49.最高の朝食
ポンちゃんが起きたらしい気配で私も目が覚めて、一瞬今いる場所がわからなくて混乱した。
だけど自分が寝袋の中にいて、つい先ほどまでの出来事は過去の夢だと気づく。
「ユーナ様、起きますか?」
「うん、そうだね。それに、どうやらクライスはもう起きているみたいだしね」
「ボク……クライスは苦手です」
「どうして?」
「……たぶん、ボクの正体を知っているからです」
「そっか……」
ベイカの街でクライスと再会したときから感じていたけど、ポンちゃんはやっぱりあまりよく思っていなかったんだ。
それなのに、旅に同行することを許したのはよくなかったかな……。
ずっと後をつけられるよりは、一緒に旅したほうがいいと思ったのは、私のエゴでしかなかったね。
「ポンちゃんが人間に化けているからって、クライスは知っていても言いふらすような人じゃないよ。昨日のはちょっと意地悪が過ぎたけどね。でも、ポンちゃんが嫌なら、一緒に旅するのは断ろうか? ついてくるっていっても、逃げることはできるし」
「それは大丈夫です! ボク、ちょっと拗ねていただけで……。逃げるなんて嫌です」
「そっか……。うん、わかった。でもね、ケンカするのはよくないけど、無理に仲良くする必要もないんだからね?」
「一緒に旅をするのに、仲良くしなくてもいいんですか?」
「そりゃ、仲良くしたほうがいいに越したことはないけど、心に嘘を吐くのは違うと思うんだ。だから、苦手だなって思うなら、少しだけ距離を置いていいんだよ」
「ユーナ様は変わっていますね」
「そうかな?」
「はい。ボクが暮らしていた群れでは、仲良くできないなら弱いほうが出ていく決まりだったので」
「あー、なるほど」
寝袋に入ったままだったけど、ポンちゃんとこんなにゆっくり本音で話すのは久しぶりかも。
それに、群れにいた頃の話を聞くのは初めてだな。
「ボク、クライスと旅を続けます! ボクはまだ子どもだけど、気持ちは大人なので!」
「うん、そうだね」
寝袋から抜け出してぺたんと座り、ドヤっと胸を張るポンちゃんが可愛すぎて、笑いをこらえるのが大変だった。
それで誤魔化すように私も寝袋から出て、支度を始める。
寝袋を軽くふわっと振って浄化魔法を施し、くるくるっと丸めて圧縮魔法でコンパクトにして、ポンちゃんのと一緒に収納魔法に仕舞う。
ポンちゃんの圧縮魔法もずいぶん上達していて、この旅で少しずつ魔法使いとしてレベルアップしていて嬉しい。
「おはよう、クライス」
「おはようございます」
「おはよう、ユーナ、ポン太」
テントから出ると、クライスはもう自分のテントを収納していて、昨日作った囲炉裏で朝ご飯を作っていた。
小鍋の中には何かのスープが入っていて、金網の上に置いたフライパンにベーコンを入れる。
途端にじゅわっとベーコンが焼ける音が響き、すぐにジューシーなにおいがあたりに漂う。
これに肉食動物や魔獣が引き寄せられないかって心配は、防御魔法に綻びがない限り必要ない。
クライスは手際よく、金網の隅――弱火の場所にパンを置いて、フライパンからベーコンを取り出し、残った油で今度は卵を焼き始めた。
何これ、最高なんですけど。
「何か手伝うことある?」
「じゃあ、この茶葉で紅茶を入れてくれるか? ミルクが必要なら――」
「ミルクなら私も収納しているから大丈夫。クライスはいる?」
「ああ、三割ほどミルクで頼む」
「了解」
私はクライスの手伝いを申し出たけど、ポンちゃんはテントを頑張って畳んでくれたり、他のことをしてくれる。
ほどよい距離ってこういう感じだよね。
ポンちゃんの言う通り、子どもではあるけど気持ちは大人だな。
こんな感じで旅していけたらいいなと思いつつ、ミルク半分のポンちゃんの紅茶もカップに注いで、いざ朝食!
「これから、ユーナはどこに向かうつもりなんだ?」
「ええっとね、テバナルの街に行こうと思っているんだ」
「テバナルか……。確か、近くに火山があり、温泉街として賑わっている街だったな」
「うん。だけどね、最近源泉が枯れてきているのか、それとも水脈が変わったのか、とにかく湧き湯が減ってきたんだって」
「それで、ユーナが調査に? やっぱり人助けするつもりなんだな」
「いやいや、そんな立派な志じゃないよ。単に温泉に入りたいだけ。ヤク爺さんのお家のお風呂がそれはもうすごくて……。ね、ポンちゃん?」
クライスは私を買いかぶりすぎてる気がする。
だから、温泉街へ向かう本当の理由を話して、ポンちゃんにも同意を求めた。
「はい! 大きいお風呂は眺めもよくてとっても気持ちよかったです~」
「へえ?」
「クライスも入れなくて残念でしたねえ」
「そうだな」
ポンちゃんはヤク爺さんの家のお風呂を思い出したのか、うっとり語っていたけど、クライスに向けた言葉はちょっと嫌みっぽいよ。
でもクライスは気にしていないのか、あっさり頷いた。
こらこら、ポンちゃん。そこでムッとしない。――って、美味しい!
「このベーコン、すごい美味しい! 何か下味つけていたの?」
「下味ではなく、ベーコンの製法時に使う塩が特別なんだ」
「そうなの!?」
「ああ。スベルト地方で採れる岩塩にローズマリーなどのハーブを少し加えたもので塩漬けする。しかも、燻製時にはスモークウッドと共にウィスキーオークチップを少し混ぜているんだ」
「へえ~」
【魔女の知識:スベルト地方の岩塩は品質もよく重宝されるが、魔獣が頻出する場所で採掘されるため非常に高値で取引される】
確か、宝石と同じくらいの値段がするはずなのに、ベーコン用にスベルト地方の岩塩を使うとか、王室御用達なベーコンな気がする。
それに、ウィスキーオークチップって、ウィスキーを保管していた樽を再利用するためにスモークチップにしたやつだよね?
要するに、このベーコンは超高級品ってことで、クライスは野宿というか野営もてきぱきこなしているけど、やっぱり王子様だなって思う。
まあ、それで私に不利益があるわけじゃないから別にいいけど。
ポンちゃんも黙々食べているってことは、かなりこの朝食を気に入ったってことだしね。
それにしたって、クライスは王子様なのにベーコンの作り方に詳しすぎる。
昨日の食レポもそうだけど、想像以上にかなりの食いしん坊なのでは?




