共食い
「そこまでして、先生の近くにいたいんですか?」
二人きりになった時。
美しい女は言った。
もう笑っていなかった。
女は少し考えた。
そして。
「先生?」
と聞いた。
美しい女の顔が止まった。
「違うんですか?」
「何がです?」
「あなた、先生に近づきたかったんじゃないんですか」
女は黙った。
やがて。
少しだけ笑った。
「そう見えてたんですね」
美しい女は何も言わなかった。
その瞬間。
女は理解した。
二人とも。
同じ男を取り合っていたのではない。
最初から。
同じ場所に巣を張っていただけだった。
ただ。
違うことが一つあった。
美しい女は。
人を自分の糸でつないでいた。
だから自分がいなくなれば、切れると思っていた。
女は違った。
人が、女とつながる理由を。
一つずつ作っていた。
仕事。
信用。
約束。
役に立つこと。
そして。
役に立てない時には。
そう伝えること。
糸を持っていたのではない。
糸の先にいる人間が。
自分から残っていた。
女はそこで初めて。
美しい女に勝ったのではないと気づいた。
喰ったのでもない。
美しい女が。
自分の巣を守ろうとして。
強く。
強く。
糸を引いた。
そして。
自分で切った。
女はただ。
残ったものを拾っただけだった。
「先生」
あの女は。ずっと、男をそう呼んでいた。
女はそれまでその呼び名を使ったことがなかった。
けれど、いつの間にか、その呼び名だけが、
女の中に残っていた。




