41.お箸
いい具合に焼き上がった海鮮――といっても、クラーケンしか入っていないけど、お好み焼きをお皿に移して晩御飯の出来上がり!
コテがあればさらによかったなと思って、お料理って凝り出したらキリがないなとおかしくなる。
でも、たこ焼き用の鉄板と一緒に発注しようと心にメモして、ナイフをお皿の傍に置いた。
「さあ、食べようか」
「はい!」
「はい!」
「いただきます」
「いただきます」
「うん?」
私が「いただきます」「ごちそうさま」を言うからか、ポンちゃんも一緒に手を合わせて言ってくれるようになった。
クライスはポンちゃんにつられて元気よく返事をしたけど、「いただきます」はわからなかったみたいで首をひねる。
それもまた後で説明しよう。
それともう一つ、ポンちゃんはお箸も使える。
ナイフとフォークだけでも問題ないと言えばそうなんだけど、やっぱりお箸で食べたいって気持ちから森の木で作って使ってたら、ポンちゃんも頑張って覚えた。
ただ、お箸を使うのは二人きりのときだけだったんだよね。
目立ちたくない、っていうのは子どもと二人で旅している時点で無理だし、魔法もがんがん使ってるから無理だけど、それでもできる限り異端なことはしないほうがいいかなと思ってる。
何がきっかけで迫害されるか、たとえ〝悪逆の魔女〟とバレなくても、群集心理は恐ろしいからね。
ま、だからといって、危険なわけではないけど、逆に何がきっかけで私が――私の中の魔女が暴走してしまうかわからないから、平和が一番。
だけど、クライスの前でまで隠していたらこれからずっと使えないから、遠慮はしない。
「ユーナ、その二本の棒は何だ?」
「これはお箸といって、私の故郷でご飯を食べるときに使うカトラリーだよ」
「そうか……」
クライスの質問に答えると、それ以上はもう追及されなかった。
またまた気を遣ってくれたのかも。
「――っおいしー! です!」
「ほんと? そう言ってもらえると嬉しいな」
あれこれ考えても仕方ないと、ポンちゃんと一緒にクラーケン焼きに手をつける。
ポンちゃんは一切れお口に入れてから、ぱっと顔を輝かせて叫んでくれた。
うんうん。そう言ってもらえるのが一番作り手の幸せだよね。
「うん! イカ焼きだ。美味しいね!」
クラーケン焼きではあるけど、味はイカと変わらない。
噛めばふわふわと弾力があり、香ばしい甘辛なお醤油の味が口の中に広がって、鼻を抜けていく。
屋台で食べたイカ焼きとは少し違うけど、それでも懐かしさにちょっとだけ涙が出たのはポンちゃんには内緒。
「クライスも遠慮せずどうぞ。好きなもの食べて。……って、最初から切り分けていたほうがよかった?」
「いや、私は平気だ」
「なら、どうぞ」
「ありがとう」
イカ焼きに手を付けず、私たちが食べるのを見ていただけのクライスを促したけど、考えてみたら王子様なのに分けっこは失礼だったかなと今さら気づいた。
それで慌てて訊ねたら、優しい笑顔で否定してくれる。
どうやら単純に遠慮していたみたい。
「これは……」
「これは?」
「美味しい! 初めての味に初めての触感……全体的に柔らかいのに弾力があり、噛めば噛むほど味が染み出し……」
「あ、うん。とにかく美味しいならよかった」
クライスの食いしん坊疑惑がますます濃厚になるよね。
食レポすごい。そのうち『味の宝物庫だ~』とか言い出したらどうしよう。
お腹がよじれるほど笑える自信がある。
そんなことを考えていたら、ポンちゃんがワカメに手を伸ばして感嘆の声を上げた。
「この緑の海の野菜も美味しいです!」
「うんうん。これはね、海藻の一種だよ。まあ、要するに海の中の野菜だね」
すごく適当な説明でごめんね。
ポンちゃんの言う「海の野菜」が可愛かったので採用。
ひょっとして、どこか別の港町では海藻も食べるかもしれないし、他にも昆布や海ぶどうとか探すのもいいかも。
それに、今度は金網を使って、いただいた貝類を直接焼くのもありかも。
磯焼だけでなく、サンマっぽいものも焼いて食べたら絶対美味しい。
大根はあるから、あとはすだち……七味もほしいけど、それはまたでいいか。
トマト煮に入っていたスパイスは、唐辛子によく似たシンネロっていう香辛料で、奥様に少し譲ってもらったから、一味ならできるな。
次にお箸を進めたのはバター焼き。これはお母さんがよく作ってくれていた料理で、イカに限らずあさりとか、海鮮に限らずお肉まで焼いてくれていた。
お母さんが言うには、「何でもバター醤油にして塩コショウすれば美味しいのよ」とのことだったけど、正解だと思う。
胡椒もこの世界ではなかなか貴重ではあるけど、魔女でよかった。




