第2話 決意
(回想)
放課後、私と麗奈には教室に居場所がないなりに、近くのショッピングモールのフードコートで二人で話をしていた。
だいたい、放課後はいつもこんな感じだ。麗奈がいじめられないためにも、私は彼女を誘うようにしている。
私も麗奈も部活に入っていないので、丁度良い。
「あのさ、・・・今日も大丈夫だったの?」
とはいっても、やられていることはいつもと同じ。
黒板に「ビッチ」とか「ヤリマン」とか書かれたり、男性教師と付き合っているとか、テストの点を媚び売って買っているとか、そんな根も葉もないことばかりだ。
あとは、筆箱を水浸しにされたり、教科書を隠されたり、
ほんと、どれも悪質で幼稚なものだ。
「あなたに心配されなくても私は大丈夫よ」
私も、彼女が強がりでそういうことを言っているのではない、ということがなんとなくわかるようになった。
「でも、心配というか、」
「心配なんて、しなくて大丈夫よ。万事心配なさるな」
変な言い回しで冗談めかして言う割には、彼女の顔には表情がない。
「でも、・・・ほんとは無理してたりしないの?」
今思えば、そんな一緒にいるときに無闇に暗い話題を引き出さなくても良かった、というかむしろ私が良くなかった。
これも、私が人付き合いが苦手な所以だ。
でも、麗奈はそれを気に留めたりすることなくこっちに目をやってから「これが、私の役目なのよ」と言った。
「賢く生まれた人間は、結局は馬鹿に付き合って死んでいくしかない。でも、これで他の頭の悪い人たちに「いじめるのって、馬鹿らしいな」って思わせられれば、それでいいと思わない?」
「そ、そんなわけないよ!もっと、自分のやりたいこととか、やればいいじゃん!!」
私は、そう反論した。
「結局、世の中を動かしているのは皆馬鹿ばっかり。でも、私は馬鹿のことを羨ましいとは一度も思わないからいいんだよ。イジメてくる彼女たちも、所詮は馬鹿。いじめっ子でも、所詮はただの馬鹿。それだけ。それに、馬鹿の苦しみは私が一番分かるわ。頭が悪く生まれてしまって、それがどれだけ苦しいことなのか。賢いから、彼女たちの気持ちは手に取るようにわかる」
だからって、
自分の人生をなげうっていいわけではないだろ。
「それよりも、あなたこそもっと自分の人生を生きるべきだわ」
「いや、まあ、・・・別に私は大丈夫だよ。友達もいないし、・・・見過ごせないし、」
彼女とは、まだ友達になっている自信がなかった。
「でもさ、友達がいることって本当にいいことだと思う?友達同士でつるんで、ああやって彼女たちはイジメてくるんだよ。結局、似た者同士があつまるとろくなことが起きない。それに、人間関係に依存しているのって、もう古いと思わない?今は、友達じゃなくても、誰が作ったかも知らない服とか着てるわけだし、直接的な繋がりなんて必要ないんだよ」
私には到底納得のできないことだった。
高校に入学して、誰にも話しかけられなかったけど、私はずっと寂しかったし、怖かった。
誰かに話しかけてきてほしかった。結局、麗奈に自分から話しかけに行ったわけだが、友達といえるような関係にまだ至っていなくても、それでも以前と比べれば全然違う。
今は、安心できるのだ。
友達がいないと、どれだけ生きづらいことだろうか。
「もしさ、人類が滅亡して自分一人になったときに、友達がいないとさみしくて死んじゃう人と比べれば、一人に慣れてる私たちは生き残るんだよ。一人で生きていける人間の方が、絶対に強いんだから」
そういうと彼女は紙コップに入った水を飲み干して、「汲みに行ってくる」と言って席を立った。
(現在)
許さない、
「あ、あの、大丈夫ですか?」
でも、どうすればいいのだろうか。ユリウスに復讐するためには、
「・・・王子の成人の儀式って最近だったわよね?」
私はメイドのマツリカに尋ねる。
「ええ、来月でしたけど、」
舞踏会であんな恥をかかされて、人生をめちゃくちゃにされたのだ。
やり返すなら、そこだな。
でも、何をするのが良いのだろうか。
「あ、あの、ルルカ様。お父上から、手紙を預かっていまして、」
「父上から、」
婚約破棄の件だろう、
私はマツリカから手紙を受け取り、中身を確認した。
「えっと、・・・」
簡単に言えば、婚約破棄されたことは一旦咎めないでおくから、次の婚約者を探してくる、という話だった。
ぐしゃぐしゃにしてやりたい気持ちを一度抑える。
だがまあ、仕方のないことではなる。せっかくの我が家系の安泰の道を閉ざしてしまったのだからな。
しかし、あんな風に婚約破棄されたのに、誰が私と婚約してくれるというのだろうか。
私の名前を出せば、きっと誰もが婚約拒否をするだろう。
「・・・儀式って、何をするの?」
「え、まあ、神に祈りを捧げて、それで、終わったら宴会を開く感じだと思いますけど、」
その中で、どうすれば王子に恥をかかせられるだろうか。
そもそも、私の参加を許してくれるのか?でも、あの傲慢な王子のことだ。
私にも見せつけてやりたいと思っているはずだ。
「マツリカ、」
私はメイドであるマツリカを呼びつける。
「ルルカ様、どうしましたか?」
「・・・絶対に、王子に恥をかかせてやるわ。一生、あいつのことを許さない、」
マツリカは、一瞬ぎょっとした目でこちらを見つめたあと「あ、ええ、」と返事をした。
復讐のやり方なんていまいちわからないから、とりあえず人に頼るしかないわ。
王子なんだから、貴族の間でも嫌っている人間がいてもおかしくはない。
何がなんでも利用していくしかない。
転生したって、別に何の能力をもらったわけでもない私は、この執念だけで復讐を成功させるしかないんだ。
「マツリカ、あなたは協力してくれるわよね?」
昔から彼女といるからわかる。
彼女は頼まれたことを断ることが苦手だ。
彼女に頼んだところで何ができるのだ、という疑問もあるけれども、端から使えるものは使っていかないといけない。
「あなたも、私の気持ちってわかっているわよね」
私は眼光鋭くマツリカの方に目を向ける。
彼女は「も、もちろん、大丈夫ですよ」と言ってコクコクと何度も頷いた。




