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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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58.実食


 結論から言うと、酢飯を握るのはかなり難しくて断念。

 だって、かなり粒が大きいし、スプーンですくったから形が歪だからね。

 それで諦めて海鮮丼にすることにして、どんぶりに酢飯を入れた。

 その様子を見て、ポンちゃんが楽しそうに顔を輝かせていて、クライスは言うまでもなく、わくわくしている。

 そんなふうに楽しみにされると、私まで嬉しい。

 だからどんぶりはクライスに譲って、私は深皿を使うことにした。


「あのね、作りたかった握り寿司じゃなくて、海鮮丼にします。でも、食べられなかったら無理しないでね。要するに、このお魚やクラーケンをこのまま生で食べます」

「え?」

「生で食べられるのか?」

「うん。安全性は確認してある。あとは好みの問題というか、私の故郷では、ここにお醤油か、だし醤油を適量かけて食べます」

「ダシジョーユも美味しいですよね!」

「ダシジョーユ?」

「お醤油にだしを……『だし』っていうのは、お料理にうま味を加えるための……味の基礎のようなもので、お味噌汁にも入れているんだよ」

「ああ、牛や鶏、香草などを使用するやつか」

「うん、そう」


 さすがグルメなクライスだ。

 私のおぼつかない説明でしっかり理解してくれた。

 ポンちゃんは私が椎茸っぽいキノコや、謎キノコ……見た目はきくらげみたいで味は昆布なやつで出汁を取っているのを見たことあるから、訳知り顔で頷いていて可愛い。

 出汁といえば、鰹節があればさらにお料理の幅が広がるんだよねえ。


「とにかく、その出汁をお醤油に混ぜたもので、美味しいよ」

「なるほど。魚を生で食べるという発想自体すごいが、オショーユも火を通さないのか?」

「うん、そうなんだよね」


 そういえば、昨日はお醤油も加熱して調理に使ったんだった。

 二人ともハムなどの加工品を除いて、生で食べるという経験自体初めてらしく、驚いてはいたけれど、目は輝いている。

 今までお米がなかったから、卵かけご飯とかもしたことなかったしね。

 あ、思い出したら食べたくなってきた。

 新鮮で生食できる卵を今度探そう。


 ひとまず、クライスが準備してくれたお料理を、冷ました網をテーブル代わりに並べ、程よい大きさの石に腰かける。

 お味噌汁もお椀についだけど、クライスは大きめのカップによそおう。

 今度、クライスの分も木椀を作らないとね。それに、お茶碗も必要だ。

 そう考えたら、今まで以上にわくわくしてきた。


 収納魔法の中から瓶詰にしていた『出汁』を取り出して、ボウルに少し入れて、そこにお醤油を足してだし醤油を作る。

 ポンちゃんもクライスも、そんな私の作業を興味深そうに目を輝かせて見ていた。


「どうする? お醤油か出汁醤油、どっちにする?」

「僕はダシジョーユがいいです!」

「私もそれで頼む」

「わかった。じゃあ、もう少し作るね」


 私も海鮮丼は出汁醤油派。だけど、お醤油濃いめでね。

 それから自分の海鮮丼に出汁醤油を回しかけて、二人も同じくらいでいいか確認してかけた。


「それじゃあ、いただきます」

「いただきます」

「いただきます?」


 私とポンちゃんが手を合わせてお決まりの言葉を口にすると、昨日は戸惑っていたクライスも同じように言った。

 それがなんだか嬉しい。命に感謝だからね。

 さて。いざ、実食!


 美味しい……けど、それ以上に懐かしすぎて泣けてくる。

 まだほんの一年ほどなのに、もう何十年も前のことのようで、鼻に抜けていくちょっとつんとしたお酢の味が体に沁みる。

 生魚も記憶にある通りの味で、だし醤油がちょっとした臭みを消し、さらにうま味が足されていて美味しすぎる。

 お米が大きくて歪な形をしているから、食感がちょっと違うけれど、それでも十分にこれはお寿司――海鮮丼だと言える。

 はあ、幸せ……。

 って、浸ってる場合じゃなくて、ポンちゃんやクライスはどうかなって様子を伺う。

 すると、クライスは目を閉じて噛みしめているけど、その顔は恍惚に見える。

 うん、大丈夫そう。


「……ポンちゃん、大丈夫? 口に合わないなら出してもいいよ?」


 ポンちゃんはちょっと難しそうな顔をして、ずっとはむはむ咀嚼しているから、心配になって声をかけた。

 だけど、ポンちゃんは無言で首を横に振る。

 大丈夫かなって見守っていたら、ごくりと飲み込んでから、私を見て申し訳なさそうに眉を下げた。


「ユーナ様、心配をかけてすみません。美味しいんですけど、ちょっと噛み切るのが難しくて……」

「あ、ごめんね。クラーケンはもっと小さく切ればよかったね」


 そうか。ポンちゃんの小さな口では、クラーケンの切り身は大きすぎたんだ。

 さらに酢飯も一緒だから咀嚼するの大変だったよね。

 配慮が足りなかったな。

 反省しているうちに、ポンちゃんは謎魚の切り身部分を口に入れた。

 すると、今度は顔を輝かせる。


「お魚はほわっと柔らかくて、歯ごたえがあるお米と一緒だと不思議な感じなのに美味しいです~! オショーユがこんなにお魚と合うとは思いませんでした!」

「それならよかった」


 クライスの影響か、なんだかポンちゃんの感想が食レポっぽくなっている気がする。

 まあ、かなり曖昧な表現だけど。

 とにかく、美味しいならよかった。

 クラーケンのお寿司は噛むのが大変でも、イカソーメンならぬクラーケンソーメンなら、ポンちゃんも美味しく食べてくれそう。

 めんつゆを作って、それに生姜――ショーガはあるけど、ネギもほしいな。

 そもそもネギは万能薬味だし、本気で探そう。お味噌に入れたらもっと最高になるしね。




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