69.ミルクセーキ
二人ともわくわくしながらカップに口をつけているのを横目に、私もぐいっと一気に飲む。
ああ、これは間違いなくミルクセーキだ。
子どもの頃、お母さんが作ってくれた懐かしい味。
あの頃はバニラエクストラクトどころか、バニラエッセンスもなくて、それでも美味しかった思い出が一気によみがえる。
「美味しいです!」
「これは……まさか、先ほどと同じ生卵が使われているとは思えないほどに、なめらかで甘く、するすると喉を通っていくな!」
「要するに?」
「美味しい!」
「うん、よかった」
ポンちゃんの明快な感想と違って、クライスは相変わらず食レポになっていたから、要約するように促した。
その意味を汲んで、クライスも単純に返してくれる。
クライスは気を悪くした様子もないし、ポンちゃんは楽しそうに笑っているしで、私も楽しくなって笑った。
おかげで、お母さんの想い出にしんみりしそうだった気分も上昇。
二人がいてくれて本当によかった。うん、本当に心からそう思う。
もし私がこの一年、ずっと一人だったとしたら、きっとすごくしんどかったと思う。
「じゃあ、次は先ほどの材料とさらにこのバニラエクストラクトを数滴入れます」
「わあ!」
「おお!」
ジョッキに同じように牛乳と卵、砂糖を入れたあとに数滴のバニラエクストラクトを投入。すると、さらに甘い香りがあたりに漂う。
でもこれはまだ、小瓶からの香りでもあるから、さっさとコルク栓をして密封。
ポンちゃんとクライスの期待に満ちた視線を受けつつ、またお皿で蓋をして攪拌する。
そして、オープン!
「わあああ!」
「すごいな!」
少し泡立ったミルクセーキからは、甘い香りが漂う。
先ほど以上に美味しそうなミルクセーキを見て、ポンちゃんもクライスも顔を輝かせた。
そんな二人を見て、私まで嬉しくなってくる。
さっきのミルクセーキが美味しかったなら、これもきっと大丈夫だろうと判断して、それぞれのカップに三分割して注いだ。
少し多めに作ったから、カップには半分ほどの量になる。
「さあ、どうぞ」
「はい!」
「はい!」
またまた元気のいい返事をした後で、二人ともカップを手に取ると、顔に近づけて幸せそうに目つぶった。
そんなに? とは思うけれど、この世界のお菓子は素材の風味を活かしているものばかりだからね。
あれ? ひょっとしてこれは、バニラアイスも作れちゃうのでは?
最高かよ――と一人悦に入っていると、二人ともミルクセーキを再び飲んだ。
「すごく美味しいです! お酒の味は感じません!」
「これはまた最高に美味だな! 先ほどの〝みるくせーき〟もよかったが、少し感じた卵や牛乳のにおいが和らぎ、この独特の甘いにおいが鼻からも味を引き立ててくれている! ポン太の言う通り、酒の味もかなり意識しなければわからないくらいだ!」
「そっか。それならよかった」
鼻の利くポンちゃんが大丈夫というなら、本当に大丈夫なんだと思う。
クライスはあえてお酒の気配を探ったから感じたのかも。
しかも、食いしん坊なクライスは舌も鼻も通常の人より敏感なんだろうし。
あと、最初に「美味」――美味しいと言ったのも、さっきより成長だ。
やっぱり料理の作り手として、「美味しい」は最高の賛辞だし、嬉しいよね。
「二人とも気に入ってくれたならよかった。生卵を利用したちょっとしたおやつだけど、また作るね」
「ありがとうございます!」
「ユーナ、ありがとう。楽しみだよ」
ポンちゃんもクライスも喜んでくれて、本当によかった。
次はバニラビーンズを取り出して、バニラアイスに挑戦しよう。
新しい目標もできて、浮かれ気分でジョッキやお皿を浄化魔法で片づける。
卵の殻は土の中に魔法を使ってささっと埋めた。
生ごみはいい肥料になったり、他にも使い道があるけれど、いくら魔法で保管できるとはいえ、どうにも持ち歩く気になれないんだよね。
野宿とかはできるのに、私は変なところで潔癖なのかも。
「ユーナ、ポン太、チャイを温め直したから、この焼き菓子も食べよう」
「はい!」
「うん、そうだね。ありがとう、クライス」
あれこれ考えながら片づけていると、クライスがチャイを再び淹れてくれた。
ベイカの街で購入した焼き菓子にはまだ手を付けていなかったから。
ポンちゃんは焼き菓子を嬉しそうに手に取った。
これを食べるの楽しみにしていたもんね。
生卵やミルクセーキですっかり脇役にしてしまったなと思いつつ、私も焼き菓子を口に入れ!その美味しさにびっくり。
脇役だなんて思ってすみませんでした。
バニラエクストラクトをちょっと使ったからって、ちょっと上から目線になってました。
素材の風味がなんたらなんて、偉そうに考えてしまって、本当に申し訳ありませんでした。
この焼き菓子は――熟練の職人が作った焼き菓子は、やっぱり最高です。




