きスニッファーにはどんな有機的な策があるんだい?」
カバンの中から鋼鉄の容器を取り出し、丁重に蓋を開ける。
中には先ほどウララから受け取った2つの小瓶。
片方には白のラベルに緋文字で「天国」と書かれたラベルが貼られ、もう片方は黒のラベルに金文字で「地獄」のラベルが貼られている。
「なにこれ?」
ワイリーが触ろうとしたので手首を掴んで止める。
「それ超危ないから触っちゃダメだよ」
「OK、触らないよ」
手を引っ込めて両手を顔の前にあげるワイリー。
「でも何なのかくらい教えてくれるだろ?まさか劇物?」
「10倍濃縮の『蜃気楼』。吸ったら文字通り天国行きだってよ」
ワイリーのネイビーのネオンが瞬いた。
「ごめん、聞き間違いじゃなければ『蜃気楼』って聞こえたんだけど?」
「聞こえた通りだよ」
「な…なんで持ってるの?」
犯罪組織のドラッグ販売部門の偉い人におねだりして愛人に配達してもらった、なんてワイリーなら信じるかな?まあ、レンヤのこともミナトのこともワイリーに話す気はない。もう彼には関係ないことなんだから。
「…念のため持ってきたんだ。『蜃気楼』がらみの仕事だっていうから使うかなって」
「いやいや、持ってきちゃダメでしょ、そんな危ないもん!」
「スニッファー七つ道具の幻の八つ目」
嘘だ。七つも道具は要らない。あのアンテナだけで大体なんとかなる。
ワイリーはそういうものなのかと納得しかけてまた首を捻った。
「イヤイヤ、『蜃気楼』なんかでどうするの?あいつの脳みそが馬鹿になっちゃったら元も子もないんだよ!まさか、匂いにつられてエバンズを釣りだすとか?まさかそんなわけないか。蝶々じゃないんだから」
「いい線いってるけど逆だね」
「えっ!」
「ま、吸わせてみればわかる」
「ええっ!?」




