↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「TOKIの世界譚 」宇宙の神秘と日本神話な物語  作者: ごぼうかえる
閑話② 短編 太陽神編 「織姫と彦星の運」2010年完

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
362/401

七話

 「……で? 特典ってやつはどこにあるんだ?」

 みー君とサキは飛龍に連れられ、闘技場の奥へと進まされた。暗いトンネルを通っていると急にトンネルの壁がなくなり、真っ暗な空間に変わった。

 「もう見れるよ」

 飛龍がパチンと指を鳴らした。

 「ん?」

 指を鳴らした直後、二人の身体が浮き上がった。そのまま飛龍は消え、サキとみー君だけ残された。映像が目に飛び込んでくる。

 「なんだい? これは」

 「これが記憶なんだろうな。人間の」

 「肆の世界の記憶ってなんだい? 肆は未来なんだろう?」

 「その通りだ。肆の世界の記憶って事は時を巻き戻して何度も同じ事をやっている人間の記憶と考えられるな。肆で巻き戻した記憶はもう過去だ。つまり参に入る。ややこしいが肆の世界の記憶だが参の世界のものという事だ。こんな事通常はありえないだろ」

 みー君は難しい顔でサキを見ていた。

 「時関係でまったく壱が絡んでこないってなんかすごい世界だねぇ」

 サキも唸りながら記憶に目をやる。しばらくぼんやり映っていた映像が鮮明になった。

 「!?」

 二人はその鮮明に映った映像に映る人物に驚いた。

 「あ……ヒコさん!?」

 サキは何度も瞬きを繰り返した。

 「ああ、あのジャパゴの主題歌の……。という事はこの記憶はもう一人の少女のものか」

 「時間を巻き戻していたのはあの二人かい……」

 記憶を眺めていると花火が夜空に上がった。どうやら花火大会のようだ。近くにあった看板には『七月七日、花火大会のお知らせ』と書いてある紙が貼ってある。

 「七夕に花火大会とは……なかなか早いな」

 みー君はぼうっと夜空に咲く花火を眺めつつ、状況を読む。

 「みー君、七夕の花火大会って今日じゃないのかい? これって今日の未来の話かもしれないねぇ」

 サキの発言にみー君は大きく頷いた。

 「間違いなく今日だ。見ろ。あの男の格好」

 みー君は海辺の階段付近に座っているコウタを指差す。

 「あ、そう言えば服装が一緒だよ」

 サキはこちらを振り向いたコウタに手を振りたかったが意味のない事であると思い直しやめた。

 コウタは歩いてくるシホを見ていたらしい。今、サキとみー君はシホの目線だ。

 シホがコウタに焼き鳥を差し出す。コウタは優しく微笑みながら焼き鳥を受け取った。

 「あー……あたしにもこうやってさ、優しく微笑んでくれないかなー」

 サキは羨ましそうに口を尖がらせた。

 シホが海の方を向いたのかコウタが映らなくなった。サキはなぜか悔しそうに「もうちょっと」と言いながら手を横に動かしている。まだコウタを眺めていたかったらしい。

 「お前……ちゃんと記憶を見ろよ……。あの歌手を追いすぎだぜ」

 「みー君、黙ってておくれ! 今大事な所だよ!」

 「お前に言われたくねぇよ……」

 みー君は呆れた目で興奮しているサキを眺めた。

 夜空に花火が咲く。だんだんと花火が曇りガラスのように曇っていく。

 「……泣いてやがるな……この娘」

 みー君が曇ってよく見えない花火を眺めながらつぶやいた。

 「泣くほど感動したのかな?」

 「俺はなんだか違う気がするがな」

 サキとみー君が会話をしていると曇った映像が一瞬暗くなった。おそらくシホが涙を拭いたのだ。

 その後またクリアな花火が夜空に咲く。それをしばらく眺めていたがまた映像が揺れた。

 コウタが視界に映る。

 「お!」

 サキが嬉しそうに声を発したがコウタの表情を見てサキの表情も変わった。コウタは震えていた。下を向き、手を口に当てて必死に涙を堪えている。

 「……」

 ただならぬ状況を見ながらサキ達は言葉を失った。これはただの楽しい花火大会ではない。

 シホがコウタの手を握ったらしい。コウタが驚いてこちらを向いている。視界がまた悪くなった。

 またシホが泣いているようだ。

 コウタがシホを抱きしめた。また映像が真っ暗になる。シホがコウタの胸に顔をうずめているようだ。

 「羨ましいけどさ……なんでこんなにこの二人は泣いているんだい? なんか雰囲気がおかしいね」

 「これは何かよほどの事があったんだな。……もしくはこれからあるか」

 やがて視界が高くなった。シホが立ったらしい。となりでコウタも立ち上がった。まだ花火は終わっていないが混まない内に帰ろうなどの言葉を交わしているのがわかる。シホとコウタは手を繋ぎながら歩き出す。コウタがシホを引っ張っていっている感じだ。

 いくつか何か会話をしている感じで歩いている。街灯がない夜の道路だ。横はガードレール。そのさらに先はすべてを飲み込んでしまいそうなほど真黒な夜の海。

 急カーブの所で後ろからピカッとライトが光った。

 「車!」

 思わずサキは叫んだ。トラックは曲がり角を曲がりきれず前を歩くコウタを持って行ってしまった。映像がぐらっと揺れた。シホが何かに躓いたらしい。一瞬の事だった。

 「あ……ああ……」

 サキは怯えるようにみー君を見上げた。みー君は何も動じずにまっすぐ前を見つめていた。

 『コウタァァ! あ……あああああ!』

 シホの泣き叫ぶ声が耳に響いた。その次に見えたのが血だまり。運転手は無事だったようで慌てて出てきて救急車を呼んでいる。トラックは幸いガードレールを乗り越える事はなく、横転しただけだった。居眠り運転だったのかもしれない。

 コウタの状態はもう間違いなく助からない。出血量が多く、横転したトラックの下敷きになって身動きもできない。

 サキは膝をついた。口に手を当てて吐かないように息を大きく吸っていた。

 「サキ、わかったぞ。あの人間達は自身の運命をあらかじめ知っていたって事だ。これがあの子達に起こる未来」

 みー君は何とも思っていないのか平然と言葉をサキにかけた。

 「あんた、なんでそんな平気な顔してられるんだい!」

 「ああ、俺はそういう神だからな。もともとこういう事をやってきたんだ。台風とか、竜巻とかな」

 「やっぱり……あんたはそういう神なんだね」

 サキはみー君を睨みつけた。

 「……しょうがねえだろ。人間にとっての災害を俺が全部じゃないがそこそこ引き受けてんだぜ。こんなのでいちいちへこめないんだよ。俺は」

 みー君はふうとため息をついた。

 「……」

 サキが何とも言えない顔で下を向くのでみー君は付け加えた。

 「だが何回見ても慣れるもんじゃないな。俺だってやだぜ」

 「ヒコさんは……死ぬ運命なのかい……」

 サキは相当ショックを受けているようだ。着物の裾を掴んで唇を噛んでいた。

 「そうみたいだな。だが……その運命を人間が知っているって事が俺は問題だと思うがな」

 「せめて最後の花火くらいは楽しそうにしてほしいよ。あたしは」

 「……」

 みー君は何も話さなかったがサキをじっと見つめていた。しばらく黙っていたみー君はふと口を開いた。

 「天之導神(あまのみちびきのかみ)……運命神。一瞬映ったあの神社……。あいつ、怪しいな」

 記憶の映像はまだ続いている。しかし、シホ目線ではない。

 「記憶が続いてやがる……。誰だ……これは」

 「もう終わりじゃないのかい……?」

 みー君とサキがあたりをキョロキョロと見回す。場所はシホ達が座っていた神社が見える階段。

 「今更、こんなところで何があるっていうんだ」

 花火大会は終わっている。今は何もない。虫の声だけが響いている。

 「やっと入れた」

 ふと声がした。サキとみー君はビクッと肩を震わせた。声がやたらと身近に聞こえる。

 「誰?」

 サキが恐る恐る声を発した。声は男性のものだ。

 「……僕は天之導神(あめのみちびきのかみ)。運命神だ。この記憶に入り込んだ。あの子達を助けたいと思わない?」

 「ん? 助けたい! ヒコさんはこれからも歌を作ってほしい!」

 サキが即答をするのでみー君が慌てて止めた。

 「待て待て。そんな簡単に回答を出すな。運命神、お前が何考えてんのかわからんが……自分の言っている意味がわかっているのか?」

 「わかってるさ」

 みー君の前に運命神が現れた。運命神は岡っ引きのような格好をしており、赤い着物に眼帯をしている。黄土色の短い髪を揺らし、下駄をつっかけながらこちらに歩いてきた。

 「何が目的だ? めんどくさい事はお断りだぜ」

 「別に僕としては何か目的があるわけじゃないさ。」

 「じゃあ、なんだ」

 みー君は油断せずに運命神を睨む。運命神は表情を変えずにみー君を見つめた。

 「……」

 みー君は運命神の目を見て必死さを感じ言葉に詰まった。

 「で、ヒコさんを助けるってどうやるのさ。あたしはこの件がどうして起こったのかも知らんのだがねぇ」

 サキはもうコウタを助けるつもりで動くようだ。

 「とりあえず僕と一緒に来てほしい。ここから僕の神社に行けるんで」

 運命神は自分の後ろを指差した。運命神の後ろでは夜の神社の映像が映っていた。

 「どういう仕組みだい? 現世から竜宮に来れちゃうってさ」

 サキは興味深そうに神社を覗いている。

 「ある龍神にここに割り込めるようにしてもらった。肆の世界の記憶と竜宮の参の世界を繋いだんだ。少し色々わけありで……もしかしたらここを開いてくれた龍神、敵にまわるかもしれない」

 「なんか面倒くさそうだな」

 運命神の話を聞き、みー君はため息をついたがサキが何を言っても聞かなそうなので運命神の話だけでも聞いてやる事にした。

 「しかし、あたしらはここに閉じ込められているようなものなんだよ。現世に勝手に行ったら怒られちゃうよ」

 サキが思い出したように言った。

 「だったら、僕が連れ出したって言えばいい。僕は構わない」

 「罪を被るほど俺達に協力してほしいのか?」

 みー君の言葉に運命神はそっと目を閉じた後、大きく頷いた。

 「そうか。ならしかたない」

 みー君は彼の必死さに負けて手を貸す事にした。

 「じゃあ、あんたの神社に行くかい?」

 サキはやる気満々で運命神をまっすぐ見据えた。運命神は目を開け、再び大きく頷いた。

 サキとみー君は運命神に従い映像の中へと入って行った。


 「あっつい……」

 照りつける太陽にサキは思わず叫んでしまった。まだ七月なのにやたらと暑い。時間は午後二時くらいか。一番暑い時だ。

 「で? 結局、お前に一体何があったんだ? あの人間は巻き込まれただけだろう?」

 みー君はさっそく運命神に質問をする。

 「その通りだ。あんたも関係すると思うが……芸術神マイがやった事がはじめだ」

 「語括神(かたりくくりのかみ)か。芸術神、絵括神(えくくりのかみ)ライの姉。ライはワイズ側にいるが他はいないぜ。三姉妹だろ。確か。マイはこちらにはいない」

 「そうか。じゃあ、関係ないかもしれないな。……そのマイが人間の一生を管理しているんだけど気に入らない事が一カ所あったらしく、その修正に肆の世界でシミュレーションをした所、彼らに気づかれてしまったらしい。それから修正がきかずダラダラと彼らに合せて時間の巻き戻しをしているってわけだ。ちなみに肆の世界と参の世界をいじっているだけなので現世である壱は関係がない」

 運命神は二人の反応を見る。サキはどうでもよさそうに辺りを見回しており、ちゃんと聞いているのはみー君しかいなかった。

 「いまだに人間の一生を管理している語括がいるとはな。他の語括は今や演劇の神じゃないか。……じゃあ、今回の原因は参の世界を開いた龍神とマイという事だな」

 「そういう事。僕はそれを導いているだけだから今回は関係がないが……運命神失格だな。あの子達に情が移った。僕を信仰してくれた子達なんだ。だから助けたい。ただ、それだけ」

 運命神はすがるような目でサキとみー君を見つめていた。

 「お前がそんなんでいいのかよ……」

 「今回はいいんだよ」

 運命神の瞳を見てみー君はふうとため息をついた。

 刹那、サキ達の後ろから足音が静かに響いていた。

 「ねえ……どういうこと? 君さ、あの記憶が飛龍以外に漏れていないかの確認に行ったんじゃないの?」

 サキ達ではない女の声がした。サキ達は後ろを振り向く。

 「……?」

 麦わら帽子にけん玉を持っている少女が静かに歩いて来ていた。

 「ワイズの側近と太陽の姫君……君達は何をしにきたのかな」

 少女は表情なしにつぶやく。

 「あんたは誰だい?」

 サキの質問に少女は嫌な顔をした。

 「誰でもいいよ」

 答えたくないのか少女はそっぽを向く。その様子を眺めながらみー君がぼそりとつぶやいた。

 「……お前、龍神だな」

 みー君の言葉に少女は驚きの表情を作った。

 「……」

 「お前からは龍神の匂いがする。東のワイズのとこにいる龍神と同じ匂いがする。図星だろ」

 「ちっ。しかたない。私のもとはヤモリ。家を守る神として祈られ生まれた。名前は家守龍神(いえのもりりゅうのかみ)。元々、家を守るヤモリだった私は信仰で龍神の神格も手に入れた。人間と密接に関わっていたからかなぜか人間に見える。別に引きこもりではないよ」

 少女はふてくされたような顔でけん玉の技、秘龍のぼりけんを成功させた。

 「そんな事はどうでもいいけどさ、あんたが原因の龍神なのかい?」

 サキは龍神なのに地味だなと思いながら言葉を発した。

 「原因って何?」

 地味な少女が恐ろしい顔で睨んでくるのでサキは唾を飲み込むと口をつぐんだ。

 それを横目で見たみー君は少女を睨みつけながらはっきりと言った。

 「太陽の姫君はこう言っている。竜宮を勝手に動かしたのはお前だろうとな」

 「ち、違う。証拠はないでしょ」

 「証拠はないが……おそらく、お前の名は龍神達に知れ渡っていないだろう。だから天津も知らないんだ。飛龍は何か知ってそうだったが戻って問い詰めればお前の名が出てくるんじゃないか?」

 みー君は少女をまっすぐ見つめる。

 「いくら言っても意味ないよ。証拠はないんだからね」

 少女もみー君を睨みつける。そんな睨みあいを見つめながら運命神が覚悟を決めたように口を開いた。

 「竜宮を動かしていたのはヤモリだよ。マイとヤモリがあの二人の運命を狂わせている。僕も困っているんだ」

 「なっ! 君! 黙っているって言ったじゃない! 私がどうなるか君、わかっているはずだよ!」

 運命神の発言で少女は顔色を変えた。

 「ごめん。僕は裏切り者だ」

 運命神は少女の顔を見ずにつぶやいた。

 「私、死刑だよ! 死刑! オーナーがこんな事、許すわけないでしょ! 私が龍神だって事すら皆知らないんだから君が言わなきゃバレないんだよ! 今更そういう嫌がらせやめてくれない? 私、あの時やだって言ったじゃない! 君達が私を守るからって言ったから私は!」

 少女はおとなしそうな外見とは裏腹、運命神に掴みかかった。

 「だからあやまっているだろう。僕も一緒に死刑になってやるからさ」

 「勝手に決めないでよ!」

 運命神は少女の顔をぼんやりと眺めていた。少女の顔は怒りで満ちていた。

 「ちょっとちょっと、待ちなよ。死刑って……」

 サキは慌てて二人の間に割って入る。

 「私は死にたくないの。君と一緒にしないでよ! 無責任じゃない!」

 サキが仲裁に入ったのだが少女と運命神の会話はまだ続いている。

 「もともと、いけない領域だったんだから罰は喰らった方がいいよ。地味子」

 「地味子って言わないで! 死ぬなら君だけ死になよ! 私は絶対にイヤだよ! オーナーは私を絶対に許さない……。オーナーにバレたらおしまい……。おしまいなの!」

 少女は何かぶつぶつつぶやき始めた。

 「……そうだ。君達を全員消去してしまえば私の名が出る事はないね」

 やがて少女は一つの結論を導き出した。そして彼女はここで大凶の道を選んでしまった。

 「なんだと? やってみろよ」

 少女のつぶやきにみー君が反応した。

 「ちょっとみー君! これ、挑発したらやばいパターンだよ! あたしらが」

 サキが焦った声でみー君を止める。

 刹那、どこからか強い風が吹き、サキ達を渦巻きはじめた。

 「な、なんだ!?」

 「私は死にたくないの」

 気がつくと少女の雰囲気がガラリと変わっていた。少女が目を見開き、こちらを睨みつけた。

 その時何が起こったかはわからないが少女の意識がプツンと途切れた。少女はなぜか突然意識を失った。

轟々と風が渦巻き、ぐったりと倒れている少女を包み込む。

 「おいおい……。な、なんだよ?」

 鬼神であるみー君も突然の事に動揺していた。

 「あれが来る……」

 運命神は覚悟を決めた顔でぼそりとつぶやいた。

 「あ、あれって?」

 サキはただならぬ気に怯え、みー君の影に隠れながら質問をする。

 「見ていればわかる。あっちの彼女は龍神なら誰もが知っているはずだ」

 しばらくすると渦巻いていた風が消えた。少女がゆっくりと立ち上がる。

 「!?」

 サキは少女を見て驚いた。外見がまるで違う。別の神を見ているようだ。髪はピンク色のストレート。その頭部に龍のツノが生えており、青い瞳は冷たく暗く沈んでいる。服装もまったく違う。ワンピースだった彼女の服装が前で合せる着物みたいなワンピースに変わっていた。

 「おい……あいつは……」

 みー君は青い顔で少女を指差した。

 「あんたも知ってたか。天御柱」

 「?」

 サキはなんだかわからずみー君と運命神を交互に見ているだけだった。

 「あいつは今や伝説と言われた龍神。一度竜宮に現れ、散々暴れて突然消えたというあの龍神。俺も知り合いの龍神に連れられて奴を見物した事がある。恐ろしい奴だったが……まさかあの娘が……」

 みー君は恐る恐る運命神に目を向けた。

 「その通り。だが彼女はあの姿になっている時、意識はない。怒らせ、追い詰めるとあの姿になるらしい。僕が思うにヤモリが龍神の神格を得た時にヤモリの自分と龍神の自分がわかれてしまったのではないかと」

 「二重神格者って事か」

 みー君の言葉に運命神はこくりと頷いた。

 「ちょ、ちょっとみー君、なんか襲ってくる気満々みたいなんだけどさ……。どうするんだい?」

 やや呑気に会話をしている二人にサキが怯えた声を上げた。

 「どうするって……どうしようか」

 みー君はガラリと変わってしまった少女を戸惑いながら見つめた。少女は無言、無表情でけん玉を水剣に変えると突進してきた。水の剣はどういう仕組みなのか鉄よりも硬そうだ。

 「わああ!」

 「サキ!」

 少女はサキに襲いかかった。サキは太陽神の剣を出し、水の剣を受ける。みー君はサキを少女から離すため、突風を起こしたが少女は剣を持っていない方の手から雷を発生させ、みー君が起こした突風をはねのけた。雷はそのままみー君を貫いた。

 「痛ってぇ!」

 みー君は大きく吹っ飛ばされたがすぐに起き上った。

 「大丈夫か? 天御柱」

 運命神がみー君の側に駆け寄ってきた。

 「お前はなんかできないのか? あれ、かなり強いぜ。いたた……」

 「……一日二回までしか使えないけど神の運命なら少しいじれる能力はあるよ」

 運命神はまっすぐサキを見つめた。サキは怯えながら少女の攻撃を避けている。かなり危なげだ。

 「ゲームの必殺技みたいだな! よし。とりあえず破壊が激しいのでこの神社に結界を張らせてもらう」

 みー君は薙ぎ払われた敷石をちらりと視界に入れながら鳥居に手を添えた。

 みー君が手を添えた刹那、神社の空間は消え、ただの真っ白な空間になった。

 「あんたはずいぶんと細かい結界をつくる事ができるんだな。これで僕の神社が破壊されなくて済む。鳥居に手を添えるだけで結界ができるなら僕も最初にやればよかったな」

 運命神は真っ白な空間を見上げながらみー君と言葉を交わした。

 「これには高等な技術がいるんだ。俺あたりの神格を持ってないと辛いぜ」

 みー君はどこか誇らしげにふふんと笑った。

 「ちょ! みー君! 笑ってないで助けておくれ!」

 気がつくとサキが悲鳴を上げていた。サキは雷を避け、水の剣を避け、暴風雨に吹っ飛ばされていた。

 「すまん。今助ける」

 みー君は慌ててサキの元に駆け寄って行った。みー君は雷を鞭のように動かし、少女にぶつけた。同時に竜巻も発生させ、少女をサキから大きく離した。

 「こんなんじゃ全然効かないか」

 みー君は無傷で立ち上がる少女を戸惑った目で見つめた。

 「飛龍より……強いんじゃないかい?」

 「強い。だが俺は女神を傷つけたくはない。本気は出せないな」

 「飛龍をボコボコにした神が何言ってんだい」

 「あれはゲームだっただろ」

 サキの視線に耐えられずみー君は下を向く。

 二人がそんな会話をしている時、運命神は右目の眼帯をとっていた。右目は真っ白で瞳があるのかもわからない。

 「……左は生命の運命。右は神、霊魂の運命……。神や霊魂は運命があるのかないのかはっきりしないために真っ白だ。その真っ白な目で二回だけ僕は神の運命を自分の思い通りに導く事ができる」

 二人に説明しようと声を発したのだが二人ともそれどころではないらしい。運命神は構わずに白い瞳でサキとみー君を視界に入れる。

 ……二回の内、一回はまだ残しておきたい。導くのであれば天御柱と太陽の姫君よりも地味子がいい。地味子には負けてもらうレールを引き、二人には勝利してもらう。地味子には申し訳ないが彼女は元々この神社で大凶を引いた。しかたないという面で流してもらおう。

 「地味子……! ごめん!」

 運命神はそう叫ぶと右目を少女、地味子に合わせた。地味子の青い瞳が運命神の目と重なり、白く変わる。

 「……!」

 みー君とサキは地味子の微妙な違いに気がついた。

 相変わらず暴れているが何かが変わったのは事実だ。

 「……うっ……」

 運命神は低く呻いた。

 ……これは強い神が相手ほど自分に負担のかかる術……。

 ……正直きついな……。

 運命神は重くのしかかる重圧に必死で耐えていた。その間、みー君とサキは地味子の攻撃を避けている。

 地味子は無数の雷を操り、容赦なくサキ達にぶつける。竜巻を起こし、雹を降らせ、散々に暴れていた。何の声も出さず、表情も変わらずに地味子は動く者相手に攻撃をしている。

 「みー君!」

 「なんだ?」

 「あたし、雷ダメなんだよ……。なんとかならないかい?」

 サキはゴロゴロ鳴り、ピカッと光る雷にビクビク怯えながらみー君を見上げた。

 「雷は全部俺が当たってやるからお前はそのままヤモリと戦え」

 「みー君……あんた、冷たいね。もっとこう……僕が耳を塞いであげる、もう怖くないでしょとか言ってみたらどうだい! できれば天御柱様で! それか勇敢にもう雷やめてください! とか! できれば天御柱様で!」

 呆れた顔をしているみー君にサキはブスッとした顔でつぶやいた。

 「アホか! こんな状況でそんな事やれるか! お前の余裕あるなしは相変わらずわからないな。頼むからこんなところであのゲームを持ち出さないでくれ! それにあれに雷やめてくださいって言っても意味ないしな……。それより雹だ。こいつは痛い……」

 みー君はサキの頭上を両腕で覆い、傘の役割をしてやっていた。

 「みー君、あんた、不器用だね。そういう優しさがあたしは好きなんだよ」

 「うるせぇよ!」

 サキの発言にみー君は照れながら叫んだ。

 「いいよ。みー君にばかり頼れないからあたし頑張るよ。まあ、どうあれヒコさんを助けるっていうのは変わらないしねぇ」

 「じゃあ、俺はお前のまわりを風で覆って雹に当たらないようにしてやる。で、雷は俺が全部あたってやる」

 サキはみー君の言葉にうんうんと頷くと地味子に向かい飛んで行った。みー君はすぐにサキの身体を風で覆い、雹を弾き返す。襲ってくる雷をすべて自分からあたりに行った。

 「やっぱ痛いな……」

 みー君は元々風なので雹などの攻撃はあまり効かない。しかし、雷は効いてしまうらしい。たいしたダメージではないが痛みを伴うようだ。

 「みー君、やるねぇ! かっこいいよ」

 「お前は呑気でいいよな」

 剣を振りかぶるサキにみー君はため息をついた。

 「さあ、ヤモリ。ちょっとおとなしくしててもらおうかね!」

 サキは剣を地味子に向け薙ぎ払う。地味子は水の剣を使い、サキの剣を受ける。しかし、地味子は運悪く、水の剣を落としてしまった。サキは好機だと判断し、炎を巻きつけた剣を思い切り振りかぶった。地味子はまたまた運悪く水の剣を拾おうとしてサキの炎に気がつかずにあたった。

 「!」

 そして気がついた時にはもう遅く、地味子はサキの剣に叩きつけられた。地味子は運悪くサキにやられた。

 そして地味子は元の地味子に戻った。意識は戻っていない。

 「あれ? けっこうあっけなかったねぇ……。あたしが強すぎたのかね?」

 サキは呆然とその場に立ち尽くしていた。ここまで簡単に倒せるとは思っていなかったのでやや本気でぶつかってしまったのだ。

 「馬鹿言うな。お前の力も相当なものだが今回はあそこで苦しそうにしている奴のおかげだな」

 みー君は心配そうに運命神を見つめていた。

 「運命神? 大丈夫かい?」

 サキは慌てて運命神の元へ駆け寄る。地味子は大丈夫そうだったので放っておいた。

 「いや……しかし、この龍神もとんだ災難だな。俺はかわいそうでならないぜ……」

 みー君はサキとは逆に地味子の方へと向かった。

 「大丈夫かい? 運命神!」

 運命神は肩で息をしていたが大丈夫そうだった。サキは運命神を立たせてやった。

 「大丈夫。ありがとう」

 運命神は一言サキにお礼を言うと眼帯を震える手で付けなおした。かなりの疲労感が彼を襲っているらしい。

 サキが背中をさすってやっている間、みー君が地味子をダッコして歩いてきた。

 「みー君、彼女の方は大丈夫かい?」

 「大丈夫そうだ。怪我はしていない。気は失っているがな」

 心配そうに見上げるサキにみー君はため息と共につぶやいた。

 「運命神、あんた、何をしたんだい?」

 サキはだんだんと呼吸が戻ってきている運命神に尋ねた。

 「ああ。地味子の運命を少しいじらせてもらっただけだ」

 「そんな事ができるのかい!」

 サキの驚いた声を聞いて運命神はふうとため息をついた。

 「さっきも説明したがいじれるのは神だけでしかも一日二回だ」

 「ごめん。全然聞いてなかったよ」

 サキの言葉に運命神はさらにため息を重ねた。

 「とりあえず、この女は寝かせておくのか? お前、まさかわざと挑発したんじゃないよな?」

 みー君が地味子を寝かせながら運命神を仰ぐ。運命神は頭をポリポリかきながら控えめに頷いた。

 「寝ててくれた方がいいと思ったんだ。僕に戦闘の技術はないからあんた達に倒してもらう予定だったんだよ。地味ちゃんは地味に強いからね。怪我しないようにさ、『怪我しないように負ける』ってレールを彼女に引いたんだ」

 「お前なあ……」

 あきれ顔のみー君を見ながら運命神は申し訳なさそうに下を向いた。

 みー君が他に何か言葉を発しようとした時、足音がしている事に気がついた。

 「おい……誰か来て……」

 みー君がそう言った時、聞き覚えのある声が後ろでした。

 「な、何これ……?」

 サキ達は咄嗟に声の聞こえた方を向いた。真っ白な空間の視界の先では少女と少年が驚いた顔で立っていた。シホとコウタだ。

 「まずい! 霊的空間である結界を張ったままだからあの人間達に俺達が見えちまう! 物の破壊以外考えてなかったからあの子達は簡単に入って来れたのか。すぐに解除を……」

 みー君が鳥居に向かい走り出したが運命神が止めた。

 「待ってくれ。僕は彼女達に話がある。あんた達はどこかに隠れていてくれ」

 運命神は静かにそう言った。

 「じゃあ、あたしも隠れてた方がいいのかい?」

 「当たり前だろ! もともと見えない存在が見えたらまずいんだよ! まあ、お前は人間に見えるけど一応な!」

 みー君がぼうっとしているサキを引っ張り、地味子を抱えるとぼんやりとだけある鳥居の後ろに隠れた。

 「みー君、そんなに人間に怯えなくてもいいんじゃないのかい?」

 「お前がいたらややこしくなるだろうが。それに俺は人間に不幸をもたらす存在だ。下手な干渉であの子達が酷い事になったら困るだろう」

 みー君はどこか必死にサキに向かい語っていた。

 「ああ、なるほど。あんたのそういう所、あたしはけっこう好きだよ」

 「お前、なんでもストレートなのな……」

 サキはニヤニヤと笑いながらみー君を見つめる。みー君はプイッとそっぽを向いてしまった。

 二人がこそこそと隠れている中、運命神は少年少女の方へ向かっていた。

 「……?」

 目の前にいきなり奇妙な格好の男が現れたのでシホもコウタも驚いていた。

 「僕は運命の神。天之導神(あめのみちびきのかみ)だ」

 運命神はそれだけ言った。

 「運命の神? この神社の祭神! 地味子が見えたんだもんな。ここの神が見えてもおかしくなかったのか?」

 シホは若干戸惑いながら運命神を見つめた。

 「う、運命神。俺の運命を決めたのもあんたなのか」

 コウタもシホ同様戸惑いながら運命神を見つめている。

 「まあ、そうだね。僕が導いている」

 運命神が何の感情もなしにつぶやいた。神が人間に接触する時は感情を交えてはいけない。それは人間が神の定義としてそう決めたのだ。運命神も未だにそれを守っていた。

 それがシホにとっては許せなかった。自分達の運命はこの神に握られており、この神は人間の生を何とも思っていないのだと捉えた。

 神達の都合で自分達の人生が狂わされた、自分にとってはあまりいい人生とは言えなかった、なんでコウタが死ななければならないのか、自分がやっとの思いで掴んだ幸せがこんな簡単に消し去られてしまうのか……色々な思考がシホの頭を駆け巡った。怒りと空しさ、憎しみがシホの心でじわじわと大きくなっていく。


 ……自分の人生がどうなろうともう構わない!この神がうちに何か罰を与えたとしてももう構わない! もう我慢できない。


 シホは怒りの感情のまま、運命神の胸ぐらを掴んだ。

 「ふざけんな! てめぇがうちらの人生を狂わせたんじゃねぇか! 何とかしろよ! うちがこんな人生だったのもあんたのせいなんだろ! お前がいなければうちらは……うちは! 今も家族と平和に暮らしてて! コウタとも笑い合って! 花火見て!」

 悔しさを押し殺した声で叫びながら運命神を押し倒す。

 「コウタが死ぬ事もないし! 何度も繰り返す理由なんてなかったんだ! うちも腕折られたり、バッドで殴られたりしなくて済んだんだ! 親父の運命を壊したのもあんたなんだろ! あんたがうちから全部幸せを奪って行ったんだ! あんたが!」

 シホの頬を涙が伝う。運命神はただ、じっとシホを見つめていた。

 「なんだよ! 返す言葉もねぇのかよ! なんとか言えよ! このクソ野郎!」

 シホは運命神を殴った。何度も殴った。しかし、運命神の表情は変わらない。

 「このっ……」

 シホがまた殴りつけようとしたのでコウタがシホの手を掴んだ。

 「っ……! 何すんだよ! コウタ!」

 「シホ。相手は神様だぞ」

 コウタは静かにシホに言った。

 「それがなんだよ! うちは我慢できない! うちの人生なんてもうどうなってもいいんだ! こいつは殴らなきゃ気が済まない! 殴るだけじゃおさまらない!」

 シホはコウタに叫んだ。

 「自分の人生がどうなってもいいなんて言うな! 俺はここまでだけどお前にはまだ先があるじゃないか! 俺はお前が少し羨ましいんだ……。まだ先があるお前がな……」

 コウタはシホの腕を引っ張り、運命神から引きはがした。

 「コウタ……」

 シホは呆然とコウタの顔を見つめていた。

 「……その神様だって色々苦労してるはずだ。お前に対して素直に殴られてくれたんだ。なんか別の事情があったかもしれないのに何も語らない。神様って立派なんだな……。俺も見習いたい。……もう言ってもしょうがないけどな……」

 コウタは沈んだ顔で倒れている運命神を見据えた。

 運命神は切れた唇を手でこするとまた表情変えずに立ち上がった。

 「……やりきれない気持ちもわかるがこれは運命だ。僕が現れたのは君の行き場のない怒りを僕が引き受けようと思ったからだ。僕は運命神。これが仕事だ」

 運命神はシホに向かい、一言つぶやいた。

 「……」

 「シホ、俺とお前を引き合わせたのもここの神様のおかげだ。あの家族からお前を救ったのもあの神様だ。俺はそう思う」

 コウタはシホの背中にそっと手を置いた。

 「……そんなのわかんないじゃん」

 シホは拳を握りしめて運命神を睨みつけている。

 「それは僕が言える事じゃない。僕は運命を導くだけ。その他の事はできない」

 運命神は目に涙を浮かべているシホに優しく言葉をかけた。

 「じゃあ、うちはどうすればコウタを助けられるんだ! 教えろよ!」

 「……それは運命に従いなさい。僕から言える事はそれだけだ」

 「……」

 運命神の言葉にシホは両手で顔を覆いながら泣き叫んだ。

 「ごめんね……」

 運命神はひどく切ない顔で一言そうつぶやくとみー君に向かいアイコンタクトをした。みー君はアイコンタクトを受け、すぐに結界を消しにかかった。

 早生まれのセミの鳴き声がジワジワと戻ってきた。白い空間は徐々に消え、松の木が現れ、お賽銭箱や社が現れ、あっと言う間に元の神社に戻っていた。

 運命神は泣き叫ぶシホをただ黙って見つめていた。もう彼女達に彼の姿を見る事は不可能だ。

 コウタはシホの肩に手を添えるとただひたすら泣くシホと共に歩き出した。鳥居をくぐり、階段を降りて行く少年少女の小さくなった背中を運命神は胸が締め付けられる思いで見つめていた。

 「ねえ、ちょっとあれで良かったのかい? 助けようとしてたのに散々殴られてさ」

 サキがうかがうようにひょこひょこと近づいてきた。

 「……。あれでいい。どうせ僕は何もできない。交渉はマイにかかっている」

 運命神は殴られた顔を撫でながら頭を抱えた。

 「どこへ行っても交渉だな。神の世界は。お前は立派だったよ」

 みー君は呆れながら運命神の肩を叩いた。

 「マイって芸術神、演劇の語括だね」

 「それもさっき言ったじゃないか……」

 「ごめん。聞いてなかったよ……」

 運命神はまたもため息をついた。

 「……ん?」

 そんな会話をしていた時、みー君がいち早く異変に気がついた。

 「おい!」

 みー君が叫ぶのと空間がゆがむのが同時に起きた。急に世界がひっくり返ったような感覚をサキ達は覚えた。

 「な、なんだい!?」

 サキが素早くみー君の影に隠れた後、すぐに女の高笑いが聞こえた。

 「なんだ。ちゃんとうまくいくじゃないか!」

 「……?」

 どこからともなく聞こえてきた女の声にサキ達はあたりを見回した。

 「誰だ?」

 みー君が鋭い声で尋ねた。

 「わたしは語括神マイ。芸術神演劇だ」

 女は丁寧に答えた。姿はまだ現れていない。

 「お前が原因か……」

 みー君はどこにともなく声を発する。

 「まあ、そうだ。しかしおもしろいものを見せていただいた」

 声が突然近くなる。刹那、金髪の少女が現れた。顔に浮かぶのは嘲笑。白い着物が夏の青空に映える。

 「……マイ……?」

 運命神はマイの雰囲気の違いに驚いていた。

 「やはり演劇はリアルでなくてはな」

 マイは興奮を抑えきれていないのか楽しそうに笑っていた。

 「……?」

 「おや、わからないか? わたしがやった事が。これは素晴らしい。さらに素晴らしい。このまま素敵な演劇をわたしにみせてくれ」

 笑うマイに運命神の顔色が変わった。

 「お前……まさか……」

 「やっと気がついたか。そのリアルな表情もたまらない。これから起こる悲しみのストーリーの前戯として最高だ」

 マイはまたクスクスと笑う。

 「……お前は真面目な語括だ。そんな事するわけないよな? マイ……」

 「ああ、至って真面目だ。人間の運命の修正を頑張ってやっているのだからな。他の神にも協力してもらってな。ああ……自分もストーリーに入り込めるというのもなかなかいいものだ……」

 マイは満足そうに目を細めた。運命神はそんなマイを見て顔を青くした。

 サキとみー君はマイが元々どういう者かわからなかったので状況を見ていた。

 「お前……僕も地味子も騙してたのか? あの子達も騙してたのか?」

 「騙してはない。本当はシホという娘が死ぬ運命だったのだ。肆でシミュレーションし、色々と頑張ったらコウタが死んだ。そしたらこちらの方が本物だったとわたしは気がついたのだ。コウタの続章はそれはつまらないものだった。しかし、シホの続章はなんと面白い事か。しかし、シホが納得してくれず何度もやり直す形になったがわたしが運命を変えない限り変わらない。まあ、彼女にとっては気休め程度」

 「という事はだ。お前はわざとこのデカい演劇をするために二人の運命をいじったのか。自分が演劇を楽しむためだけに少年少女に近づき、地味子を操り何度も何度も……。地味子は何かの手違いでシホが死んでしまうと思っているぞ。お前がそう言ったんだろう?本当はお前がいじってコウタが死ぬ運命を作り上げたっていうのに地味子はあの少年が死ぬ方が正しいと思っている。すべてお前が作り上げた演劇が招いた事だろう」

 「それは言えないがわたしは人の生きる道を敷く神だからな。別に悪いことじゃないだろう?」

 「ちょっと待て」

 運命神とマイの会話に無理やり入り込んだのはいままで状況を見ていたみー君だった。

 「……?」

 「人間の運命は生まれる前から決まる。昔はお前達がやっていたようだが今は人間の運命を管理できる神はいない。こういう問題が多数起こったからだ。芸術神はこういうやつばかりだからな。今は人間の運命を勝手にいじるのも勝手に作るのも違法だ。俺はワイズからそれを聞いた事があるぞ。語括」

 みー君は仮面をつけ直し、冷たい声で語る。

 「え?」

 運命神が疑う目でみー君を見つめた。

 「お前も地味子も現世に長く居すぎたせいで法が変わった事を知らないんだ。マイは知っていたはずだ。なんせ、お前の妹はワイズ軍にいるからな。絵括神ライが……な」

 「ふむ。妹がいるのはその通りだ。しかし、それはわたしも知らなかった」

 マイはしれっと言葉を発した。

 「知らなかったのか?」

 「ああ」

 みー君の問いかけにマイは一言そう言った。

 「だが、これは違法行為だ。今の話を聞くとお前は自己目的で娘の方の人生を見たいと思ったと。これはいかんだろうが」

 みー君は仮面で表情がわからなかったが声のトーンは無機質だった。

 「これはこれは扱いにくい神を選んでしまったな。こういう演劇も悪くない」

 「……」

 みー君とマイはじっとお互いを見つめ合っている。それを眺めながらサキはどうすればいいか考えていた。

 ……みー君はマイと交渉しているつもりなんだろう。みー君からしたらこの件、黙っててやるからあの二人の状態を元に戻せと言っている。マイは断固拒否している。

 あたしがやる事は……なんだろう?

 そう考えた時、サキはすでに走り出していた。

「おい!」

 みー君が叫んだ気がしたがサキは気にせずに階段を駆け下りる。もう日は沈みはじめ、海辺の神社はオレンジ色に染まっていた。サキはただひたすら花火大会の会場に向かい走っていた。

 ……あたしがやれる事は何もない!

 でも……みー君達を信じる事でやれる事はある!

 もう準備を始めている屋台を通り過ぎ、場所取りをしている人々を通り過ぎ、サキはオレンジ色に染まる海岸であの二人を探した。

 必死で探していると二人で寄り添って座っている影を見つけた。

 「えーと……シホさんとヒコさん!」

 サキがそっと声をかけると寄り添っていた少年少女が肩をビクつかせてこちらを向いた。

 少年少女はコウタとシホだった。

 「あ、あんたは……ジャパゴ祭の……」

 シホが口をパクパク動かしながらサキを見ていた。

 「そう。あたしはあんたらに言いたい事があって来た」

 「なんだよ?」

 「シホ……言葉遣い……」

 コウタの言葉も半ば無視でシホはサキを見上げた。シホの目はもうすべて何もかもあきらめていた。

 「あんたは夢でヒコさんが死ぬ所を見たんじゃないのかい? その夢を信じてヒコさんが死んでしまうからと何度も時間を巻き戻していたにすぎないだろう?実際を見た事はあるかい?」

 サキはシホを見据えてはっきりと声を出した。

 「もうやめろよ……。あんたも神様なんだってね……。何度も何度も希望持たせるなよ……。もう静かにコウタとの最期を楽しませてよ……」

 シホは暗い瞳でコウタに寄り添う。コウタも反応に困りシホに寄り添った。

 「最期じゃないかもしれないのに最期って決めつけてこの花火大会を送るのかい? そんなの全然楽しくないと思うんだけどさ。あたし、ヒコさんのファンなんだよ。だから今全力であんた達二人が生き残れるように頑張っている。あんた、見た感じ、あきらめ悪そうだし頑固そうだよ。それなのに簡単に諦めちゃうのかい?」

 「あんたに何がわかるんだよ! 神様なんて結局は人間よりも高い所にいて人間をあざ笑っている存在なんだろ! うちらをみて楽しんでんだろ! ……いいよ。もう。うちはどうせ神なんて信じてなかったんだ。……あんた達……なんでこの世界にいんの?」

 シホは憎しみのこもった瞳でサキを睨んだ。コウタが必死でシホをなだめているがシホはサキしか見ていなかった。

 「……あんた達が願ったからこの世界にいるんだよ。あたしらはね。……あんたがどう思おうが別にいいけどさ、運命神はひどく心を痛めていたよ。人間と関わる時は感情を出してはいけないって昔から言われていてねぇ、まあ、そのルールもあんたら人間が決めたんだけどさ。彼はそれを守ってただけだよ。本当はあんたらを助けたくて必死だったんだ。あんたは自分の事ばかりで一方的に殴ってたけどさ」

 海風がシホとサキの頬を撫でる。

 「それをうちらに言いにきたってのか? ご苦労さんで。そんな事言ったってコウタは助からない。そんな事言われても逆に困るんだよ!」

 「シホ、もういい加減にしろよ」

 コウタがシホを止めたがシホはコウタを睨みつけた。

 「なんでコウタはそう冷静でいられるんだよ! あんた、死ぬんだよ! わかってんのかよ! あんたと一緒にいたいって思ってるのってうちだけかよ! あんたは死にたいって思っているわけ?」

 シホがコウタに掴みかかった。コウタはシホの手を思い切りはたいた。

 「いい加減にしろ! もうやめてくれ!」

 コウタは苦しそうに叫んだ。シホははたかれた手を撫でながら切ない瞳でコウタを見つめた。

 「コウタ……ごめんね……」

 「……俺に当たってどうするんだよ。今のお前は話しかける人すべてに当たっているだけだ。少し頭冷やしてくれ。俺は最期を静かにむかえたい。それから……お前には笑って俺を見送ってほしい。花火も……せっかく場所取りしたんだ……こんなんじゃムード作れない。最期がこんなんじゃ俺、やだよ……」

 コウタの背中が震えていた。声も涙声だ。シホはコウタの手を握ろうとしてやめた。そのままオレンジ色に染まる海を眺めていた。

 「……とにかく、これから神を信じなくてもいい……。でも今回は信じておくれ。運命神がこの運命から救ってくれる。強く願って花火を楽しんでおくれ。あんた達は信じるだけでいい。絶対ヒコさんは死なせない。だから……」

 サキはオレンジ色に光る瞳でサキとコウタを見つめた。太陽に照らされたサキはとても神々しかった。シホとコウタはサキを美しく思ったと同時にサキに力強い太陽の力を感じた。

 「……本当に……信じていいのか……?」

 シホは目に涙を浮かべながら情けなく声を発した。

 「信じておくれ」

 サキは大きく頷くとシホとコウタから走り去って行った。残されたシホとコウタは走り去るサキとオレンジ色に照らされている海岸をぼんやりと見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。