53.体にいいやつ
「――クライス、食べられるかどうかは、先に検知できますから、無謀なことはしないでください」
「そうなのか? さすが、ユーナだな」
「そうです。ユーナ様はさすがなんです!」
「ありがとう、ポンちゃん」
本当にクライスはこれから未知のものでも何でも試しに食べそうな勢いだったので、先に伝えておく。
感心したようなクライスの言葉に、ポンちゃんが胸を張って答えるのが可愛い。
クライスにも褒められたけれど、お礼を言わなかったのは何となく私の――〝悪逆の魔女〟の力に感嘆したというよりも、何でも試しに食べられるという喜びが大きい気がしたから。
クライスは完全無欠の超スパダリ王子様かと思ったけれど、かなり残念なイケメン部類に入りそう。
「ちょっと貸してもらっていいですか?」
「いいが、重いぞ?」
「大丈夫です」
クライスが抱えている何かの実のようなものを受け取ろうと手を差し出せば、私が落とさないように慎重に渡してくれる。
それからすぐに、いつでも補助できるようにと手を下方へと回してくれるクライスだけを見れば、本当に気遣いの王子様なんだけどな。
言われた通り、確かに謎の実は重たかったけれど、見かけ通りの重量ではあったので、ふらつくことはなかった。
手元にある実をまじまじと観察して、裏側も見て、左右も確認する。
「これって……」
「何かわかったのか?」
「ユーナ様は物知りですからね!」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
思わず呟けば、クライスが身を乗り出す勢いで食いついてくる。
ポンちゃんもまた胸を張って言ってくれるけれど、間違っているかもしれないからね。
ただ単に、私が知っているものによく似ているなってだけで、サイズ的にかなり違う。
何に似ているかと言えば、精米前のお米。要するに、稲というか籾。
うん。実るほど首を垂れる稲穂かな。ってどころじゃないくらい大きいんだけどね。
クライスと同じように振ってみれば、やっぱりちゃぷちゃぷ音がするから、形は似ているけどお米ではないな。
「ひとまず割ってみようか」
「液体がこぼれないように、穴を開ける程度でいいんじゃないか?」
「……その液体を飲むとか言わないよね?」
「飲めるなら、飲んでみたいが……」
「まあ、うん。じゃあ、穴にしてみようか」
「クライスは食いしん坊ですねえ」
「そうだねえ」
私の提案に、クライスが難色を示したからまさかと思って訊いたら正解だった。
本当に食いしん坊というか、食に対して貪欲というか、好奇心旺盛すぎて、ポンちゃんの言葉に完全同意。
二人で笑うと、クライスはちょっとだけ恥ずかしそうな表情で一緒に笑った。
何だか、この三人の旅も上手くいきそうな気がしてくる。
ポンちゃんとクライスがどことなく険悪なように思えたのは、お互い警戒していたからかな。
ほっと安堵して、手の中の実に視線を落とす。
ココナッツとかなら、ドリルで穴を開けてストローを差して飲むんだけど、この世界にはストローがないんだよね。
ちなみに、ドリルなんてなくても穴は開けられるからね。私だけじゃなく、クライスもポンちゃんも。
ストローは今後必要になるかもだから、ちょっと考えておこうと心の中にメモをしておく。
「クライス、カップを出してもらっていいかな?」
「わかった」
美味しいジュースだとわかっているなら、ストロー差して飲むのもありだけど、実際のところは何かわからないからね。
ひとまずカップに注いでみようと、クライスにお願いする。
クライスは自分の収納魔法からカップを取り出し、簡単に浄化魔法を施して私へと差し出した。
私は超小さな竜巻を起こして、ドリルみたいに手の中の実に二か所の穴を開ける。
二か所開けたのは空気の通り道を作って、注ぎやすいようにっていう醤油さしの要領ね。
そして、カップに向けて実を傾ければ、とくとくと液体が流れ出る。
「出てきました! って、くさっ!」
「これは……」
「あれ? これって……」
カップに注がれる液体を目にしてポンちゃんが嬉しそうに声を上げたけれど、すぐに顔をしかめて鼻をつまむ。
クライスも期待に満ちた顔から眉間にしわを寄せた。
だけど、私は全然平気。というより、懐かしすぎるにおいに驚くばかり。
カップの五分の一くらい液体を入れると、実を傍の大きな岩の上にバランスよく置いた。
そして、カップをできる限り遠ざけようとしていたクライスから受け取って、鼻を近づける。
「ユーナ様!?」
「大丈夫か!?」
「――うん。大丈夫」
私の行動にポンちゃんは悲鳴に近い声を上げたのは、それほどにおいにダメージを受けていたからかな。
クライスも驚いていたけれど、ポンちゃんほどではない。
魔法で毒ではないのは、とっくに検知していたけれど、これはにおいからしてもまさかの……。
「クライス、ちょっと失礼」
「え? あ、ああ……?」
私がひと言断りを入れると、クライスはわけがわからないまま頷いてくれた。
了承を得たので、私はクライスのカップに口をつける。
「ユーナ様!」
「飲めるのか!?」
ポンちゃんはよほどこのにおいがダメなのか、私が毒を飲んだくらいに驚いて顔色を悪くしている。
逆に、クライスはわくわくした様子でさすがに引くよ。
とはいえ、私は今すごく嬉しい。だって、これ、ずっとほしかったものそのものなんだもん。
「普通は飲まないよ」
「そうなのか?」
「うん。だってこれ、お酢だから」




