表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
67/73

66.質問


「――それで、ユーナの訊きたいことというのは何だ?」

「あ、うん。すごく、大したことじゃないんだけど……」

「どんなことでも気にする必要はない。遠慮なく訊いてくれ」


 チャイを淹れてくれて、クライスは椅子に座ると、さっそく切り出してきた。

 それだけ気にさせてしまっていたことに申し訳なくなる。

 ポンちゃんも神妙な顔でうんうんって頷いていて、ほんとごめんだよ。


「この世界では、卵は――ニワトリの卵は生で食べないよね? それは食あたりを起こすからなのかなって……」


 本当にしょうもない質問すぎて、声が小さくなってしまう。

 だけど、二人ともその内容に呆れた様子もなく……というより、クライスは驚いたように口をぽかんと開けた。

 イケメンだとそんな顔でさえかっこいいんだ。世の中の不条理を感じるよ。


「ユーナ様の考え事というのは、卵を生で食べられるかどうかということですか?」

「う、うん。ごめんね、本当にたいしたことなくて」

「いいえ、謝る必要はないです。特に考えたことがなかっただけなので、ちょっと驚きましたけど。ボクたち――フェンリルは卵は殻ごと食べるので」

「あ、そうなんだ」


 確かに、あんなに大きな体でちまちま卵の殻を割ったりして、中身をちゅうっと吸っている姿は間抜けだよね。

 とはいえ、殻ごと食べるっていうのもすごいけど、自然界の摂理だね。

 ちなみに今さらだけど、この世界にもニワトリはいる。

 要するに日ごろ口にするのは鶏卵なわけだけど、この世界のニワトリは空を飛べるからびっくり。

 放し飼い飼育といえば、屋根のしっかりした小屋での放し飼いとなるみたい。

 ペンギンは魔女の知識にはないけれど、もしこの世界にいるなら、やっぱり空を飛べるのかなって考えちゃうよね。


 って、どうでもいいことをまた考えてしまうのは、クライスからの返答がないから。

 どうしたのかと様子を伺うと、クライスはきらきらと顔を輝かせていた。

 あれ? これはひょっとして食いしん坊発動?


「今まで、卵を生で食べるという発想がなかったが、やはり美味しいのだろうか?」

「えっと、どうかな? ただ生卵にはサルモネラ菌――雑菌が繁殖している可能性があって、食あたりの危険があるかもしれないから……」

「食あたりくらいなら、治癒魔法ですぐに治せる。よし、食べてみよう」

「だから、食中毒になる前提で進めないで、クライス。本当に食あたり程度ですむのかわからないし」

「たとえ猛毒だったとしても、ユーナがいるならどうにかなるだろう?」

「待って待って! とにかく、待って! ステイ!」


 収納魔法の中から卵を取り出したクライスをとにかく止める。

 ポンちゃんは呆れた視線を私ではなくクライスに向けてるけど、その気持ちはすごくわかるよ。

 どうしたらいいの、この食いしん坊王子様を。

 なんだか、王様たちの今までの苦労が想像できる。

 報告書という名のグルメレポートもたぶん諦め半分で受け入れているんだろうな。


「あのね、そのまま生で食べても美味しくないんだよ。生卵がメイン料理になるというよりは、添え物的な感じ?」


 いや、日本人の心と言ってもいいTKG――卵かけご飯のメインは生卵とするべき?

 ううん。やっぱり生卵単品はきついと思う。

 何かの映画かドラマで、体を鍛えるためにそのまま飲むなんてシーンがあったけれど、あれはただの演出だって聞いたことがあるし。

 それとも、ひとまず殺菌して生卵をそのまま食べるという経験をしてもらうべき?


 って、あれ?

 そもそも、本当にこの卵にはサルモネラ菌とか食あたりを起こす雑菌が付着しているのかな?

 クライスが生卵を食べなかったのは、そういう発想が――習慣がなかっただけって、要するに美味しくないのが理由な可能もあるよね。

 私が今まで生卵を食べようと思わなかったのは、卵かけご飯にできそうなお米がなかっただけで。

 今になって生卵は危険っていう発想は思い込みなことに気づいた。


「とにかく、一つ食べてみよう」

「その前に、その卵に菌が――食あたりを起こしたりしないか、毒の検知をしていいかな?」

「それもそうだな。頼む」


 毒の検知はかなり高度で繊細な魔法なんだよね。

 だから、扱えるのは一国に数人くらいで、たいていは高い地位にいる魔術師。

 要するに、王族や高位貴族お抱えになるから、基本的に毒での暗殺はできないって考えたほうがいい。

 そもそもクライスのように王族などは魔力も強く、魔法も扱えるから自衛手段にも長けていて、よほどでなければ暗殺はできない。

 というのは魔女の知識から。

 まあ、その中でも特にクライスは魔力が高く、剣術も優れていて、容姿も秀でていたから魔女に目をつけられたってわけ。


 嫌なことを思い出してしまったけれど、平静を装ってクライスから卵を受け取る。

 うん、新鮮な卵だ。

 クライスの保存魔法は完璧だね。

 そう考えながら、魔法を使っていろいろ検査したけれど、食あたりの原因になるような菌は検知されなかった。


「生で食べても大丈夫みたい。でも、美味しいかどうかは、わからないよ?」

「調べてくれてありがとう、ユーナ。安全とわかったのなら試してみるよ。何事も経験だからな」

「うん、まあ……」


 ひょっとして、この世界の鶏卵は安心安全なのかな?

 街で仕入れた卵も後で調べてみよう。


 クライスが新しいカップを取り出して、殻を割って生卵を入れるのを見守る。

 そこでふと、ミルクセーキを作るのもいいなって思いついた。

 ジューサーはないけれど、魔法で攪拌はできるからね。

 生卵と牛乳、砂糖とがあれば簡単ジュースの出来上がり。

 香りづけのバニラエッセンスはないけど、森で暮らしたときに見つけたバニラビーンズっぽいものを見つけたから、バニラエクストラクトを作ってみたんだよね。

 まあ、それも今の今まで忘れていたのは内緒。

 魔女の知識にはない謎な植物だったけれど、香りも形もバニラにそっくりで試してみたんだったんだった。

 上手くいけばちょうど一年くらい寝かしていたから風味も強くなっているはず。

 とにかく、この後にミルクセーキを作ってみよう。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ