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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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48.【ていねいな暮らし】

 

 まさか私がこんな生活をするとは思っていなかった。

 ちなみにパンの焼き方だとか、木の実やキノコの下拵えの仕方とかは、ありがたいことに魔法で調べることができる。

 魔法ってすごく便利だけど、たぶんここまでできるのは〝悪逆の魔女〟くらいみたい。

 先代魔女の魔法の知識は膨大だけれど、過去に遡るとかなり曖昧で訳がわからなくて、私までおかしくなりそうだから中断した。

 その代わり、魔法以外の知識――料理の仕方やこの世界で生活していくための知恵のようなものは、どこかの文献を引っ張ってきているみたい。

 頭の中にネットで調べた文章が出てくる感じなのがすごい。

 ただし、油断すると魔女の精神がざわざわ蠢く感じになるから、一日一回精神集中運動大事。


「ユーナ様、これくらいでどうですか?」

「うん、いい感じだね。それじゃあ、そろそろ形作ろうか?」

「わーい! これが一番楽しいですよね!」

「うんうん。今日はぐるぐるうずまきにしてみようかな」

「じゃあ、ボクは葉っぱの形にしてみます!」


 パン生地の成形は毎回いろいろな形にして焼くから、ポンちゃんが一番好きなのは当然だよね。

 粘土遊びみたいな感覚かな。

 ただし、中が生焼けになってしまわないようには気をつけないとダメで、ポンちゃんにも説明したらすぐにわかってくれた。

 ポンちゃんは子どものようでいて、生活面では意外としっかりしているのは、元野生の動物ならではなのかな?

 魔法が使える時点で、普通の野生動物とは違うみたいだけど。

 この世界の動物すべてが魔法を使えるわけでもないんだよねえ。


「……ねえ、ポンちゃんは家族に会いたい? もし会いたいなら、探すことはできるよ?」

「大丈夫です。ボクはもう独り立ちする年だったので、ちょうど家族と別れたところだったんです。それで戦いから上手く逃げられなくて怪我をしてしまったのは、情けないんですけど……」

「情けなくなんてないよ。あれは……酷かったから……」


 それ以上はやっぱり言えなかった。

 先代魔女は私とは別人だと言いたいけど、その力を使って今は便利に生活しているんだもん。

 だから、どうしても気になるのは、なぜ〝悪逆の魔女〟と忌み嫌われる存在になってしまったか。

 もちろん、それが『聖女殺し』にあるのは、この世界の常識として頭にあるんだけど、じゃあどうしてそんな悪行をしてしまったのかがわからない。

 そもそも、魔女の記憶に〝聖女〟がほとんど存在しないことが不自然なんだよ。

 過去の記憶に遡ろうとしてざわざわするのは、〝聖女〟に関して触れようとしたとき。

 だから、魔女の記憶を探るんじゃなくて、外側から攻めてみるのはどうかなと最近は考えている。

 そのためには、やっぱりこの小屋に籠っていたらダメなんだよね。


 ふうっと一度大きく息を吐いてから、パンをオーブンにセットした。

 シチューはこのままじっくり煮込めばいいから、午後の時間をポンちゃんとまったり過ごす。

 そんな時間はとても心地よいけど、そろそろ旅立つことを話さないと。

 そう思って、どうやって切り出すべきか探りながらの会話はどこかぎこちなくなってしまっていた。

 ポンちゃんはそのことに気づいたのか、可愛く首を傾げる。


「ユーナ様? どうかされましたか? ボクには何でも言ってくださいね?」

「――ありがとう、ポンちゃん。実はね、この小屋で暮らすのも楽しいけど、せっかくだから、広いこの世界をいろいろと見て回ろうと思っているんだ」


 子どもなポンちゃんに気を遣わせてしまったことを情けなく思いつつも、ここ最近考えていたことを口にした。

 すると、ポンちゃんはショックを受けたようで顔色が悪くなる。


「ボ、ボクは置いてけぼりですか……?」

「まさか! ポンちゃんさえ、よければ一緒に行きたいと思ってるよ! この家は保護魔法をかけておけば、傷まないし、誰かに見つかることもないから……ただ、旅の途中で何があるかはわからないから、ここの暮らしのように平和ではいられないと思う」

 

 私の正体は隠しておくつもりだけど、だからといって魔法を封印するわけじゃない。

 だとすれば、いつ〝悪逆の魔女〟だってバレるか、迫害されるかわからないから、ポンちゃんにつらい思いをさせるかもしれない。

 そう思っていたけれど、ポンちゃんは先ほどのショックが嘘のように顔を輝かせた。


「絶対一緒に行きます! ユーナ様と離れるなんて考えられません! ボクだって魔法が少しは使えるようになりましたから、お邪魔になることはないと思います!」

「うん。ポンちゃんが邪魔になるなんて考えてないよ。お忍びで街に買い物にいったときも、上手くできていたもんね。ただ楽しいことばかりじゃないと思うから」

「そんなの、平気ですよ! もしつらいことがあったら、ボクがユーナ様をお守りします!」

「ありがとう、ポンちゃん。それじゃあ、せっかくだから世界一周グルメ旅をしよう!」

「グルメ……?」

「美味しいものをいっぱい食べるってこと」

「食べます! 美味しいもの! グルメ!」


 興奮のあまり、ポンちゃんは隠していたしっぽが現れてしまったけど、気づいていない。

 嬉しそうにぶんぶん振られているしっぽを見ながら、フォローが必要だなって思ったのは内緒。

 とにかく、せっかく異世界に来たんだから、珍しいものを見て、美味しいものをいっぱい食べるぞ!




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