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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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72.白米とお肉


 お鍋でお米を炊くときのコツは、まず中火より少し強いくらいの火加減で始める。

 沸騰して泡が吹きこぼれそうな気配があったら、蓋を開けて確認するのもあり。

 少しだけ蓋をずらして蒸気を逃してもいいけど、私は『赤子泣いても蓋とるな』ってことで、そのまま弱火にする。

 この後は、体感で十分くらい。


「しばらくはこのままでいいから、もう一品何か作ろう。ポンちゃんは他に何が食べたい?」

「そうですねえ……。お魚も美味しかったですけど、今度はお肉がいいです」


 何かと遠慮がちなポンちゃんだけれど、最近は自分の意見をちゃんと言ってくれるようになったんだよね。

 それだけ心を許してくれてきたんだなって思えて嬉しい。

 贅沢を言えば、もっとワガママを言ってくれたらいいな。


「よし! それなら私が用意しよう。王宮からいい肉を持ってきているんだ」

「王宮のいいお肉……」


 それはもう最高級のお肉じゃないの?

 ポンちゃんの言葉に大きく頷いたクライスの言葉に、かなり期待が高まる。

 どうやらポンちゃんも同じようで、目がきらきらしているよ。

 私とポンちゃんが見守る中、クライスは収納魔法の中から何かを包んだ粗布を取り出した。

 そして開いて見せてくれたのは、これぞステーキ! お肉の塊!

 日本人の心、サシ――脂身は少ないけれど、絶対に美味しいやつだ。

 まあ、サシが入ったお肉は若い頃だったらいくらでも食べられたけれど、アラサーになるときつくなってきたんだよね。

 高級カルビよりもロースやハラミがいい。だから、赤身大歓迎!


「それをどうやって食べるんですか?」

「焼く」

「焼く?」


 ポンちゃんがわくわくした様子で訊けば、クライスは胸を張って答えてくれた。

 うんうん、いいお肉は下手に手を加えるよりも、焼いただけで食べるのがいいよね。


「ああ、ただ焼くだけだが、王宮の料理長自慢のソースがあるからな。ぜひユーナとポン太に食べてほしいんだ」

「料理長自慢のソース……」


 何それ、最高だよ。

 スベルト地方の岩塩だけで食べるのも絶対美味しいけれど、王宮の料理長が自慢するほどのステーキソースだなんて、もう確定だよ。

 美味しすぎてほっぺたが落ちちゃうかもね。


 クライスがお肉の塊から三枚切り分けている間に、お鍋をかまどの上に敷いた網から下ろす。

 炊き立てご飯のにおいに、懐かしさと食欲とが一気に湧き上がってくる。

 早く蓋を開けたいけれど、蒸らしは大事。


「クライス、お肉の付け合わせはどうする?」

「そうだな……野菜があったほうがいいな」

「じゃあ、ニンジンとおイモ、あとズッキーニを焼くね」

「ああ、いいな。頼む」


 野菜は森の小屋の近くの畑で収穫したもの。

 ポンちゃんはニンジンがあまり好きじゃないから、ちょっとだけ眉を寄せたけど、見て見ぬふり。

 フェンリルに野菜を摂取する必要があるのかはわからないけれど、毒でないなら好き嫌いせずに食べてほしいな。

 本当は私もイモ類はあまり好きじゃないんだよ。ただし、フライにしたら好き。

 イモ類と油の相性はナス並みにいいよね。


 さて、ここで取り出したるは、カット野菜です! って、また脳内で紹介しつつ、収納魔法の中からカット野菜を取り出す。

 畑で収穫したものを、新鮮なうちに皮をむいて適度な大きさにカットしたものを保存しておいたんだよね。

 おイモはしばらく寝かせて、旅に出るって決めたときに処理して準備したもの。


 ここでも簡単魔法でさっと下茹でをして、フライパンで焼く。

 クライスが用意してくれたステーキは網で直に焼いていて、美味しそうなにおいがあたりに漂い始めた。

 防壁魔法でにおいも外へ逃げないようにしているけれど、本来なら風上だから、いろんな生き物に対して飯テロするところだったよね。

 ご飯も炊き立てのいいにおいがするし、上手く炊けた可能性大。

 ただし、今夜は普通に白米とステーキ、それにリザの町の店主さんが持たせてくれたスープでフィニッシュとしよう。

 卵かけご飯は明日の朝の楽しみにね!


 スープをお鍋に移してさっと温めてカップに注ぎ、クライスが焼いてくれたステーキを焼き野菜と一緒にお皿に盛りつける。

 そして、いよいよお米を炊いたお鍋をオープン!


「わあ! すめしとは違って、甘い匂いがします~」

「先ほどからにおいはしていたが、これほどに食欲をそそるにおいを放つとは……」


 お鍋の蓋を開けると、蒸気とともに炊き立てご飯のいい香りが辺りに広がった。

 ああ、いいにおい。

 早く食べたいけれど、ここからさらに必要なのは混ぜること。

 しゃもじはなくても、木べらはあるので、それを濡らして混ぜ混ぜ。


「また、あのお酢とやらを混ぜるのか?」

「ううん、これには混ぜないよ。これは白米だからね。このまま食べるの」

「じゃあ、また違った味がしますねえ」

「うん、楽しみにしてて」


 においからわかる。木べらで混ぜててもわかる。

 少しだけべたついてはいるけれど、これは成功だ。

 お茶碗はないから、深皿にご飯をよそう。

 さらには、クライスが料理長自慢のソースをお肉に少し多めにかけてくれて、晩御飯の完成!


 白いご飯とステーキなんて、最高すぎる。

 まずはお米を一口。

 ああ、たまらん!

 少し柔らかいけれど、それでもこれは白米だ。

 もうお米もどきなんて言わない。


 それにこのお肉!

 脂身が少ないのに柔らかくて、お口の中で溶けるみたい。

 それにこの料理長自慢のソースがお肉の美味しさをさらに引き立ててくれてる。

 これはご飯が何杯でもいけるね。


 って、食レポしてる場合じゃない。

 美味しいご飯に集中しよう。



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