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傷
美しい女から食事に誘われた。
断る理由はなかった。
二人だけだった。
店は静かだった。
他愛のない話が続いた。
仕事。
服。
食事。
配信者の話。
美しい女はよく笑った。
女も笑った。
食事が終わりかけた頃。
美しい女が、ふと女の顔を見た。
「その傷」
女の箸が止まった。
「結構、残りましたね」
女は何も言わなかった。
美しい女はワインのグラスに指を添えた。
「先生と知り合った時の、でしたっけ」
ほんの一瞬。
音が消えた。
女は美しい女を見た。
笑っている。
いつもと同じ。
綺麗な笑顔。
「誰から聞いたんですか?」
「さあ」
美しい女は首を傾げた。
「どこかで聞いた気がして」
同じ言葉。
女は自分のこめかみに触れなかった。
触れれば。
揺れたことを知られる。
「そうですか」
それだけ答えた。
美しい女は話題を変えた。
帰宅して。
女は鏡の前に立った。
こめかみには、大きな傷。
化粧をしても隠れない。
これまで。
この傷を見るたびに思い出すのは。
最初の一本だった。
けれど、その夜。
初めて違うものに見えた。
誰かが。
自分の巣の奥まで。
もう来ている。
女は鏡を見続けた。
自分は蜘蛛だと思っていた。
けれど。
今。
糸に触れているのは。
自分ではない。




