57.踊る味噌汁
「わあ! 海のお野菜がひらひら踊ってます!」
「本当だねえ」
温められたお味噌汁に投入したワカメが流れに乗ってくるくるしている様子を見て、ポンちゃんが嬉しそうな声を上げた。
その表現が可愛すぎて、笑顔になる。
お味噌汁の中のワカメの動きなんて、今まで特に気にしたことなんてなかったのに、ポンちゃんといると新しい発見があって楽しい。
「なんだ、それは? そのスープもまた美味しそうだな」
「すごく美味しいよ」
私たちの様子を見て、他のお料理を用意してくれていたクライスが近づいてきてお鍋を覗き込んだ。
お味噌汁はわりと万国共通でみんな美味しく飲んでいたはずだから、クライスも気に入るはず。
だから胸を張って答えた。
「ポンちゃん、お味噌汁はもう大丈夫だから、火を消すね」
「はい」
ポンちゃんに声をかけて竈の火を消し、網の上にお米を炊いたお鍋を戻す。
それから、二人が見守る中、ドキドキしながら蓋を開けると、ふわっとご飯の炊けたにおいと同時に少しすっぱいにおいも混じっていた。
これ、酢飯じゃなかったら、腐っているって思いそうだな。
昔、炊飯器の保温を切ったまま、冷凍するのを忘れて放置してしまったご飯のことを思い出して、つい顔をしかめてしまった。
「このにおい……失敗したようだな」
「腐ってしまったんですかねえ?」
「あ、違うよ。これはお酢のにおいだから。……たぶん」
不安に思いながら、しゃもじがないので木べらを取り出してご飯を混ぜた。
その木べらにひっついたお米を摘まんで口に入れる。
「ユーナ様!?」
「大丈夫か?」
不安そうに見ていたポンちゃんとクライスがぎょっとしたように声を上げる。
心配しなくても、最悪自分にも治癒魔法はかけられるからね。――なんて答えることはできなかった。
だって、これ!
「酢飯~!」
「すめし?」
間違いない。ちょっとお酢が薄いけれど、あと粒が大きいけれど、ちゃんと酢飯だ!
どうしよう。嬉しい。嬉しすぎる~!
「ユーナ様? 本当に大丈夫なんですか?」
「私も少しは治癒魔法ができるぞ?」
「……大丈夫。ありがとう、ポンちゃん。クライス」
感動するあまり、二人のことをちょっとだけ忘れてしまったよ。
申し訳ない気持ちになりつつ、笑顔で答えた。
「あのね、これは私の故郷のお料理の味によく似ていて……だから、懐かしくなっただけ。二人も試しに食べてみる? ワインビネガーみたいに酸っぱいけど」
「食べます!」
「いいのか!?」
「まだ、完成した味ではないけど、試食してみて」
ポンちゃんは私の故郷の味を知りたいって感じで頷いたけれど、クライスは完全に食いしん坊発揮だよね。
二人は酢飯をどう受け取るかな? って思いつつ、木べらを差し出した。
もう熱くはないはずだから、火傷の心配はない。
ポンちゃんはおそるおそる、クライスは喜々としてお米を摘まむと、口へと入れた。
「……どう?」
「えっと……不思議な味です。においほど酸っぱくないというか……」
「そうだな。においはかなりきつかったが、味はそれほど酸味を感じないな。それよりもこの弾力が癖になりそうだ。しかも、噛めば噛むほど甘くなる」
「うんうん」
このお米は甘みが結構強いと思う。
弾力は大きい分、かなりあるんだけど、口の中で餅つきをしているような気分で咀嚼するのもちょっと面白い。
「えっとね、これは酢飯というには少し、お酢が足りないからもう少し味付けするね」
そう言って、小さなボウルに先ほどの塩と砂糖を入れ、米酢を少しだけ投入して混ぜる。
その様子を、ポンちゃんもクライスも興味津々で見ていた。
本当ならもっと米酢を入れてもいいんだけど、お米にすでにお酢が浸透しているからね。
小さなスプーンですくって味見をして、こんなものかなと判断する。
「よし、それではこれをさらに酢飯に混ぜます。というわけで、ポンちゃんは私がご飯を混ぜている間、風魔法でそよ風くらいの風を起こしてくれる?」
「はい!」
「クライスは、昨日いただいたお魚とクラーケンの切り身を出してもらっていい?」
「任せろ」
二人に役割を振って、お鍋に調合したすし酢を投入。
ポンちゃんがうちわで扇ぐくらいの風を起こしてくれて、私は縦に切るようにすし酢とお米をまぜまぜ。
その間に、クライスが収納魔法から昨日いただいた赤身の魚とクラーケンの切り身を出してくれた。
「クライス、今のようにこのお米を混ぜてくれる?」
「わかった」
今度はクライスと交代して、切り身をまな板に並んで乗せて、必殺・ブラックライト! ――というのは冗談だけど、アニサキスみたいな寄生虫がいないか、安全確認をして、生で食べられることを確認。
海苔とわさびがあれば、最高だったんだけどな。
少し残念に思いながら、切り身を薄い一口大に切っていく。
生で食べるのが無理なようなら、炙って食べればいいからね。
今日はお試しなので、酢飯もお刺身も少量にしたけど、足りるかな?
二人とも無理なようなら、私一人でも十分食べられる量だから、むしろ足りないかも?
「ポンちゃん、クライス、もう大丈夫だよ。あとは、その酢飯を握るね」
「握る?」
私の言葉に、二人そろって首を傾げる。
すっかり息ぴったりになった二人がおかしくて、私は声を出して笑った。
すると、また二人は同時にお互いの顔を見合わせる。
こんなに楽しい時間を過ごせるなんて、本当に私は幸せだよ。
さて、気分を入れ替えて。握り寿司を作るぞ!




