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偽りの糸
女は試すことにした。
存在しない糸を一本。
美しい女の前に垂らした。
「今度、○○関係の方とお会いすることになって」
名前は出さない。
場所も言わない。
ただ。
少しだけ価値がありそうに聞こえる話。
美しい女は笑った。
女
「へえ。すごいですね」
それだけだった。
翌日も。
何もない。
三日。
一週間。
何も起きなかった。
女は少し考えた。
読み違えたのだろうか。
あの美しい女は。
自分が思っているような人間ではないのかもしれない。
偶然が重なっただけ。
そんなこともある。
女はその糸を忘れることにした。
二週間ほど経った頃。
仕事で出席した席で。
初対面の人物が言った。
「○○関係の方ともお付き合いがあるそうですね」
女は動かなかった。
「どなたから?」
「あれ? 違いました?」
相手は笑った。
「そう聞いた気がしたんですが」
女も笑った。
「いえ」
それだけ答えた。
帰りの車の中。
女はしばらくエンジンをかけなかった。
食いつかなかったのではない。
見えない場所から。
辿っていた。
そして。
自分が垂らした偽物の糸を。
自分の知らない場所へ張り直していた。
女は初めて思った。
――上手い。
自分より。
ずっと。




