牙
それから、美しい女の態度が変わった。
露骨ではない。
だからこそ、よく分かった。
女が配信者と話していると、自然に会話へ入ってくる。
女が誰かと名刺を交換すれば、いつの間にか近くにいる。
食事の話になれば、
「その日は私も行こうかな」
と笑う。
ある時。
美しい女は、女に言った。
彼女は配信者を、先生と呼んでいた。
周囲の人間も、そう呼ぶことが多い。
「先生って、ああ見えて繊細な人だから」
女は黙って聞いた。
「変な人に利用されたりするの、嫌なんですよね」
柔らかな声だった。
笑顔も綺麗だった。
「そうなんですね」
「長く見てると分かるんです。誰が本当に先生のことを考えてるかって」
なるほど。
女は少しだけ笑った。
誰が見ても、そう思うだろう。
この女は配信者を守っている。
近づいてきた別の女を警戒している。
大切な配信者を守るために。
牙を剥いている。
「あなたも先生のこと、大切なんですよね?」
突然、そう聞かれた。
女は少し考えた。
「大切……なんでしょうか」
美しい女が笑った。
「だったら、あまり近づかない方がいいですよ」
声は優しかった。
だからこそ。
女はその言葉を覚えておいた。
それから数日後。
別の場所で、一人の男性から声をかけられた。
「製缶関係のお仕事なんですよね」
女は相手を見た。
「会社も継がれるとか」
間違ってはいない。
けれど。
自分は、この男性にそんな話をした覚えがない。
「先生とは、ずいぶん前からのお知り合いなんでしょう?」
女は笑った。
「どなたから聞いたんですか?」
相手は少し困った顔をした。
「誰だったかな。どこかで聞いた気がして」
それだけだった。
嘘ではない。
悪口でもない。
訂正するほどの話でもない。
けれど。
自分の知らないところで。
自分という人間が。
少しずつ作られている。
女は初めて。
自分の巣が揺れたのを感じた。




