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董卓伝暴狼記  作者: サトウロン
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百三十八、反董卓連合

 董卓は周毖しゅうひ伍瓊ごけいを呼び出した。

 二人はなぜか堂々とした態度で参内し、董卓の前でも頭を下げることは無かった。

 何をしたのか、何を詰問されるのか、しっかりと理解しているという風貌だ。


「なぜ、呼ばれたか。わかっておろうな」

「は。しかと」


 年明けて、正月から橋瑁や袁紹らが連合し、反乱を起こした。

 その軍に参加した者らが問題であった。


「冀州牧韓馥、兗州牧劉岱、予州牧孔伷、陳留太守張邈」


 董卓の読み上げた名に、なぜか誇らしげに二人は頷く。

 反乱軍に参加した彼らは、二人が推挙した人物であった。


 董卓はみすみす自分に反乱を企む者らに地盤と武力を与えて野に解き放ったことになる。


「相国様におかれましては、御自身への反乱の芽を育ててくれたことまこと感謝にたえませぬ」

「一見バラバラなそなたらを繋ぐのは袁紹だな?」


 伍瓊は笑みを浮かべることで肯定した。


 周毖、伍瓊、張邈、何顒。

 今回の策謀を謀った者、地位を与えられた立った者。

 彼らは皆、袁紹との親交があったことが判明している。

 逃亡した袁紹を勃海太守に任じるよう進言したのも、この策の一環だったというわけだ。


 漢帝国を立て直さんと、信任した董卓のことを素知らぬ顔で裏切ったということだ。


「貴様らはここで死ぬが言い残すことはないか?」

「漢帝国は貴様の好きにはさせん」


 と周毖が言った。


「佞臣誅すべし」


 これは伍瓊の言葉だ。


「佞臣は貴様らの方ではないか」


 漢という国はこれから乱世となる。

 董卓は漢帝国を守らんとし、立った者たちも漢帝国を取り戻さんとする。

 二つの勢力があればあい争うことになるのは必然だ。


 だが策を弄した二人はそのことに気付いていないようだった。


「ここでお前を斬ることで、政道を糺すのもまた一手。行けッ、擾龍宗じょうりゅうそう


 伍瓊は潜ませていた刺客を呼び出した。

 覆面で顔を隠した剣士である。

 地味な服で召し使いに扮していたようだ。


 確かに凄腕の暗殺者であろうことは、そのたたずまいから想像できた。

 内密の話だとして、同席していたのは李儒だけであった。

 董卓の護衛はいない。

 勝利を確信したかのように伍瓊は笑う。

 最初から自信満々だったのは、この仕込みがあったからだろう。


「ふう」


 董卓は座っていた椅子から立ち上がると同時に強く踏み込んだ。

 床にひびが走るほどの踏み込みだ。

 瞬時に擾龍宗との距離を詰める。


「な!?」


 擾龍宗はありえない動きに一瞬怯む。

 董卓は踏み込みざまに抜刀し、その怯んだ隙に切り捨てる。


「暗殺者としては一流かもしれんが、本物の武人に勝てるものかよ」

「な……擾龍宗は侠客で名を馳せた剣士のはずだ」


 董卓は刀に残った血糊を振り払った。


「考えが浅いのだ。お前たちの狭量な思考で判断するから大局を見誤る。君主を裏切ることに理由をつけて正当化しようとする。そして無駄に謀反を起こす」

「お前は私の主君ではないし、私はお前の家臣ではない。どこに謀反など存在するのだ?お前が国家を混乱させ、主君を簒奪した罪は絶大である。いまこそお前の死ぬ時だ。だから貴様を誅殺しにやってきたのだ。お前を市場で車裂きにして天下に謝罪できなかったのが残念だ!」


 伍瓊は隠し持っていた短刀を抜き、斬りかかってきた。

 その動きは擾龍宗すら比較にならない素人のもので董卓は軽くかわし、手刀で意識を狩った。

 ごとり、と伍瓊は床に倒れた。

 董卓はそれをちらりと見てからもう一人の首謀者に話しかける。


「周毖。お前と伍瓊は斬首に処す。お前たちの家族もだ。お前たちのおかした愚行を悔い改めながら、今夜を過ごすがいい」


 それを聞いた周毖は顔を手で抑えて、慟哭した。

 一時の激情に身を任せて、今までの全てを破滅に導いたことを今さらながら悔いたらしい。

 董卓を倒すための軍団を結成するきっかけを作ることになった周毖と伍瓊だが、彼らはその結末を見ることはできなかった。

 いかに大志あろうと、自分の現実に、これから家族もろとも死ぬことに気付いた時、周毖は現実を直視することができなかった。


 あああああああああ、と声を発しながらうずくまる周毖を冷たい目で見下ろしながら董卓は刀を納めた。


「お気持ちが晴れるのでしたら、我がしわ首も落としください」


 と李儒は頭を垂れた。

 確かに、この二人を推挙したのは李儒である。

 人物の見極めができなかったゆえに、反董卓連合などというものを結成させてしまったのは李儒の責任である、ともいえる。


「顔を上げよ。そなたの首を斬ったところで俺への逆恨みが晴れるわけではない。ならば生きてこれを打開するための策をひねりだせ」

「……わかりました」


 この件は、宮廷内で武器を振り回したということで擾龍宗が即罰せられ、周毖と伍瓊は斬首に処され、三族に罪が及んだ。


 その間にも反董卓連合に参加する軍閥は次々に増えていった。

 これは董卓の(始まったばかりの)政権に反対する者ばかりではない。

 漢帝国に反意を抱くもの、動乱に乗じ功名をたてようとするものなど様々であった。


 長沙太守の孫堅も兵を挙げ、南陽太守の張咨を襲いこれを害した。

 孫堅はかつて韓遂、辺章の反乱で董卓と共闘した武将であるが、お互いに認めながらも仲良くなることは無かった間柄であった。


 次にこれも董卓との共闘経験があり、徐州牧となった陶謙とうけん

 済北国の相、鮑信ほうしん

 儒教の祖である孔子の直系の子孫である北海太守の孔融こうゆう

 河内太守の王匡おうきょう

 皇族で荊州牧の劉表りゅうひょう

 先に挙兵した陳留太守張邈の弟で広陵太守の張超ちょうちょう


 さらに董卓が袁家を処罰するとの噂を信じて洛陽を脱出し、孫堅を自身の配下とし、その孫堅が倒した張咨の治めていた南陽を実効支配し、南陽太守を自称した袁術。


 袁紹の旧い友人である曹操も参加している。


 袁紹はこの連合の盟主へと推戴された。

 彼は車騎将軍を自称し、皇帝の救出、董卓の排斥、洛陽の奪還を目指し、軍をすすめることになった。


 知らせを聞いた董卓がまず対応したのは、袁家の処遇である。

 四世三公、四代に渡って三公の地位についた者を輩出した名家中の名家である袁家。

 その内、袁紹と袁術が反董卓連合に参加している。


 董卓は袁隗と面会した。

 昔、董卓はこの袁隗のもとで働いていたことがある。

 援助を受けたこともある。

 袁隗の膿みきった宦官による政治を糺し、清流派による政治を取り戻すという思想に共鳴したこともある。


 もし、彼が董卓に従い、反董卓連合に大義なしと宣伝してくれれば状況はひっくり返る可能性とてある。

 その覚悟をもって董卓は面会に望んでいた。


 そしてやってきた袁隗を見て、董卓はただ“老いたな”とだけ思った。

 大傅たいふという地位にあり、名誉職ではあるが董卓と同じように三公の上の立場にいる。

 しかし、長年の激務が祟ったか、彼の髪は真っ白になり、供の者に支えられなければ歩くのもままならないようだった。


「お久しぶりでございます」


 と董卓は口を開いた。

 あるいは舌戦になるかもしれない、と思っていただけに袁隗の変わりように驚いていたのだ。

 

「昔、話しておったのですよ」


 と挨拶もそこそこに袁隗は口を開いた。


「何を、でしょうか」

「董仲穎は漢帝国の守り手となるか、それとも全てを破滅させるか、と」

「私の考えは変わりませぬ」

「左様。貴殿は国を守りたい、がその手法は他の者とは違っておる」

「そのようですな」

「道は重ならず、ただぶつかり合うのみ。どちらが選ばれるか、後世の者のみが知る」

「次陽殿……それはどういう……」


 意味か、と聞いた時、袁隗は目を閉じていた。

 供の者はこんなに話すのは珍しい、と口にした。


「ただぶつかり合うのみ、か」


 袁隗がこの有り様では、どのみち袁家の支持は受けられないだろう。

 ならば、やるしかない。

 この手で。


 初平元年一月、董卓は袁紹、袁術らの漢帝国への謀反を咎め、袁家の者をことごとく誅殺した。

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