31.お風呂
うだうだ考えているうちに、奥様がお部屋に案内してくれた。
そこには預けていたリュックが置いてある。
リュックには怪しまれない程度の荷物しか入っていないんだけど、その中から着替えを取り出すと、今度はお風呂へと案内してくれた。
ううん。お風呂というよりも、これは大浴場だ。
ヤク爺さん自慢なのがよくわかる。
綺麗なタイルでモザイク画が床一面に広がっていて、そのまま統一された色彩のタイル張りの大きな浴槽。
元の世界で言うなら、地中海式というか、ローマ風というか。
とにかくテンション上がる。
「すごいですね!」
「ありがとうございます。これは私がお風呂が好きだと知って、嫁入り前に主人が作ってくれたんですよ」
「わあ、惚気られてしまいましたね」
奥様は少し頬を赤らめてふふふと笑った。
いいなあ。長年連れ添っても未だにラブラブの気配がする。
まあ、別に恋愛したいわけじゃないし、私にはポンちゃんがいるもんね。
「じゃあ、入らせてもらおうか?」
「えっと……はい」
「あ、ひょっとして恥ずかしかった? ごめんね。一人で入るほうがいいなら、順番にする?」
「い、いえ。大丈夫です」
ちょっと気が利かなかったかな。ポンちゃんだって男の子だもんね。
とはいえ、一番風呂に入らせてもらうから、できれば早めに上がったほうがいいかなって思ったんだけど、どうやらポンちゃんにもその考えが伝わったみたい。
こういうところが本当にいい子なんだよねえ。
この街で海鮮料理を楽しんだら、次の目標は温泉にしたいけど、そこでは別々に入れるようにしよう。
「では、ごゆっくり」
「はい」
奥様が出ていって、ポンちゃんをじろじろ見ないようにしてぱぱっと服を脱いで、先に浴場へと入る。
先ほどより湯気が立っていて、あまり見えないから、ポンちゃんも恥ずかしくないよね。
かけ湯をしてから、石鹸らしきものを手に取り、危険がないことを確認して泡立てる。
髪も体も泡泡で洗えるの楽しい~!
それから、洗い流して湯船につかった。
「あ~気持ちいい~」
「ポンちゃん、泡立てれる?」
「はい、大丈夫です」
「湯舟は広いけど、それほど深くないからね」
「はい、ありがとうございます」
ポンちゃんに声をかけてから、背を向けて窓の外を眺めた。
ヤク爺さんのお家は高台にあるなと思っていたけど、窓の外には他に民家はなく、眼下に海が広がって見える。
浴場はぼんやりした明かりだけで、それほど明るくないこともあって、すごい最高の景色。
真っ暗なはずの海がところどころ光っているのは、夜光虫か何かかな?
この世界に夜光虫がいるのか、似たような生物なのか、それとも別の発光物なのかはわからないけど、とにかく絶景。
きっと昼間に入るのもいいんだろうなあ。
森の中のお風呂もよかったけど、こういうのもいいなあ。
うん。将来的にはあの森の小屋だけでなく、どこか海の近くに別荘を持つのもいいかも。
普通の人はたどり着けないような場所なら、人目を気にせずお風呂に入れるし。
お風呂は日本人の心とか言うけど、今まではそこまで感じなかった。
失ってわかる大切さってやつかも。
背後でポンちゃんが湯船につかった気配がした。
それから端のほうに寄っているみたいだから、振り向かないまま声をかける。
「ポンちゃん、来て来て。この景色を見てほしいの。ほら」
「えっと……」
「大丈夫だよ。振り向いたりしないし、湯気もあって明かりも暗いから、見えたりしないよ」
「あの、ボク……ユーナ様に気を遣わせたいわけじゃないんです」
「うん、わかってる。でもこれはマナーだったなって思って。だから、今回だけね」
「はい」
ポンちゃんはゆっくり窓際に近づいてきて、それからわあって声を上げた。
そっと横を向いてポンちゃんの顔を見ると、目をきらきらさせている。
うん。ちょっと無理を言ってでも、この景色を見てもらってよかった。
「――じゃあ、先に上がるね。ポンちゃん、気をつけて」
「はい、わかりました」
浴槽の中を中腰で歩いてから、立ち上がって出ると、脱衣所に向かう。
奥様はタオルを用意してくれていたけれど、魔法で一瞬で髪も体も乾かしてから脱衣所に戻り、服を着る。
ポンちゃんが溺れたり、浴室で転んだりしないか気配を探り、大丈夫そうだと判断して声をかける。
「ポンちゃん、私は先に部屋に戻っても大丈夫?」
「大丈夫です。ボクももう上がります」
「わかった。じゃあ、また後でね」
ポンちゃんも魔法で体を乾かせるので、そこは任せて脱衣場を出ると、その前で待つ。
万が一にも、他の方がやってきたら、ポンちゃんが恥ずかしがるかもしれないからね。
こっそり気配を探って着替えたのがわかったので、その場を離れて奥様を捜しに台所へ向かった。
「お風呂、お先にいただきました。景色も素晴らしくて、気分転換ができ本当に気持ちよかったです。ありがとうございました」
「あら、もっとゆっくりしてくださってもよかったのに。でも、喜んでいただけて私どもも嬉しいです」
奥様は湯上り用に冷たいお茶まで用意してくださっていて、それを飲んでいるとポンちゃんの気配がしたので呼びかけた。
それから二人で冷たいお茶を飲んでさっぱりして、部屋に戻ってベッドに横になる。
「今日はいろいろあったけれど、楽しかったね」
「ご飯いっぱい美味しかったです」
「そうだね。明日はどんな海鮮料理が出てくるのか楽しみだね」
「はい!」
ポンちゃんと今日あったあれこれを話しつつ、眠くなったのでおやすみなさい。
ああ、明日が楽しみだな。




