34.挨拶
商人の人たちは我先にといった感じで挨拶してくる。
あんまり好きじゃないなあ。だって、ポンちゃんのことはほぼ無視なんだもん。
だけど、この先付き合おうとは思わないから、わざわざ騒ぎ立てるのも面倒くさい。
そう思ってたのに、最後に挨拶してきた商人の男性はきちんとポンちゃんにも挨拶してくれた。
「初めまして、魔法使い様。そして、お弟子様。私は王都マーカランを拠点にしている商人のテオ・ネイストと申します。どうぞ、この先御用がございましたら、何なりとお申しつけください。些細なことでもかまいません。私の商会は手広く事業を行っており、不動産なども扱っております」
「はじめまして、ネイストさん。とても頼もしいお言葉をありがとうございます。何か必要になったときは、お願いします。ね、ポンちゃん?」
「はい、よろしくです」
ポンちゃんも自分に挨拶してくれたことが嬉しかったらしく、大きく頷いた。
空気を読む子だから、挨拶がないからって怒ったりはしないけど、それでもやっぱり気分は悪いよね。
だから、この先何か商人さんにお願いしないといけないときには、ネイストさんに頼もう。
「ありがとうございます。どうぞ、私のことはテオとお呼びください」
ネイストさん――テオさんも私が他の商人と態度が違うことに気づいたみたい。
そうだよね。それくらい抜け目ないと、王都を拠点に商売なんてできないよ。
エレシムさんはずっと黙って見守っていたけれど、私たちのやり取りを当然のように聞いていた。
たぶん、エレシムさんもこの結果をわかっていたんじゃないかな。
やっぱり戦場で治癒師として働いたからか、それは関係なくエレシムさんの性質なのか、いろいろと達観しているようで、底知れない人だなと思う。
ほら、今度はクライス王子にテオさんは声をかけてる。
おそらく第三王子殿下って気づいているよね。王都が拠点だって言ってたし。
だけど大げさな素振りを見せず、さり気なくって感じだから、他の商人さんはクライス王子を見逃している。
ここにいる商人の人たちはみんなやり手なんだろうけど、テオさんはその中でも抜きん出ているんだろうな。
「さて、それでは広場に移動しましょうか。これから時期外れの収穫祭が始まりますよ」
「収穫祭……」
ぼうっとクライス王子とテオさんを見ていると、エレシムさんが苦笑しながら声をかけてくれた。
収穫祭って、たいていは実り多い秋に行われるよね。
エレシムさんが「時期外れ」というのだから、この港町でも同じなのかもしれない。
今は季節でいうなら初夏で、本来ならお祭りよりも漁で忙しいはず。
本当だったら明日も早くから漁に出るはずなんだろうけど、久しぶりの鮮魚でお祝いするのも悪くないよね。
「ポンちゃん、美味しいものいっぱい食べて、楽しもう!」
「はい!」
わくわくしながらポンちゃんとエレシムさんと一緒に広場へと向かう。
商人さんたちも広場に向かっているのは、どうやら久しぶりの行商でもあるみたい。
そして、広場に到着した私とポンちゃんはわあっと歓声を上げた。
昨日と全然雰囲気が違うんだもん。
日本のお祭りの提灯の代わりに、ランタンがあちらこちらに吊るされていて、夜になって明かりが灯ったらきっと綺麗なんだろうなって思う。
それから、港で魚の買い付けをしていた商人さんとは別動隊だったのか、屋台のように小さなお店が並んでいる。
何より、広場中央には噴水を囲むように篝火の用意がされていた。
昨日のどんよりとして、閑散としていた広場とは大違い。
「ユーナ殿、ポン殿、もう少ししたら、各家庭の自慢の料理も集まりますよ」
そう言って、エレシムさんは微笑んで、まだ何も置かれていない多くのテーブルを指した。
ヤク爺さんの奥様たちのお料理も美味しかったけど、いろいろな家庭の味を楽しめるなんて、最高。




