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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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59.新たな脅威


 風魔法を使って、ポンちゃんの海鮮丼にあるクラーケンを半分に切ったら、飲み込むのにそれほど時間はかからなくなって一安心。

 それから、二人ともおかわりして、三人で完食。


「さて、それではこのお米もどきをいくつか収穫してもいいかな?」

「はい! ボクも手伝います!」

「ありがとう、ポンちゃん」

「私もいくつか収穫してもいいだろうか?」

「もちろん。私のものでもないし……たぶん、誰かの土地というわけじゃ……」


 地主さんがいる土地ではなさそうだなって思ったけれど、ここはマケイラ王国領なので、クライスたち王族の土地ということになるよね。

 むしろ、私が許可を得るべきなのではと思ってクライスを見ると、嬉しそうに落ちているお米もどきを収納していた。

 うん。細かいことは気にしない。


 落ちているお米もどきを持ち上げて振ってみて、お酢の成熟具合を確認する。

 たっぷりちゃぷちゃぷ聞こえるのは少ない。

 ちょっと気になって浮遊魔法でお米の生る木から直接お米もどきを採ることができるか確認する。

 いくつか振ってみたけれど、水音はまったく聞こえなくて、持っただけでまだ固いとわかる。

 やっぱり木から自然に落ちたものが完熟なのかな。

 そう考えながら、新しく手に持ったお米もどきはぽろりと木から取れた。


「あ……」

「ユーナ様!? どうされました!?」

「大丈夫か、ユーナ?」

「うん、大丈夫。これがぽろっと取れたから驚いただけ」

「そうでしたか」

「落下寸前だったのかもな」

「そうだね」


 心配してくれた二人に答えて地上に降りて、お米もどきを振ってみる。

 やっぱり水音は聞こえないということは、まだお酢に――お酒にもなっていないということかな。

 普通の味のお米が食べられるかもって期待が募る。

 私の様子をポンちゃんもクライスも興味津々で見ていたからか、何かが近づいてくるのに気づくのが遅れてしまったみたい。

 一番初めに気づいたのはポンちゃんで、今までにないくらい怖い顔をして風下へと振り返った。


「ユーナ様! 何か来ます!」

「え?」

「ユーナ、ポン太、下がっていてくれ」

「でも――」

「これまでずっと世話になってばかりなんだから、ここは任せてくれ」


 ポンちゃんの警戒した声に驚いて反応が遅れた私を庇うように、クライスが前に出る。

 反論しようとした私を遮ってクライスが告げたそのとき、ポンちゃんがはっと息をのんで訴えた。


「クライス、ここはボクに任せてください!」


 ポンちゃんはクライスのことをまだ警戒しているようではあったけれど、こんな言い方をするなんてらしくない。

 いったいどうしたのかとポンちゃんを見て、その体が震えているのに気づいた。


「ポンちゃ――」


 心配になった私が声をかける前に、ポンちゃんはクライスの前に走り出た。

 クライスも驚いたようで一瞬力が緩み、防壁魔法に隙ができる。

 私も油断していたから、簡易な防壁魔法しかしていなくて、それらを魔獣は突破した。

いくら簡易とはいえ、私たちの防壁魔法を突破するなんて、とんでもない力を持っているのはわかったけれど、陽光を遮るほどの大きなその姿を見て納得。


【魔女の知識:フェンリル。古代の神から生まれた獣と言い伝えられ、魔獣とは一線を画す聖なる獣とされる。しかし、その性質は気まぐれで狂暴。人語を操るが、人との共存は難しく、ひとたび人里に現れると、天災に等しく、甚大な被害をもたらす】


 地球では北欧神話に出てくる伝説の通りに、フェンリルは巨大な狼の姿をしていた。

 白銀の毛並みが綺麗で、触ったらふわふわに見えるけど、実際は一本一本が太いからごわごわな気がする。

 って、それはどうでもいいことで、すごい怒っているフェンリルをどうにかしないと。

 大きいとはいっても、天に届くほどではなくて、例えるなら小学校の体育館くらいの大きさかな。

 ひょっとして怒っているのは、ここがフェンリルの縄張りで、留守の間に私たちは大切なお米もどきを食べちゃったから?


 名残惜しいけど、私が収穫したばかりのお米もどきを渋々地面に置こうとしたとき。

 フェンリルが大きく唸り、風圧で周囲の木々が揺れた。

 あと、唾液も飛んだみたいだけど、それは防壁魔法で防げて私たちは被害なし。

 不意打ちではあったけれど、防壁魔法を強化するだけの時間はあったからね。


「人間ごときに庇われよって、この出来損ないが!」


 お? さすが人語を操るだけあるね。ちゃんと何を言ってるのかは聞き取れたよ。

 で? 出来損ないって誰のこと? 私とクライスは人間だから……。

 は? ひょっとして、ポンちゃんのこと?


「ちょっとっ――」

「ユーナ様! あれはボクの兄ですから、大丈夫です!」

「……え?」


 文句を言おうとしたら、ポンちゃんに遮られてしまってびっくり。

 もちろん、驚いたのは遮られたことじゃなくて、その内容ね。


 だって、目の前にそびえ立つのはフェンリルだよ?

 それが兄ってことは、ポンちゃんは醜いアヒルの子的な感じで育ったってこと?

 タヌキとフェンリルなんて、力の差は歴然だもんね。

 それで『出来損ない』なんて呼ばれてる?

 ちらりとクライスを見ると、ばっちり目が合った。

 だからポンちゃんに聞こえないように、こそっと言う。


「ポンちゃんって、――」

「ようやく気づいたか、ポン太がフェンリルだと」

「え?」

「うん?」


 ポンちゃんがフェンリル?

 子ダヌキじゃなくて?




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