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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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56.飯盒炊飯


 けっこう度数は高かったけど、クライスもお酒は強いようで、酔った様子はなかった。

 まあ、カップに半分も入ってなかったからね。

 また残りの液体は別の瓶に詰めて保存して、ひとまず落ちている籾を全部集めた。

 そのうちの半分近くが液体になっているみたい。

 中身を確かめたいけれど、その前に木に生っている実――籾がどういう状態かも確かめたいんだよね。


「ポンちゃん、クライス、あの実を一つ採ってくるね」

「わかりました」

「風魔法で切り落とせばいいんじゃないか?」

「どういう形状になっているのかも見たいから、ちょっと行ってくる」

「ああ、そういうことか」


 二人に声をかけて、浮遊魔法で背の高い木の枝先まで飛び、籾を掴んで観察する。

 これはやっぱり花が咲いて、そこから結実しているみたいだ。

 ということは、雌雄があるってこと?

 周辺を見回してみたけれど、雄木があるようには思えなかった。

 銀杏は雌雄異株だけど、稲は雌雄同花だからね。

 ひとまず一つだけ枝から切り取って、地上に降りる。


「一つだけでいいのか? もっといるなら、採ってくるが?」

「大丈夫。ちょっと確認したいことがあっただけだから」

「ユーナ様、お持ちします」

「大丈夫だよ、ポンちゃん。ありがとう」


 私が地上に降りると、すぐに二人が声をかけてくれる。

 ポンちゃんだけでなく、クライスもさすが王子様というか、気遣いの鬼だと思う。

 これは出会ったときから変わらないね。


「さてと、この中身は後で確認するとして、そろそろお昼ご飯にしよう?」

「そういえば、お腹が空いてきました」

「今まで、これに夢中になっていたせいか、すっかり忘れていたな」


 私の言葉にポンちゃんはお腹を押さえ、クライスも集められた籾を見ながら笑う。

 夢中になると寝食忘れたりするよね。

 ただ、ここで食べるのはちょっと気が引けるというか何というか。

 この場所はたぶん、どこかに酵母とか、米酢菌とかが棲息しているんじゃないかな。

 だとすれば、納豆はなくても他の食べ物を取り出すのは念のためにやめておこう。

 害虫除けに私やポンちゃん、クライスに保護魔法をかけていたけど、逆にこの場所に私たちが持っている菌をばらまかなくてすんだかも。


「ご飯を食べるのは、ちょっと別の場所にしない? 理由は後で話すから」

「ボクはかまいません」

「私もかまわないが、理由が気になるな」

「それはご飯を食べながら話すね」


 そう言って、私はポンちゃんの手を握って浮かぶと、クライスもすぐについてきてくれた。

 川を挟んだ向こう岸の少し下流まで飛ぼう。風下だし、大丈夫なはず。

 目的地を決めて、少し開けた川岸に降り立つ。

 それからまた、適度な石を集めて竈にして、網を置く。

 さらにお鍋と先ほど収納した米酢ができていた籾を半分取り出した。


「何を調理するんだ?」

「お米を炊いてみようと思って」

「おこめを?」

「うん。このまま酢飯になったら最高なんだけど、それはできてからの楽しみってことで。それまでは、昨日おばさんたちが持たせてくれたお料理を食べよう」

「それじゃ、適当に温めるぞ?」

「うん、お願い」

「ボクは何をしたらいいですか?」

「ポンちゃんは、お味噌汁が沸騰しないように混ぜながら見ていてくれる?」

「わかりました」


 作り置きというか、多めに作って保存していたお味噌汁を鍋に移して、火にかける。

 クライスのように魔法で温めてもいいんだけど、それだとポンちゃんが手持ち無沙汰になっちゃうからね。

 あと、やっぱりじっくりコトコトしたい。


 私はスプーンを使って、籾殻にへばりついていて糊みたいになっているお米を半口分くらいの大きさにすくってお鍋にいれていく。

 お米とはまったく要領は違うけれど、物は試しだからね。

 後は長年の自炊の勘で、水を足して蓋をして、火にかけた。

 しばらくすると、蓋の隙間から蒸気が上がり出したけど我慢。


「蓋を開けて中を確認したほうがいいんじゃないか?」

「ううん。大丈夫。吹きこぼれないようにだけ、気をつけるから」

「そうか」


 赤子が泣いても蓋取るな、っていうくらいだからね。

 心配するクライスに答えると、火力の弱い場所へとお鍋を移動させた。

 蓋はカタカタ鳴るけど、吹きこぼれるまではいかない。

 これはかなり忍耐力が試されるね。

 昔の人は釜でお米を炊いたみたいだけど、すごいよ。

 ……で、これ、いつできるんだっけ?

 うーん。


 飯盒炊飯なんて、学生時代の野外活動以来だからなあ。

 いや、他にも一応調理しているから、正確には飯盒炊爨か。

 どっちでもいいけど、あのときのカレーは酷かったな。

 玉ねぎが生煮えで、じゃがいもとニンジンも固くて、でも不思議と美味しかった。

 友達とわいわい言いながら作って、ぎゃいぎゃい言いながら食べたからだろうね。

 あの頃の友達とは就職してからすっかり疎遠になっちゃったけど、みんな元気にしていたらいいな。


 って、しんみりしている場合じゃない。

 今の私にはポンちゃんと、旅仲間のクライスがいるんだから。

 クライスが監視要員っていうのは、どうでもいい。

 いわゆる同じ釜の飯を食う仲間ってことで。


 お米はもともと柔らかかったから、後は勘でお鍋を火から下ろしてしばらく蒸す。

 酢飯にするには、ええっと。お酢と砂糖と塩少々。

 岩塩しかないけど、いいか。

 いつか海水から塩の精製を……いや、ひょっとして?


「ユーナ様? また海の野菜ですか?」

「うん。これね、お味噌汁に入れると美味しいんだよ」

「へえ~」


 ワカメとお豆腐のお味噌汁は最高だけど、残念ながらお豆腐はない。

 味噌と醤油を作った時に考えたものの、保存とか大変だなってスルーしてた。

 あの頃はまだ保存魔法を使えても、生鮮食品を保存するっていう考えがなかったんだよね。

 冷凍庫があったから、お豆腐を凍らせたら高野豆腐になるな、なんて思って笑ったけど。


 取り出したワカメを見れば、予想通り海水が結晶化していた。

 天然塩とか最高だよね。

 ベイカの街の海はとても綺麗だったけど、一応は不純物を取り除く繊細な魔法をかけて完成。

 ワカメは水洗いしてから、包丁で切って、水にさらすのは省略してお味噌汁に投入。




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