7.聖女
嫌なことは引きずらないのが、楽しく生きるコツだと思う。
ちなみに、店主さんに言った「約束がある」というのは嘘。
目的もなく旅をしているっていうと怪しまれて警吏や大きい街の駐屯兵とかに通報されても困るから。
それにしても、このスープは本当に美味しい。
あとで店主さんにお願いして、瓶詰にしてもらおう。
魔法のあるこの世界では、異次元ポケットのような収納空間を魔法で保持することができて、腐敗などの心配もなく、いつでも新鮮なまま取り出せるんだよね。
とはいえ、異次元ポケット――収納魔法は高位魔法だから、あまり大っぴらに使えるとは言わないほうがいい。
でも、この町では炎リザードを倒すほどの力ある魔法使いだと知られたので、収納魔法のことも秘密にしなくていいかな。
そうすれば、炎リザードのお料理をたくさんお土産に持たせてくれそう。ふふふ。
「店主さん、ずうずうしいお願いなんですが、ハムだけでなくこのスープも瓶詰にしていただけますか? 私、収納魔法を使えるので保管もできるんです」
「おお! さすがですね! それじゃあ、出発までに準備しておきますよ」
「ありがとうございます」
やった! これでこの先の道中での美味しいお弁当ゲット。
野宿も一段と楽しくなるね。
というわけで、ポンちゃんと朝食をいっぱい食べて、もちろんおかわりもして、部屋へと戻って出発の準備をする。
「ポンちゃん、前も言ったけど、戦争のことはあまり口にしないでね。つらい思いをした人も多いだろうし、私が魔女だって知られたら大変なことになってしまうから」
「でも、ユーナ様は〝悪逆の魔女〟とは違います……」
「うん、そうだね。だけど、それを説明するのは難しいんだよ。ポンちゃんだって、あの戦争で嫌な思いをしたのに、ごめんね」
「それはいいんです! ボクはユーナ様に拾ってもらえたんですから! ワガママ言ってすみませんでした……」
「謝る必要はないよ、ポンちゃん。私もポンちゃんがいてくれるから、この世界を楽しむことができるんだから。ありがとう、ポンちゃん」
「ユーナ様……」
ああ、その大きな目をうるうるさせないで。
胸がキュンってなって苦しいから。
ぎゅっと抱き合ってから、えへへと二人で笑い合って、荷物を背負う。
本当は手ぶらでも大丈夫なんだけど、それもまた怪しいからね。
「じゃあ、行こうか」
「はい!」
部屋を出て階段を下りると、食堂には店主さんだけでなく、多くの人が集まっていてびっくり。
どうやらお店の外にまで人がいるみたい。
「お嬢さん、収納魔法が使えるなら、持てるだけ持っていってください」
「こんなに……は、さすがに無理ですけど、ありがとうございます。嬉しいです!」
店主さんはテーブルに塩漬けのモモ肉や瓶詰のスープ、昨日のテールステーキを焼いてソースを別の小さな瓶に入れて用意してくれていた。
収納魔法を使えると言ったから、ステーキまで用意してくれたんだ。
どうりでいい匂いがするなって思ったよ。
本当は全部収納できるけど、あまり大きい収納だと知られるのも面倒なので、半分だけにしておく。
木の皮を薄く伸ばして包んだお肉は高級感があっていいよね。
「これでいっぱいです。でも、これからの旅に楽しみができました。店主さん、お世話になりました。皆さんも、本当にありがとうございます」
「いやいや、世話になったのは私たちのほうですからね!」
「そうですよ。これで安心して森にも入れますから」
「ありがとうございます!」
店主さんだけでなく、奥さんや町の人たちがたくさん感謝の言葉をかけてくれる。
ちょっと照れつつ頭を下げて、宿代とお弁当代を払おうとしたら、断られてしまった。
炎リザードを倒しただけでなく、その素材もほとんど渡した料金らしいので、ありがたく甘えることにした。
「お嬢さんは英雄ではないですが、私たちにとっては〝聖女様〟ですよ!」
「え……」
「確かに、その通りだ!」
「聖女様だ!」
「聖女様、ありがとうございました!」
「いやいやいやいや、違いますって!」
店主さんがとんでもないことを言い出して、町の人たちも同意するからもう大変。
〝魔女〟だとばれるのは絶対に避けたいけど、〝聖女〟だなんて大問題だよ。
だって、〝悪逆の魔女〟がそう呼ばれるようになったのは、かつて存在した〝聖女〟を殺してしまったからだって……。
「と、とにかく、本当にありがとうございました! 皆さん、お元気で!」
「さよなら~」
ポンちゃんの手を握って、逃げるようにその場を離れる。
町の人たちからはまだ何か声をかけられて、ポンちゃんは呑気に手を振っていて私の焦りに気づいていない。
うん、そうだね。私が考えすぎてしまっただけ。
ポンちゃんのようにのんびりいこう。
【魔女の知識:聖女は滅ぶべき存在】
なんて頭の中でぐるぐるしているのは、久しぶりに〝聖女〟って言葉を聞いたからかな。
考えたって仕方ないし、切り替えないとね。
「さて、ポンちゃん。次はどこへ行こうか?」
「そうですね~。特にないですけど、美味しいものがあるところがいいです!」
「それは間違いないね!」
私たちが見えなくなるまで町の人たちは見送ってくれて、ようやく二人きりになれた街道でこれからのことを相談する。
まだ朝も早く、もう少ししたらこの街道も他の人たちが行きかうようになると思うから、その前に目的地を決めておきたいんだよね。
というのも、のんびり歩くのは少しだけ。
ずっと歩いていると疲れるし、世界を見て回るには時間が足りないから。
気が向けば歩くし、駅馬車を利用したりもするけど、魔法でひとっ飛びすることもある。
まあ、今回は多くの人の記憶に残ってしまったから、次の大きな街までは歩いて、そこから駅馬車を利用する予定。
そうしないと不自然だからね。
とはいえ、馬車の行き先だけは決めておかないと。
「美味しいものか~。炎リザードのお料理が美味しかったからなあ。次も美味しいとなると……あ、そうだ!」
「何かありましたか!?」
炎リザードのお肉はテール以外はあっさりしていたけど、お土産としてテールステーキももらったしなって考えていたら名案を思いついた。
ポンちゃんが期待に満ちた顔で見てくるから、私はふふふと得意げに笑って提案する。
「海鮮はどう?」
「海鮮ってなんですか?」
あ、そこからか。
お肉の次はお魚かなと思ったけれど、森の中に住むタヌキのポンちゃんには馴染みがなかったみたい。
これはもう、絶対海鮮にするべきだね。
「海に生きる魚とかだよ」
「海って何ですか?」
「ポンちゃんは池、湖はわかるよね? ああいう水がいっぱいある場所というか……でもね、お水は塩っ辛くて、すごく大きいの」
「お水が塩っ辛い? 塩湖みたいですね」
「ああ、そういえばそうかも。だけどね、海はすごーく広くて、湖や池、川に住む魚とはまた違った種類の……魚介類がいっぱいいるから美味しいんだよ」
「ぜひ食べてみたいです!」
「じゃあ、次は海を目指そうか」
「はい!」
海に住む魚はもちろん、貝やカニ、イカも美味しいよね。
いよいよ、お醤油の本領発揮かもしれない。
あ、もう口の中がイカ焼きになっちゃった。
楽しみだな~。




