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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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61.覚醒


 お兄さんが焦土魔法を展開させて放った一瞬後、私とクライスが展開させた防壁魔法が完璧に機能して、私たちが立つ場所には何の被害もなかった。

 ただ、目の前で閃光が走り、ドーム型の防壁魔法の中が炎に包まれる。


「ポンちゃんっ!」

「ポン太……」


 何もできない、これ以上は何もしてはダメ。

 それはわかっているけれど、ポンちゃんがあの炎の中で無事なのか、不安が声に漏れ出た。

 クライスもぐっと両手を握りしめて、炎と煙で覆われたドームを見ている。

 ポンちゃんのことを信じてる。信じているけれど、予想以上のお兄さんの魔法の威力に心配はしてしまう。

 それに、こんな魔法を放ったお兄さん自身も無事なのかも気になる。


「クライス、もう介入してもいいよね!?」

「――いや、待とう」

「でもっ――!?」


 ドームの中は業火に包まれているのに、このまま見ているだけなんてできない。

 もし二人ともダメージを負って動けなかったらどうするの!?

 そう思って動こうとした私を、クライスが止める。

 なんでそんなに呑気にかまえていられるの? って、思ったけれど、私を引きとめるクライスの手も震えていることに気づいて反論の言葉をのみ込む。

 そうだよね。クライスだって本当は黙って見ているなんてつらいはずなのに、ポンちゃんの意思を尊重しているんだ。

 少し冷静さを取り戻した私は、ドームの中の生体反応を探った。――うん、大丈夫。

 生きてさえいてくれれば、私は治癒することができる。

 その事実を拠り所に、私はクライスと一緒にドームの中を見守った。


 すると、炎がみるみる消えていき、ドームの中は煙が充満するだけになっていく。

 あの不自然な鎮火は魔法を使ったものだ。

 魔力を探ると、それがポンちゃんの力だということがわかった。

 よかった……。

 私が安堵の吐息を漏らしたとき、徐々に薄くなった煙の中に大きな体のシルエットが見えた。

 あれほどの巨体はお兄さん? ポンちゃんはどこ?


「――っクライス、もういいよね?」

「ああ、もちろんだ!」


 ポンちゃんの無事はわかっていても、もう我慢なんてできなくて、クライスの返答も待たずに駆けだした。

 だけど、クライスも同様で、答えながらドームに向かって一緒に走る。

 二人ともがほぼ同時に防壁魔法を解除してドームから煙を逃すと一気に視界が晴れて、そこで目にしたものに、私もクライスも思わず立ち止まった。


「ポンちゃん!?」

「ポン太……?」


 シルエットの大きさから、お兄さんだと思ってた。

 だけど、目の前に立つのは茶色とこげ茶、黒色の毛並みの……いや、違う。

 煙が晴れて太陽の陽を浴びた毛並みは黄金色に輝いている。

 それに、体格が――さっきまではクマくらいの大きさだったのに、今はお兄さんと変わらないくらいに大きくなってるよ。


「ポンちゃん……?」

「まさか……」


 目の前に立つのは確かにポンちゃんなのに、まるで別の生き物のような、神々しさを放っている。

 その姿を眩しく見つめる私の耳に、クライスの驚嘆の声が聞こえてきた。


「ポン太は……伝説のフェンリル、なのか?」

「伝説のフェンリル?」

「ああ……」


【魔女の知識:伝説のフェンリル。フェンリルの中でも最上級の力と知能を持ち、群れの頂点に立つ。その姿は一般的なフェンリルと一線を画し、黄金の毛並みを持ち、聖なる魔法を操り、神の御使いとしてその力を行使する。黄金のフェンリルの出現は、すなわち神の意思である】


 魔女の知識の内容には、ただただびっくりするしかなかった。

 どうしよう。ポンちゃんはとっても偉い聖獣だったんだ。

 とてつもない力だというのは、防壁魔法を解いたからか間違いなく伝わってくる。

 これはひょっとしなくても、覚醒というやつでは? 

 魔女の知識にあるように、フェンリルの頂点に立つのなら、ポンちゃんは群れの長として生きるべきで、ここでお別れになるんじゃ……。

 

 今までのポンちゃんと出会ってからの思い出が走馬灯のようによみがえる。

 いや、でも、ポンちゃんが幸せになれるなら、私の寂しさなんてどうってことないよ。

 それは一瞬の時間だったけれど、ポンちゃんはくるっと振り返り、私たちを見て大きな尻尾をぶんぶん振った。


「ユーナ様! ボク、頑張りました!」

「え? う、うん! すごくがんばったねえ! かっこよかったよ~!」


 体の大きさと毛色以外、何も変わっていない素直さで、ポンちゃんは嬉しそうに私に報告してくれた。

 それから不思議そうに首を傾げる。

 うう。大きなわんこみたいで可愛い。


「ユーナ様、小さくなりました?」

「ポンちゃんが大きくなったんだよ」

「ええ!?」


 自分の変化に今気づいたらしいポンちゃんは、驚きの声を上げた後に、きょろきょろと周囲を見回して、自分を見下ろした。

 そして、前足を持ち上げてみたり、振り返って尻尾を見たりしていて、本当に可愛い。


「ポン太、自分の状況がわかったなら、これからどうするつもりだ?」

「これから……?」


 呆れたのか安堵なのか、ほっと息を吐いたクライスの問いかけに、ポンちゃんはまた首を傾げる。

 でもすぐにはっとして、倒れたままのお兄さんへ駆け寄ろうとした。


「兄上!」


 お兄さんは火傷しているけれど、命に係わるほどではない。

 そのことに私もクライスも気づいていたから、スルーしていたけれど、ポンちゃんは放っておけないみたい。

 一方的に喧嘩をふっかけられたようなものなのに、ポンちゃんは優しいなあ。

 お兄さんの怪我も、今のポンちゃんなら治癒魔法で治せるはず。

 だから私もクライスも黙って見守っていた。

 ポンちゃんは倒れて呻いているお兄さんをくんくんにおってから、治癒魔法を施した。

 すると、お兄さんの体を淡い光が包み込む。

 お兄さんの怪我の治癒も必要だけれど、ポンちゃん自身も怪我をしていることに気づいてる?

 私が治癒してもいいのかな? それとも、ポンちゃん自身に任せたほうがいい?

 こういう場合、どうしたらいいのかわからず、ちらりとクライスを見たとき。


「おのれ、出来損ないのくせに――っ!」


 火傷や他の怪我がすっかり治ったらしいお兄さんは勢いよく起き上がり、後退しつつも恨み言を吐いた。

 はあ? お礼もなしに、それ?

 無礼すぎるお兄さんに、腹が立つ。

 プライドか何かしらないけれど、お兄さんは怒りにぶるぶる震えながら、一定の距離を保つと、遠吠えを始めた。


「まずいな……」

「あの態度?」

「いや、まあ、それもそうだが、あれは仲間を呼んでいるぞ」

「はあ?」


 魔女の知識に間違いないなら、ポンちゃんはフェンリルたちの長になるべき存在のはず。

 でもお兄さんの遠吠えは、とても歓迎しているようには聞こえない。

 それに、遠吠えに呼応してどんどん近づいてくる気配は敵意を抱いているのがわかる。

 往生際の悪いお兄さんに怒りが湧くけれど、まだ判断するには早い。

 それでも、もし多勢に無勢でポンちゃんを虐めようとするなら、絶対に許さないんだから。




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