64.解散!
「あなた様がそれを望まれるのなら、我々は従います」
「えっと、それじゃあお願いします」
「かしこまりました、今世の聖女よ」
「え?」
「はい?」
群れのリーダーっぽいフェンリルの言葉に驚く私に、リーダーもまた驚く。
いやいや、だって、私のことを今世の聖女とか言わなかった?
私の動揺を感じ取ったのか、リーダーが丁寧に説明してくれる。
「あなた様は上手くお力を隠しておられたため、気づくのが遅くなってしまいましたが、今世の聖女であることに間違いありません」
「いえ、それは違うと思います」
だって、私は聖女殺しである悪逆の魔女だから。
フェンリルたちが人間を嫌う根本的原因だよ。
それなのに、リーダーだけでなく他のフェンリルたちまでもが首を横に振る。
「いいえ、我々の記憶に間違いはありません。先ほど解放されたあなた様のお力は聖女そのものです。おそらく、その……王も、あなた様のお力に惹かれてお傍にて従っていたのでしょう」
「ち、違います! ボクはユーナ様が好きだからです!」
「うん、わかってるよ。ありがとう、ポンちゃん」
フェンリルたちが私を――私の力をどう思おうと関係ないよ。
それに、たとえポンちゃんが私の力に潜在的に惹かれて傍にいてくれたとしても、これまでの築いてきた関係が変わるわけじゃないからね。
ポンちゃんの前足をもう一度強く抱きしめて、それからフェンリルたちに声をかける。
「あなたたちが私を聖女だと思うのは好きにすればいいと思います。ただ私の願いはむやみに人間を攻撃しない、そしてどんな土地でも生きるものたちはいるのだから、魔法行使の際には気を使ってほしいということです」
「そのお優しいお気持ちもまた、聖女であることの証ですが……。かしこまりました」
リーダーは私の主張を渋々っぽくはあったけど受け入れて頷くと、ポンちゃんに向き直った。
他のみんなも、お兄さんもリーダーに続く。
「王よ、我らが愚かでありました。誠に申し訳ございません」
「いえ、ボクのことは気にしていないです。ユーナ様が素晴らしい方だってわかってもらえたら、それでいいんです」
「ポンちゃん……ありがとう」
ポンちゃんの気持ちは受け取ったよ。恥ずかしいけどね。
だから、それに恥じないように生きていくよ。
「うん、それじゃあもう解散ってことでいいかな? 私たちは旅を続けたいので」
「それでは、これで失礼いたします。我らも聖女再誕の喜びを皆に伝えなければなりませんので」
「そうですか……」
私は魔女であって聖女ではないけれど、もう勝手にしてほしい。
とにかく解散! さっさと私たちを解放してほしい。
その気持ちから、私は胸の前で大きく手を叩いた。
途端に、フェンリルたちがびくりとする。
「あ、ごめん。とにかく解散ということで、お願いします」
「かしこまりました!」
怯えさせたことを謝罪すると、フェンリルたちはほっと力を抜いて、みんな頭を一度下げた。
そして数歩後退して、くるりと方向転換。
お兄さんも一度ポンちゃんを振り返って見たけれど、何も言わずにみんなと一緒に去っていく。
そのスピードはすごくて、あっという間に見えなくなった。
「やれやれ、フェンリルまでにも聖女と認められるとはな。やはりユーナは聖女なのだろう」
「からかうのはやめて、クライス」
「これは冗談ではないが、ユーナがそう言うのなら、それでいいよ。ただし、身分証には聖女とあるのだから否定しないでくれ」
「それは、うん。わかってる」
たぶん、聖女と悪逆の魔女の力は真逆であって、最も近い力なんじゃないかな。
表裏一体というか、紙一重な感じ?
だから、フェンリルたちは間違えてしまったんだ。
どちらにしろ、身分証タグに〝聖女〟と刻印されている以上は、後見であるクライスのお父さん――王様のためにも気をつけよう。
そう決意したとき、完全にフェンリルの気配が消えた。
瞬間、ぽんっと音を立てて、ポンちゃんが人間の姿に戻る。
うーん。やっぱり、変化の仕方がタヌキなんだよなあ。
「ポンちゃん、お疲れ様! 頑張ったねえ!」
「ユーナ様! いっぱい、ありがとうございます~!」
人間の姿は前と変わらず、まだまだ子どもで可愛いまま。
だから気にせずにポンちゃんに抱きつくと、抱き返してくれた。
まさかポンちゃんが伝説のフェンリルとか、王だとかは思いもしなかったけれど、そんなことは関係ない。
私にとってポンちゃんは大切な家族で、大好きな友達。
「頑張ったな、ポン太」
「えへへ。クライスも保護魔法とか、ありがとうございます」
クライスの声かけに、ポンちゃんは照れながらお礼を言う。
素直なところもポンちゃんのいいところだよね。
「大したことはしていないぞ。ほとんどユーナの力だ」
「私だって本当に何も……うん、ここの生態系にも影響はないし、大丈夫! また美味しく食べられるよ」
「ほんと、ユーナは食べることが好きなんだな」
「クライスには言われたくないし」
食い意地が張っているのは認めるけれど、クライスほどじゃないからね。
これは世界を知るための旅であると当時に、グルメ旅でもあるもん。
ちょっと予想外のことは起こってしまったけれど、歩みを止めるつもりはない。
「とにかく、この土地は守られたし、収穫もたくさんあったし、今度こそ温泉地を目指して頑張ろうか」
「はい!」
「旨いものがあるといいな」
「ほら、やっぱりクライスが一番食いしん坊だ」
「ユーナだって期待しているだろう?」
「それはそうだけど……」
「ボクも楽しみです!」
三人で食いしん坊な自分たちを笑って、またいつもの調子を取り戻す。
うん。聖女についての謎はちょっと深まったけれど、魔女に意識を向けても仕方ないから前に進むしかない。
よし、今度こそ温泉地テバナルを目指して行こう!




