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六、鬼神ジーク・フリーズ(二)

                  ※

(何者だ、こいつら)

 部下と共に館の外へと踏み出したハンス・リックは、ズラリと並んだ荒くれ共の存在に眉をひそめた。ブルドーザーやダンプ、そしてフォークリフトと開発途上の星にはつきものの工事専用車を乗りつけての彼らの御登場は、見ようによっては滑稽でさえある。

少なくとも館から五キロ四方にはなにもない荒地である。ダンプはともかく、ブルドーザーなどをそれより先の場所から乗りつけてきたとすればさぞ御苦労なことである。いずれにしろ、ダンプ三に、ブルドーザー、フォークリフトを各一台揃えてやってきたこの連中は、館の前を囲むようにして車を並べていた。土木関係の人間であることは間違いなかろう。

「なんだ、お前たちはっ!」

 酒の入っている隊長の代わりにと、三十半ばの最年長の隊員が怒鳴った。

「ここは私有地だ。それを断わりもなしにやってくるとはどういうつもりだ!ザックス土木の連中なら、報酬はとうに払っているはずだぞ。早々にここを立ち去れっ!」

いい所を見せたかったのだろう。腰のサーベルを抜いて相手を威嚇してみせた。これがまずかった。

「やかましいやい、ザックスの連中がなんぼのもんやっ!」

「ザはザでも、こっちはザトペック土木のもんじゃい!」

「元を正せばここら辺の土地はウチらが開発しとったとこじゃい!それを欲ボケのザックスが地球ほんごくのお偉方に泣きついて、ゴリ押しで買い叩いたんじゃないか!今日という今日こそは、ここの土地を返してもらうでっ!」

 十数人はいる男たちが口々に叫び、収拾のつかないありさまとなった。なかにはサーベルを抜いた隊員をからかって、そんなヘロヘロ刀で斬れるものなら斬ってみやがれと嘲笑の的にする者も出てきた。囃し立ての大合唱となった。

「お、おのれ、言わせておけばっ!」

 歯ぎしりせんばかりに悔しがったがどうすることもできない。鎮圧しようとすれば、全員が軍隊あがりの面々であるだけに難しくはなかろう。どうしましょうと、不安げにハンス隊長のほうを振り返ると、

「甘いな、そんなことでは人の上には立てんぞ」

 下がれと顎をしゃくり顔を赤くしたハンスが前に出ると、ひっこめという怒声が響いた。ダンプのヘッドライトに照らされて、まぶしげに手をかざした隊長はゆっくりと無頼漢たちを見回した。

「あ~、諸君。君たちがどういう訳でここへ来たかは大体わかった。だが、言っちゃ悪いがここはオレたちが高値で借りたところでなあ、出て行けと言われても出て行けんのよ。わかったらサッサと立ち去ることだ。さもないと痛い目を見るぜ」

「なんじゃと、こらあ!」

「痛い目見せられるんなら、見せてみんかいっ!」

「その代わり、お前のドタマかち割ったるぞっ!」

 なだめるどころか逆に挑発するようなセリフに男たちは気色ばんだ。一触即発の状態で、全面戦争は避け難いかに見えた。

 ズキューパリ~ン!

銃声が鳴り響くと、あれほどの騒ぎがなんなく静まったのは考えてみればおかしなものだ。ダンプのヘッドライトが片方、その瞬間に砕け散った時居並ぶ者たちの間に冷たい緊張が走ったのは事実だった。

「さて、と、オレ様の頭をかち割るとおっしゃったのはどこのどなたかな。望み通りにしてやるから、早く前に出な。それとも一人ずつ頭にこいつを撃ち込んでやろうか」

 静かだが明らかに殺気のこもった口調で、ハンスは拳銃を荒くれ共に見せつけた。形勢逆転である。振り上げていた拳をどこへ収めたものかと、宙ぶらりんの形でいる者が何人もいた。

「安心しろ。眉間を撃ち抜けば楽に死ねるよ。まあ、ちと薄暗いから当たる場所がそれるかも知れんが、見えやすい所へ出ればその心配もない。おい、そこのダンプの横にいるお前、もう二、三歩前へ出てみろ。そうすれば狙いやすくなる」

 ハンスが声をかけたのは、松葉杖をついた男であった。片足が包帯で巻かれているさまは痛々しく、ここまで来るのは一苦労だっただろう。その男に注目が集まった。迷惑なのは本人で、

「えっ、あっ…おれ?」

 頼みもせぬのに指名されてしまい、どうしてよいかわからず助けを求めようとキョロキョロした。が、他の連中は自分たちこそ標的にされるのではと恐れて微動だにしない。

「まあいい、そのざまでは動くなと言っても動けまい。一発で終わらせてやるから、お祈りでもしておけ」

 片頬を歪めて笑みを浮かべるハンスは楽しそうであった。人の命を奪うことを、まるでゲームでもするかのように思い込んでいるそんな様子なのだ。ガチャリと撃鉄を鳴らし、相手の眉間へと狙いを定めると……。

「バンッ!」

 その瞬間、恐怖で顔をひきつらせていた松葉杖の男は、プワ~ッと杖を放り出してしまい、包帯でグルグル巻きの片足が事もあろうに率先して動き、意味不明な悲鳴と共に駆け去っていった。これがきっかけとなり、完全に気を呑まれた労働者たちはもはや留まることもなく、ある者は何度も転びつつ這いずり回り、またある者はダンプをバックさせたまま仲間を危うく轢きかけ、中にはあろうことか大小便を垂れ流してお母ちゃ~んと泣き叫び逃げていく者もいた。

「フン、口ほどにもない」

 実際には発射させず、口真似だけで荒くれ共を撤退させたハンスは、引き上げるぞと顎をしゃくった。

哀れなのはザトペック土木の連中で、各々が悲鳴を上げながら全速力で逃げていったが、

「こらあ、逃げるなっ!返せ~戻せ~っ!シン!てめえ足ィケガして動けないってぬかしてたのはどこのどいつだ!人より先に逃げやがって、親方に言いつけてやる言いつけてやる言いつけてやるぅっ!待てえ、おれぇ置いてくなあ~!やだあ~、死にたくねえよぉ~っ!」

 逃げる仲間の行く手を阻むつもりでブルドーザーを操っていたが、もはや自身が訳がわからなくなっていた。操作を誤ってクルクルと車体を回しているうちに振り飛ばされてウヒャ~という悲鳴とも歓声ともつかぬ叫びを最後に落下した。その後で血走った形相の連中がやって来たからたまらない。逃げる間もなく、次から次へと背中といわず頭やら手足やら踏みつけて駆けていくものだから、

「ギイヤヒャ~ッ!」

 阿鼻叫喚の叫びがだだっ広い荒地に遠吠えのように響いていった。


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