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扉
その頃から。
配信者との会話が少し変わった。
「最近、忙しそうですね」
電話の向こうから、いつもの標準語が聞こえる。
「少しだけ」
「前より連絡減りましたよね」
女は一瞬、黙った。
「そうですか?」
「いや。別にええんやけど」
女の指が止まった。
配信では何度も聞いてきた言葉。
けれど。
自分に向けられたのは初めてだった。
配信者自身は気づいていないらしい。
すぐに標準語へ戻った。
「仕事が忙しいなら仕方ないですし」
「そうですね」
女はそれ以上、触れなかった。
扉が。
少し開いた。
奇妙だった。
自分が扉の前にいた時。
彼は開かなかった。
自分が離れ始めた今。
彼の方から。
少しずつ。
開き始めている。
「そういえば」
配信者が言った。
「あの人と仲良くなったみたいですね」
「あの人?」
「ほら。前に綺麗だって言ってた人」
女は少し笑った。
「仲良く見えます?」
「見えますよ。良かったじゃないですか」
女は窓の外を見た。
この男は。
何も知らない。
自分のすぐ近くで。
二つの巣が。
互いの振動を探っていることを。




