46.【戦争】
あちらこちらで怒号が飛び交い、爆発音が響き、閃光が走る。
煙に混じって臭うのは血と泥と焦げ臭さ。
火薬の臭いがしないのは、爆発に科学の力が使われていないから。
剣と盾を握った人たちが争い血を流している中で、少し後方に陣取っているのは魔法使いたち。
今、目の前で繰り広げられているのは国同士の戦争。
だけど私はこの戦争を止める力がある。
というよりも、止めなければいけない。
この戦争を引き起こしたのは〝私〟でもある魔女だから。
私は煙に曇った夜空を見上げて、ここで注目を浴びるにはアレしかないと考える。
そして必要はないけど、何となくかっこつけたくて(誰も見ていないけど)右手を空に掲げた。
同時に、私の手のひらから発せられたかのように、光の玉が夜空に打ち上がる。
もちろん『ひゅるる~』という効果音付き。
血と汗と涙と泥が飛び交うこの戦場では、かなり気が抜ける音なんだなって思う。
だけど、そのせいかみんながその音に意識を向け、新たな攻撃かと身構えているのがわかった。
一瞬なのに、永遠にも感じられるような不思議な時間。
そして、今度は夜空にぱっと閃光が走り、『ドンッ!』と重い音が体の奥深く、内臓まで響いて揺らす。
そうそう、これこれ。
昔一度だけ見たことがある、四尺玉の大花火。
夜空を覆いつくすような大きな花火は、戦場にいる人たちの動きを止めた。
――けど、それは一瞬で、すぐに皆は頭を低くして攻撃に備える。
うん。さすが戦時中の人たちは動きが違うな。
これが本当に火薬を使った花火だったら、破片とか落ちてきて大変だったかもね。
だけどこれは魔法で火薬玉を模した花火だから大丈夫。
一発だけだと寂しいから、後は一尺玉くらいの色とりどりの花火を十発くらい打ち上げてみる。
よし。これでみんな戦意はちょっと喪失した感じ。
美しい花火を見れば、心も和んだかな?
ということもなさそう。
たぶん、初めて見る打ち上げ花火に驚いているだけで、もう少ししたらまた争い始めると思う。
だから戦いを中断している今、私がやるべきことはみんなの前に出ること。
「あの~すみませんけど、戦いはもうやめてください」
私が声をかけると、みんなが一斉にこちらに向いた。
うう。多勢の前で話すのは慣れていないから、緊張する。
だから大きい声は出せないし、気が抜けたような話し方しかできない。
それでもみんなが私を見ているのは、宙に浮いているから。
使える魔法は有効活用してこそ。
この戦場にいる人たちみんなに私の間抜けな声が聞こえるようにしているのも、魔法の力。
遠くて見えにくくても、はっきり脳裏に私の姿が浮かぶのも魔法の力。
いわゆる異世界転移をした私だけれど、できれば転生とかして絶世の美女になりたかったなというのは置いておいて。
深紅のローブを頭からかぶって顔を見えにくくしているのは、顔を隠したいからです。はい。
なぜなら私はお尋ね者でもあるから。
と、どうでもいいことを考えているうちに、動きが止まっていたみなさんの頭もしっかり働き出したみたい。
私に向けて一斉に弓矢が飛んでくる。
それを魔法で簡単に消し去ると、次に後方の陣営にいるらしい魔法使いたちから様々な攻撃魔法が仕掛けられた。
それも両陣営からだったけれど、私が両手を空に掲げてくるりと円を描けば、シュンって音がかすかに聞こえて攻撃魔法さえも無力化する。
ちなみに両手を掲げてみせたのはただのパフォーマンス。
微動だにせずに魔法を無力化することもできたけど、それじゃあ地上の兵士さんたちには何が起こったかわかりにくいと思うから。
ちゃんと私が攻撃魔法を――両陣営の魔法使いの魔法さえも一瞬で無力化できますよとアピール。
その甲斐あって、私の正体はちゃんとバレたみたい。
「魔女だ!」
「そ、そうだ! あれは魔女に間違いない!」
「魔女が現れたぞ!」
「〝悪逆の魔女〟だ!」
恐れおののくような悲鳴が至る所から上がる。
はい、すみません。おっしゃる通りです。
そしてこの戦争を仕掛けたのも私。――正確には、私の前の私。
だから、この無益な戦争を止めたい。
「先ほども申しましたが、もう戦いはやめてください。これ以上両者が争うことを私は許しません」
って、どの口が言うんだって話だけど、それはそれ。
どれほど私の――〝悪逆の魔女〟の力が強いのかをさっき見せたから、私の言葉も効力を発揮するはず。
「今、この場にいる魔法使いたちは、治癒魔法以外の魔法を五日間使えない縛りを施しました。また武器を――剣や弓矢を扱おうとすれば、その体は一日足の裏の痒みに悩まされます。頑張って」
実際、私の忠告を聞かずに再び矢を放った何人かの微妙な悲鳴が上がる。
うん。足の裏が痒いってつらいよね。
この戦争で死んでしまった人を生き返らせることはできないけれど、これ以上の被害だけは防げたかなと思うので、後は両者で話し合って妥協点を見つけてほしい。
「今後は、二国間で和平協定が結ばれることを、私は期待しています。それまで、私はあなたたちを見ています」
そう。私こと〝悪逆の魔女〟はあまりに強大な力を持つ魔女だから、国のひとつやふたつは簡単に潰せる。
こうして脅しておけば、嫌々ながらも戦争は終結するよね。
戦場に出てくるくらいの魔法使いなら、魔法が使えなくなるってたぶん日本人にとっての電気が使えないってくらい不便だろうから無駄な抵抗はしないはず。
魔法使いたちが陣取っている場所がざわついているのは、やっぱり私への攻撃を試したのかな。
不便さを思い知るがいいよ。ふん。
「待ってくれ!」
これでもう大丈夫かなと思って去ろうとしたら、片側の国――マケイラ王国側の魔法使い陣営の最前線から誰かが私に呼びかけた。
その声は聞き覚えがあって、下方に視線を向けると、やっぱり彼――マケイラ王国第三王子であるクライス王子だった。
クライス王子は王族の中でもとびっきりの魔法使いで騎士でもあって、だからといってこの戦争の最前線にいていい人物じゃないと思うけど、彼らしいなと思う。
「君は、あのとき森で迷っていた……?」
そう問いかける声を懐かしく思うのも不思議。
あれはたったの半年前なのに、もう何百年も前のような気がする。
思えば遠くに来ちゃったなあ、なんて感傷に浸りそうになったから、クライス王子には精一杯の笑顔で答えた。
「はい。私があのとき助けていただいたバカです」




