42.チャイもどき
ご飯を食べ終わったら、片づけは任せてほしいってクライスに言われたので、素直に任せることにした。
本来ならお皿洗いとか大変かもだけど、簡単浄化魔法があるからね。
クライスは器用に水魔法でさっと汚れを洗い流し、それから浄化魔法でピカピカにしてくれた。
そのお皿やフライパンを私が収納魔法で仕舞っていると、クライスは自分の収納魔法から何やら取り出す。
「ユーナとポンはスパイスは平気か?」
「辛い系?」
「いや……香り系かな?」
「じゃあ、大丈夫。でも、ポンちゃんはどうかな?」
「ボクも大丈夫です!」
香り系のスパイスってなんだかわからないけど、思い浮かんだのはシナモン。
まあ、あれは香りが特徴的で薬効があるんだけど、それでいうならスパイス全般そうだよね。
漢方というか、ハーブというか。
ただ、スパイスはクセが強いのが多いから、ポンちゃんは苦手かも。
だけど、フンスって鼻息荒く答えるポンちゃんは、まだクライスを警戒しているようで、ここで弱みを見せたくないんだなと思って止めるのはやめておいた。
子どもに危険なものなら感知できるし、何よりポンちゃん自身がよくわかっているだろうから。
これからクライスが何をするのかと見ていると、小鍋に水を入れてスパイスを二種類くらい入れる。
途端にあたりに独特な香りが広がって、シナモンではないけど似たようなものだとわかった。
ポンちゃんは鼻をひくひくさせていて、刺激が強かったかなと思ったけど大丈夫そう。
クライスもポンちゃんを心配してか様子をちらりと見たけれど、私と同じように大丈夫だと判断したらしくて、沸騰するスパイス入りお湯の中に茶葉を入れた。
これはひょっとしてひょっとすると? と期待を膨らませていると、クライスは保存魔法を施していたらしい瓶からミルクを鍋の中に注いだ。
わーい! チャイだ! ……違うかもだけど。
テントを張って、野外で焚き火を囲んで、食後にチャイを飲むとか、最高のシチュエーション。
これぞゆるりキャンプ。気まま旅。
クライスは直接火が当たらない場所に小鍋を移して弱火で煮込むようにして、その間に新たにカップと注ぐための濾す道具を収納魔法から取り出した。
私も急いで自前のカップをポンちゃんの分と二つ取り出す。
「熱いから気をつけて」
「ありがとう、クライス」
「……ありがとうございます」
慣れた手つきでクライスはチャイもどきをカップに注いで渡してくれる。
たぶん魔女を捜して森の中を進んでいたときも、こんな感じで率先して動いていたんだろうな。
お付きの人たちは何かと冷や冷やしているようだったけど、笑い飛ばしていたもんね。
だとすれば、きっと今回の私の監視についても、お付きの人たちを置いてきたのかも。
「……あのお付きの人たちに止められませんでしたか?」
「それなりには。だが、ユーナ一人を監視するのに、何人もぞろぞろついてきても鬱陶しいだろう」
「それはまあ……」
でもそういう問題じゃないというか、王子様自ら監視要員をすることはないというか、なんというか。
とはいえ、〝悪逆の魔女〟である私を監視するには、最高位の魔法使いでも無理だろうし、それなら見知ったクライスが適任なのかも。
私もクライス以外の人だったら、こうして一緒に旅をしようなんて思わず、さっさとポンちゃんを連れて逃げてたもんね。
なんて考えながらカップに口をつけて感動。
「美味しい!」
「それはよかった」
ちょっと違うけど、これはチャイと呼んでもいいんじゃないかなって感じ。
いや、地球の本場の人に怒られるか。
とにかく、スパイスがいい感じに紅茶の風味を引き立てていて、ミルクのくどさを消してくれている。
「ポンちゃんは……無理しなくていいんだよ?」
「大丈夫です。飲めます」
そんな眉をしかめて決死の覚悟って感じで飲まなくても。
毒でないのは確かだけど、やっぱりスパイスの香りは鼻が利きすぎるポンちゃんには苦痛なんじゃないかな。
だけど本人が大丈夫と言っているんだからと、黙って見守っていると、ポンちゃんはぎゅっと目を瞑ってごくりと一口飲んだ。
うん、頑張った。




