33.商人
「ユーナ殿!」
「おい、魔法使い様だ!」
「いらしてくださったんですね! ありがとうございます! 見てください、大漁ですよ!」
「魔法使い様、ありがとうございます!」
港へ近づくと、エレシムさんが最初に私に気づいて、それから多くの男性たちが喜び沸いた。
ちょっと恥ずかしいけど、大漁を喜んでいるんだから、私も嬉しい。
昨日は無茶な登場の仕方をしたけど、クラーケンは美味しいし、急いで倒してよかった。
って、男性たちの中にクライス王子がいるんですけど?
え? 王子様なのに?
クライス王子はエレシムさんに服を借りたのか、動きやすい服装ではあるけど、なぜか不思議と目立っていた。
動きが違うとかじゃなくて、元来の王子様然とした輝きが隠せていないというか、馴染んでない。
「うわあ~すごいです~!」
「う、うん。本当だね、ポンちゃん。すごい量の魚だ……」
呆気に取られてクライス王子を見ていたけど、ポンちゃんの声に我に返る。
その声に導かれて視線を下方へと向けると、広場に集められた木箱の中にはたくさんの魚介類が入っていた。
さらに広場には商人らしき人がちらほらいて、買い付けている。
すごいな。昨日の今日でもう商人が来るんだ。
それだけ、クラーケン出没のせいで通行止めになっていた海沿いの街道が重要だったとわかる。
それにしても、これだけの鮮魚をどうやって運ぶんだろうと思ってたら、商人が持っている荷車はどうやら保存魔法がかけられているらしい。
なるほど。おそらくあの荷車は高額だろうけど、新鮮な食材を運べるなら、かなり高額で取引できる場所もあるだろうし、投資としては間違ってないんだろうね。
それで、その荷車の魔法に綻びがないか、どうやらエレシムさんが調べているみたい。
至れり尽くせりだ。
「エレシムさん、手伝いましょうか?」
「もう終わりますから、大丈夫ですよ。ありがとうございます、ユーナ殿」
「そうですか? それにしても、エレシムさんのお仕事はいろいろと幅広いんですね」
「普段は、それほど治癒魔法は必要とされませんからね。保存魔法のほうが需要が多いくらいですよ」
エレシムさんにも声をかけたけれど、若奥様のように断られてしまった。
クライス王子は魔法ではなく、力仕事を手伝っているのに。
なんだかちょっと悔しい。
ここまでくると、何か仕事をしたくなるというか、役立ちたくなるよね。
ポンちゃんは男性たちに獲れた魚を見せてもらって喜んでる。
どうやら網に引っかかったヒトデを渡されたみたいで、悲鳴のようでいて楽しそうな声を上げていた。
「魔法使い様、俺が獲った魚です! でかいでしょう?」
「すごいですねえ! 重そうです」
「引き上げるのは大変でしたけど、船に上げてしまえばこっちのもんですからね。あとで捌いてお持ちしますから、楽しみにしていてください!」
「おいおい! 抜け駆けすんな! 魔法使い様! 俺のほうがでかいですからね! それに身も引き締まっていて旨いですよ!」
「んだ、てめえ!」
「こら、おめえら! ケンカすんな! ユーナ殿が困ってるだろ!」
男性たちが今日の釣果をいろいろと見せてくれたのはいいんだけど、ケンカみたいになってちょっと焦った。
でもすぐにジャックさんが止めに入ってくれて、二人とも申し訳なさそうに私を見て頭を下げる。
私は気にしていないって感じで笑って首を横に振ると、エレシムさんも楽しそうにくすくす笑う。
さらにはクライス王子まで笑っているのが視界の隅に入った。
「みんな荒っぽくはありますけど、気のいい人たちばかりですからね。ちょっと子どもっぽいところもあるって、今知りましたよ」
「自慢したくなるのはわかりますよ。すごい大きな魚ばかりですから」
「久しぶりの漁で浮かれているのもありますけどね。それよりも、あちらの人たちがユーナ殿に挨拶したいようです。紹介してもよろしいですか?」
「え? あ、ええ。はい」
漁師さんたちをフォローするエレシムさんの言葉に頷くと、話題が変わって手のひらで示す方に視線を向けたら商人さんたちが立っていた。
紹介されるのを待ち構えていたみたいで、ちょっとびっくり。
それも、エレシムさんと私のやり取りが聞こえていたみたいで、すぐに近づいてきた。
そのせいで、ポンちゃんが駆けつける。
「ユーナ様!」
「大丈夫だよ、ポンちゃん。この人たちは商人――お魚をここで買い取って、他の町や村に売りに行く人たちだから」
「でも、勢いよく近づきすぎです!」
確かに、ポンちゃんの言う通りではあって、思わず後ずさってしまったもんね。
それでポンちゃんを余計に警戒させてしまったみたい。




