3.お醤油はソウルフード
楽しそうで何より。……というわけで。
店主さんが調理場に戻ったので、こっそり秘密の鞄から小さな瓶を取り出してふたを開け、ポトフに中の液体を数滴たらす。
それをポンちゃんは見逃さなかった。
「ユーナ様、ボクにもオショーユほしいです!」
「ポンちゃん、こっそりね」
「わかりました。すみません……」
「謝らなくてもいいよ。ね?」
もちろんそのままでも十分美味しいポトフなんだけど、お醤油を数滴足すだけで味が引き締まるんだよね。
やっぱり『醤油』は私のソウルフードで、造らずにはいられなかった。
それで、ポンちゃんの怪我が治って魔法が上手く使えるようになる間、元魔女の家だった森の中の小屋で試行錯誤して造ったってわけ。
そのあたりは割愛するけど、とにかく最恐の魔女の力は伊達じゃないってくらい、魔法は便利ですごかった。
とはいえ、勝手に隠し味を足すのは店主さんには失礼だからね。
ポンちゃんに秘密にするよう注意したら魔法で隠したはずのケモミミがしょぼんとしているのが見えるようで、私は慌ててお醤油を足してあげた。
今度は上手く隠せるようになったシッポがぶんぶんしている幻が見えるくらい、ポンちゃんは嬉しそうに顔を輝かせる。
「美味しいです! やっぱりソウルフードは最高ですね!」
「う、うん。そうだね」
ポンちゃんは店主さんにばれないようにか、私がよく口にする「ソウルフード」って言葉を使って喜んでる。
実は『醤油』だけでなく『味噌』も造ったんだよね。
だから、野宿するときにはお味噌汁や味噌炒めを作ったりしているからか、ポンちゃんにもすっかり「ソウルフード」は馴染んでしまったみたい。
二人で美味しいご飯をほくほくしながら食べていたら、空いていた椅子にいきなり知らない男性が座ってきてびっくり。
ずいぶん馴れ馴れしい人だなと思ったけれど、かなり酔っているみたい。
いつの間にか店内は酔いも回ってきたお客さんたちで大賑わいで、店主さんも忙しそうに働いている。
「いやあ、ほんとーに! あんたがリザードを倒してくれてよかったよ!」
「……いえ、私だけの力ではなく、この子も一緒に頑張って炎リザードを倒すことができたんです」
「ははは! いい加減、嘘はやめろや。本当はあんたらが倒したんじゃなくて、すでに弱ってたんだろ? お前みたいな女と子どもが炎リザードを倒せるわけねえんだから」
謙遜して答えたら、すうっと笑顔が引っ込んで絡まれ始めたよ。
嫌な感じの酔っ払いだ。
絡み酒っていうか、人に迷惑かける感じかあ。
体格もいいし、ひょっとしてこの町の力自慢だったりして、プライドを傷つけたのかも。
「運がよかったんでしょうね」
「んだと? 馬鹿にしてんのか!?」
ああ、やっぱりダメなやつ。早く周りが止めてよ。……と思ったけど、みんな酔いすぎているのか、面白そうに見ているだけ。
娯楽の少ない場所では、ケンカさえも見世物になる感じ?
店主さんはこっちのちょっとした騒ぎには気づいていないみたいだし、どうするかなあ。




