4.絡み酒
「俺が三日前に森で炎リザードに傷を負わしたんだ! あとはトドメを刺すだけだったのに、逃げられてよお……次こそはって思ってたところだったのに、お前らが俺の獲物を奪い取ったんだ! なあ、みんなもほんとはこんなやつらが炎リザードを倒せたなんて、思ってないよな!?」
酔っ払いが嘲るように大声で周囲に問いかけたせいで、かなりの注目を浴びてしまった。
途端にみんな困惑したような顔になる。
ええ? ひょっとして、この人の言ってることを信じてる?
まあ、気持ちはわからないでもないけど。
私はあまり魔法使いらしくない姿だし、ポンちゃんは子どもだからね。
「そもそも、そんなにすげえ魔法が使えるなら、一年前の戦争では何してたんだよ? ああ?」
「それは……」
魔女と精神戦をしてました。とは言えない。
戦争を止めに入ったとも言えないよね。
「なんだ、言えねえのかよ! そりゃ、そうだよな! 俺様はな、あの戦争に参加して何人もの敵を倒したんだぜ? お前らとは経験も――」
「嘘ですよ。あなたは、ただ逃げ回って運良く生き延びただけです」
「んだと!?」
「ポンちゃん……」
あの戦争を持ち出されると、たとえ先代魔女の責任とはいえ申し訳なくなる。
そんな私と違って、ポンちゃんは先ほどとは打って変わって、冷ややかに告げた。
ポンちゃんがここまではっきり言い切るってことは、たぶんニオイか何かでわかるんだと思う。
ニオイに敏感なポンちゃんは、私が探知魔法を使っていなくても、危険なニオイとかをかぎ分けてくれる。
ということは、炎リザードは傷ひとつなかったし、この酔っ払いは戦争でも逃げ回っていただけの大ぼら吹きってことだ。
「女とガキだと思って見逃してやろうと思ったが、許せねえ。特にお前! 戦争も知らねえような洟たれの甘ったれたクソガキが――」
「は? 今、何て言った?」
「んだ、こらぁ!」
スルーしようと思ったけど、今の言葉は許せなくて言い返す。
戦争に巻き込まれて大怪我して、それでも人間を嫌うことなく、回復してからは魔法を一生懸命練習して、やっと人間に変身できるようになったら「えへへ。これでユーナ様といっしょですね」って可愛く笑った天使のようなポンちゃんのこと、なんつった?
ポンちゃんを傷つける者は何人たりとも許せない。
「私の可愛い可愛いポンちゃんのこと、何て言ったか訊いてるんだけど?」
「ユーナ様……」
「まあまあ、お嬢さんが怒る気持ちもわかります。彼は――ガースは戦争帰りでちょっと疲れていて――」
「ああ!? 邪魔すんじゃねえ、くそおやじ! 俺様はこのお嬢ちゃんにちょっとばかし、お仕置きしてやらなきゃなんねんだよ!」
騒ぎに気づいたのか、店主さんがやって来て酔っ払いの代わりに謝罪してきた。
どうにか騒ぎを収めようとする店主さんに対して、かなり横柄な態度にイラっとする。
どこの世界にも、こういう人っているんだね。
「店主さんが謝罪なさる必要はありません。こんなに美味しいお料理を作ってくれたのに、騒がしくしてすみませんでした。ちょっとばかり、失礼しますね」
「い、いえ……?」
戸惑う店主さんから酔っ払いに視線を戻すと、いやらしいにやにや笑みを浮かべていた。
この気持ち悪い笑顔はすごく覚えがある。
セクハラまがいの発言が多かった顧客にそっくり。いや、もうあれは客でも何でもなかったな。うん。
「お店にご迷惑をおかけするわけにはいきませんから、表に出ましょうか?」
「んだ、お嬢ちゃん。よおくわかってんじゃねえか」
「わかってねえのは、てめえのほうだろ?」
「ああ!?」
おっと、言葉遣いが荒くなってしまったよ。
感情的になると、つい昔の癖が出るんだよね。
困った、困った。落ち着こう。
ほら吹き野郎の後方よし。直線上に障害物なし。軌道を少々上方に向ければ、店舗外への人的被害予想なし。終点に向かい店舗石壁あり。確認OK。
というわけで、ほら吹き酔っ払いに座ったまま右手を差し出せば、また嫌な笑みを浮かべて掴もうとする。
別に手を借りて立ち上がろうとしたわけじゃない。
そのまま右人差し指をデコピンの要領でピンっと宙で弾く。――瞬間、酔っ払いはお店の外へと吹っ飛んでいった。




