39.一家に一台
お腹いっぱいで少し休憩してから、またポンちゃんとクライスと歩き始めたのは、今夜は野宿予定だから。
今日こそは、イカ焼きならぬクラーケン焼き、バター醤油焼き、海鮮お好み焼きもいいかも。
以前、頑張って作ったお好み焼きソースもどきがまだあるんだよねえ。
待てよ。ということは、たこ焼きのイカバージョンも……ダメだ。一家に一台のタコ焼き器がない。
それじゃ、海鮮お好み焼きと何が違うのってなるし。うん。どこかの大きな街にいったら、たこ焼き用の鉄板を鍛冶屋さんに依頼しよう。
って、そうだ。鉄板を小屋に忘れてきちゃった。ということで、お好み焼きもフライパンで作ることになるわけで。
今回はそれで妥協するけど、やっぱり鉄板だよね。
「ユーナ様、どうかしましたか?」
「うん。関西人の血が騒いだだけ」
「血が騒ぐ? 敵ですか!?」
「違う違う。誤解させてごめんね。私の……昔よく食べた料理を思い出してたってこと」
「そうなんですか? じゃあ、ボクは今までユーナ様と食べたご飯を思い出すと、全部血が騒ぎます!」
「そっか。うん。私も、ポンちゃんと食べるご飯はとっても美味しくて、血が騒ぐね」
ご両親とはぐれてしまったポンちゃんに、私の子どもの頃のことを話すのは酷かなと思って誤魔化したら、かなり誤解されてしまった。
けどまあ、いいか。幸せに血が騒ぐもんね。
就職で上京して、忙しさにかまけてろくに帰省することもなくて、あの頃はまさかお母さんが事故で亡くなるとは思ってもいなかった。
母子家庭だったから、あのときは誰に頼ることもできなくて、本当にきつかったなあ。
この世界に召喚された今は、日本に残してきた人もいないから素直にこうして楽しめているけど、「いつか」なんて永遠に来ないこともあるってよくわかっているから。
やりたいことは今しよう!
「よし! ポンちゃん、クライス、今日はここで野宿はどうかな?」
「いいですねえ。今夜は雨も降りそうにないですし、野宿日和です!」
「私も賛成だ」
雨の気配を嗅ぐように鼻をふんふんさせて答えるポンちゃんが可愛い。
私が選んだのは、昼間に休憩した大木とは違って、少し山道を入ったところにある池の畔。
池の中にも危険生物はいないし、安全確認OK。
収納魔法の中からテントを取り出し、魔法で組み立てる。
テントはもちろん既製品ではなく、私のお手製。――とはいっても、下に敷くシートは柔らか絨毯、周囲に張る布は厚手で、中で光を照らしても透けないようにしている。
それらにすべて防水魔法と防炎魔法を施していて、骨組みはただの棒を組み合わせただけ。
もちろん魔法で補強しているから、強風でも倒れたりしない安心安全設計。魔法万歳。
「すごいな、これは」
「うん。野宿用に改良したテント。でもすごくいいお天気のときは、外で寝たりするけどね」
「本来なら危険だと反対したいところだが、ユーナだからなあ」
私がテントを魔法で組み立てるのをじっと見ていたクライスは、テントをそっと触りながら呟いた。
ちょっと自慢げに答えると、クライスは一瞬眉を寄せ、それからため息交じりに言う。
私が最強の魔法使いってわかってくれているからだね。
一昨夜にエレシムさんと何を話したのかはわからないけど、クライスは自分の収納魔法からテントらしきものを取り出した。
「それは?」
「私も野宿用にテントは持ってきている。というより、魔法騎士は皆が携帯しているな」
「そうなんだ。魔法騎士は全員収納魔法を使えるの?」
「ああ。それが魔法騎士になれる基準でもあるかな」
「なるほど」
収納魔法はけっこう難しい魔法だから、それだけ魔法騎士になるのは大変ってことだ。
そりゃ、街の人たちも尊敬するよね。
テントを張って、念のために半径五メートルくらいの防壁魔法を施す。
それから、少し大きめの石を集めて囲炉裏みたいにして、今日一日お散歩させていた枝を取り出し、短く折って薪代わりにする。
「ごめんね、ハル一号、ハル二号……」
ポンちゃんはお散歩させていた枝を折る時に、名前を呼んで謝っていて、ちょっとかわいそうなようで可愛い。
ちゃんとポンちゃんもわかっていて、本気で感情移入しているわけじゃない。ただ、いつものように自然に感謝しているんだよね。
旅に出るまでの――旅に出てからも、狩猟で得た獲物を捌くとき、食べるときには、私もポンちゃんも感謝している。
私は膨大な魔力を持っているけれど、それでもこの世界に生かされているから。




