52.まさかのどんぶらこ
素敵な朝食の後は、みんなでしっかり片づけて、温泉の街テバナルへ向けて出発。
しばらくは腹ごなしに歩いていると、とても綺麗な水が流れている川にぶつかった。
山の中ではあるけれど、まったく人が通らないわけではないようで、踏み固められている道を進むなら川に沿って上流に向かうことになるみたい。
下流に道が繋がっていないのは、おそらくこの先に滝か何かの難所があるんじゃないかな。
「ユーナ、どうする? テバナルの街はまっすぐだから飛ぶか?」
「そうだねえ。ポンちゃんはどうしたい? のんびり行くか、ぱぱっと温泉の街に行く?」
「ボクは、温泉というのが……」
「ポンちゃん?」
クライスが川を眺めながら訊いてきたけれど、ポンちゃんの意見も大事にしてほしいな。
川は手前は浅いようだけれど、たぶん奥に進むと深くなっているみたい。
渡し舟もないってことは、それほど川向こうに渡る必要性はないってことかな?
なんて考えながらポンちゃんの返事を待ったけれど、答えは途切れてしまった。
こんなときは、何かの異変だと身構える。
ポンちゃんは私よりも周囲で起こっていることに敏感だから、その視線を追って上流を見た。
クライスも私たちの様子から察したのか、身構えたのがわかる。
「……え? あれ?」
「何だ、あれは……?」
「あ……」
いったい上流に何が? と思ったけれど、ポンちゃんの気の抜けた声と同時に、視界に入ったものにクライスは疑問の声を上げた。
うん。私も思わず声を漏らしちゃったけれど、効果音をつけるなら『どんぶらこ~。どんぶらこ~』だ。
どんぶらこと流れてきたのは大きな桃――ではなく、ヤシの実の大きいバージョンみたい。
バスケットボールよりは確実に大きいそれは、浅瀬へと流されて川底の石にぶつかってくるくる回り、また流れ始める。
「危険はないようだが……」
そう言いながら、クライスは足元が濡れるのも気にせず、浅瀬を歩いて大きな実を取り上げた。
まあ、濡れた服などは魔法ですぐ乾かせるからね。
クライスが抱えるほどの大きな実は、中に赤ちゃんが入っていても驚かないくらい。
「何でしょうね。中身に動きがみられたので警戒してしまいましたが、今は生物の気配はしません」
「そうなんだ。じゃあ、赤ちゃんが入っていたりはしないんだね」
「何を言っているんだ、ユーナは。赤ん坊が入っているわけないじゃないか」
「そうですよねー」
「でも、何かの卵かもしれないじゃないですか!」
まるで残念な子を見るみたいにクライスに視線を向けられたけれど、ポンちゃんが庇ってくれる。
うう。ありがとう、ポンちゃん。
でもさっき、ポンちゃん自身が生物の気配はしないって言ったばかりだからね。
それに、私の言葉の意味が通じるのはきっと日本人くらいだから、この世界ではまず無理なんだよ。
「……中身は液体のようだな」
「確かに、ちゃぷちゃぷ聞こえますね」
「果物かな?」
ちょっとへこむ私を無視して、クライスは大きな実を振ってみた。
すると、液体が入っている音が聞こえる。
ポンちゃんの可愛い表現に癒されつつ、ココナッツミルクを思い浮かべる。
クライスは私の言葉に目を輝かせた。
ほんと食いしん坊だな。
「ユーナがいるなら、少々の食あたりは平気だよな?」
「おなかを壊すことを前提で進めないでください。というか、食べ物かどうかもわからないのに、まさか挑戦しようというんじゃ……」
「だが、どう見ても何かの実だろう。ということは、食べられないことはない。――かもしれない」
「毒かもですけどね」
「解毒を頼めるか?」
「だから、食べる気満々じゃないですか」
ヤバい。クライスは本物の食いしん坊だ。
私やポンちゃんと違って、味や安全が保証されたものでなくても、試してみる気だ。
きっとこういう人が、地球でも大勢いたんだろうな。
まず、タコとかウニとか、カニとか、ナマコとか、よく食べようと思ったなってものは多いからね。
陸上の植物にしても、先人のありがたい試行錯誤があったおかげで、私たち現代人の食卓は豊かになったんだから。……こんにゃくを食べようと思った人の並みならぬ根性だけは、理解できないけど。あれ、もとは毒だからね。
毒と言えば、フグもそうだよね。
当たったら死ぬから『てっぽう』って、誰が上手いことを言えと。




