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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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38.いい感じの枝


 少し歩くと、いい感じの枝を二本見つけたので、ポンちゃんと私とで持って歩く。

 なぜか〝いい感じの枝〟ってあるよね。他にも〝いい感じの小石〟とか。

 家に帰るまでの宝物なのに、道路に蹴り出してしまったり、大人に注意されたりして手放してしまう。

 でも今は、スピードを出す車もいないし、枝を振り回したら危ないって言う大人もいない。

 そもそも私が大人だし、クライス王子は本当にただ見ているだけで、何も言わないというか、不思議そうな顔になってる。


「ねえねえ、ポンちゃん」

「何ですか?」

「この枝ね、先に向かってすごく細くなっているでしょ? それに曲がってる」

「まっすぐなものを探しますか? それとも、もっと太いもの?」

「ううん、これでいいんだよ。あのね、こうやって……」


 枝を振り回して、びゅんびゅん風を切る音を楽しんだら、次は別の遊び。

 すごく子どもっぽいことをしている自覚はあるけど、別に大人になっても遊べばいいんだよね。誰かに迷惑をかけないなら。

 だから、ポンちゃんに説明しながら細くしなった枝の先を軽く地面へとつける。


「このまま歩き出したら、ほら。まるで枝が生きているみたいじゃない?」

「わあ! 本当です!」


 まるでリードに繋いだペットを散歩させるように歩けば、少し先に下ろした枝がでこぼこ道に引っ掛かって、あちらこちらにちょこちょこ小さく動きながらも前へと進む。

 昔はペットが飼いたくて、犬の散歩をさせている友達が羨ましかったんだよね。

 今はその余裕がないこともないけど、やっぱり生き物を飼う責任を考えると難しいかな。

 何より、私にはポンちゃんの保護者としての立場があるから。


「っあ! 折れてしまいました……」

「力加減が難しいからねえ。あと、どうしても消耗するから仕方ないよ。別の枝見つける?」

「はい!」


 枝の散歩はちょっとしたコツがいるから、慣れないうちはすぐに先が折れちゃうんだよねえ。

 枝を探すために周囲を見回せば、すっと背後から新しい枝を差し出された。


「どうぞ」

「……ありがとうございます」


 ちょっと驚きつつ私が受け取ってポンちゃんに差し出した。

 ポンちゃんはためらっていたけど、あまりに〝いい感じの枝〟だったからか、誘惑には勝てなかったみたいで受け取る。

 見れば、クライス王子はまだ数本の〝いい感じの枝〟を持ってて、なんだかおかしくなって笑ってしまった。


「クライス…も一緒に遊びましょう」

「――では、遠慮なく。ついでに言葉遣いも気にせず普通に話してくれると嬉しいな」

「わかり……わかった」


 一緒に旅をするって決めたんだから、遠慮は不要だよね。

 魔法騎士相手なら、私が丁寧に接していてもおかしくはないんだけど、それじゃあいつまでたってもポンちゃんが警戒したままだしね。

 また歩き出したら、意外にもクライスは枝の散歩が上手かった。

 何でもそつなくこなすし、やっぱりスパダリ属性は違うね。


 何度か枝の先が折れて、また新しい枝を探して散歩させて、なんて繰り返しているうちに、お昼になっていた。

 途中で商人らしき馬車に乗った人にすれ違いがてら、声をかけてもらったりしたけれど、ポンちゃんが枝に名前をつけてたから少し怪しげに思われてもいたみたい。

 そういえば、日本の昔話で人を化かすタヌキの話もあったなって思い出しておかしくなったのは内緒。

 だって、こんな人里離れた山道で、魔法騎士が子どもと成人女性を連れて歩きながら枝を散歩させているんだもん。

 ひょっとして家族だと思われるかもと思ったけれど、のんびり歩いている時点で怪しいからね。

 今はまだ変な三人組に会った、ていう話かもしれないけれど、それが次第に尾ひれがついて妖怪になるのかも。


「ユーナ様、あの木の下はどうですか?」

「そうだね。虫もいないみたいだし、木陰もしっかりあってよさそう。クライスはどう思う?」

「いいと思うよ。ピクニックみたいで楽しいね」

「でしょう?」


 そろそろお昼にしようかと話しながら歩いていると、ポンちゃんが大木の下に苔が広がる気持ちよさそうな木陰を発見してくれた。

 木の下っていうのは、意外と虫の襲撃を受けやすいんだけど、魔法で調べたところ毛虫などの類はいなさそうだったから、同意する。

 クライスもわくわくした様子で、私もさらに楽しくなった。

 最初の心配――気ままな旅がしにくくなるんじゃないかって私の心配は杞憂だったみたい。

 収納魔法から敷布を取り出し広げて、さらにヤク爺さんの奥様たちが持たせてくれたお弁当を取り出す。


 この世界にはプラスチックがないから、使い捨ての習慣はない。

 もちろん環境に優しくていいとは思うけど、今回のようなときにおすそ分け、と簡単にいかないのが残念。

 というわけで、昔ながらのお弁当箱――お道具入れのような木箱を何個も収納魔法で持ち歩いていたから、それに詰めてもらったんだよね。

 漆のような木液でコーティングして、浄化魔法をかけているからいつでもピカピカ。

 さらにはお弁当箱に詰めた食品は保存魔法をかけて、長期間保存もできるっていう魔法で便利社会。

 使い終わった後はまた浄化魔法で綺麗にすればいいだけ。


「ポンちゃん、いただいたぶどうジュースを飲む? それともお水だけにする?」

「ユーナ様がお酒を飲みたいのでしょう? ボクは赤いジュースにします」

「バレてたか。でもまだお昼だから一杯だけにするね。はい、ポンちゃんは赤ぶどうのジュース」

「ありがとうございます」

「クライスは?」

「私もユーナと同じものを頼む」

「りょうかーい」


 お昼からお酒を飲む贅沢。

 ポンちゃんにはしっかりバレていて、クライスも交えて三人で笑い合った。

 私もサングリアを注いでから、ポンちゃんとクライスと乾杯。

 ベイカの街でたくさんいただいたサングリアは美味しいし、詰めてもらったお弁当も昨日食べられなかったお料理がいっぱい。

 ああ、これぞグルメ旅。幸せだな。


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