35.収穫祭
私たちが広場に到着してから、大して時間も立たずに次々と各家庭の奥様たちが大量のお料理を運んできてくれた。
それがどんどんテーブルに並べられていき、取り皿やカトラリーの用意がされて、特に合図もなくみんな食べ始める。
「ユーナ殿、遠慮せずにどうぞ!」
「あ、はい。いただきます!」
「いただきまーす!」
いつの間にかやってきていたヤク爺さんに促されて、私もお皿に魚のフライやたくさんの野菜――たぶんズッキーニやパプリカ系の野菜と一緒に炒めたムール貝のようなお料理など取り分ける。
ポンちゃんは白身魚のトマト煮っぽいものや、串に刺したイカ――クラーケンかもだけど、を塩焼きにしたものを手に取って食べ始めた。
そこにさらに各家庭で作ったらしいサングリアが運ばれてきて、私大歓喜。
ワインよりもサングリアのほうが飲みやすくて好きなうえに、各家庭の味を楽しめるとかご褒美すぎる。
赤ワイン系、白ワイン系、柑橘類をメインにしたもの、ハーブをメインにしたものと様々で、これはもう二日酔い覚悟で飲むしかない。
クライス王子が男性陣の中でわいわいしながら飲んでるのは、きっと朝一緒に仕事したことで仲間意識が芽生えた的なやつかな。
楽しそうで何よりです。
ひとまず美味しい海鮮料理とサングリアでお腹を満たして、次は行商にやってきた人たちの屋台を覗くことにした。
屋台には生活必需品のお店などがあり、そちらには奥様方が集まっている。
他には綺麗な宝飾品――といっても、それほど高くはなさそうな貴石を使った装飾品を扱うお店には、若い女の子たちを中心に集まっていて、革製品を取り扱うお店には男性が多く集まっていた。
その中で少しだけご飯系のお店もあったけど、当然のことながらお肉料理ばかりで、魚介類はない。
また、このあたりでは栽培されていないらしい野菜や肉類も売られているみたいだけど、それは注文されてから保存魔法の施された荷馬車から取り出す感じ。
「ポンちゃん、何か欲しいものある?」
「んー? ボクは美味しいものいっぱい食べたいです!」
「そうだね。じゃあ、腹ごなしの散歩も終わったし、ご馳走をまた食べようか」
「はい!」
元気よく返事をしたポンちゃんと一緒に、またお料理の並べられたテーブルへと戻る。
収納魔法と同じように、私の胃袋も無限に入れられたらいいのに。
それとも、残ったら容器に入れて持って帰れるかな? 帰るというか、旅立つというか……。
先ほどとは違うテーブルのお料理を取り分けて食べながら、旅立ちのことを考える。
あまり一か所に留まって本当の正体がばれても困るから……って、エレシムさんとヤク爺さんにはばれてしまったよなあ。
だけど、エレシムさんは〝悪逆の魔女〟については一言も触れることなくて、きっとこのまま黙っていてくれると思う。
あの右肩の痣――悪逆の魔女の証である痣は、私の魔法でも、どうやっても消すことも隠すこともできない。
何か制限がかけられているんだろうな。悪人の印的な。
(聖女殺しなんて大罪、神様が許してくれるわけないもんね。神様がいたとして、だけど)
この世界には聖女伝説がある。
魔物が強大な力を持ち、瘴気が満ちて人々が苦しめられていたとき、聖女が現れて世界を救ったとか。
それなのに、その聖女をお付きだった魔法使いが殺してしまった。
どうしてそんなことをしたのか、聖女の人気に嫉妬したとか、聖女と恋仲だった王子様に横恋慕していたとか、いろいろなおとぎ話で語られているけれど。
とにかく、魔法使いは〝悪逆の魔女〟として、人々に忌み嫌われ、また魔女も人々を嫌い、時々悪さをする、と。
あまりに有名なこの話は、悪さばかりする子供に『悪逆の魔女にさらわれるよ』なんて言って聞かせるほどになっていた。
それでも半分伝説のようになっていたのに、ある日突然「戦争を止めたくば、この国の第三王子を生贄に寄越せ」なんて声が国中の人たちの頭の中に響いたらしい。
ちらりと男性陣の中で笑うクライス王子を見る。
うん。やっぱり楽しそうで何よりです。




