30.ストーカー宣言
「私もポンちゃんも誰かに縛られるつもりはありませんので、同行はお断りさせてください」
「そうか。では、後をついていくだけになるな」
堂々ストーカー発言が王子様から出たよ。
はっきり断ってダメなら、婉曲に断るしかない。――ふつうは逆だけど。
「私は何か悪いことをするつもりはありません。ですが今回のように、みんなの役に立てるのなら力を隠すつもりはありません。困っている人がいたら助けたいですし、その後によかったねって、美味しいものを食べて笑い合いたいんです」
「それは素晴らしい考えですな」
「ええ、ありがたいことです」
ヤク爺さんの質問にようやく答える形で私がクライス王子の同行を断ると、ヤク爺さんもエレシムさんも困ったように笑って頷いてくれた。
それなのに、クライス王子は空気を読まない。
「私も、美味しいものを食べるのは大好きです。今回、ユーナに追いつくためにいろいろな街を巡りましたが、初めて食すものばかりで……。特に炎リザードのテールステーキは最高でしたね。もちろん、王宮への報告にもどれほどの美味だったのか記載しました」
うん? テールステーキの味を?
もしかして、クライス王子は食いしん坊?
「今晩の奥様方のお料理も素晴らしいものばかりでした。この後、忘れないようにしっかり記しておこうと思います。それに、明日は広場で祝宴だとか。楽しみです」
もしかしなくても、クライス王子は食いしん坊だ。
しかも、グルメレポする気なんじゃ?
ひょっとして、ひょっとすると、クライス王子とは気が合うかも?
いやいや、でもなあ。
「ああ、そうでした。明日は祝宴ですからね。お疲れのところを引き止めてしまいましたな。それでは、もしよろしければ湯を浴びてください。きっと今頃準備もできておるでしょうから。うちの風呂はちょっとした自慢なんですよ」
「いいんですか?」
先ほどまでの困惑顔から一転して、ヤク爺さんは自慢げに笑った。
それだけ自慢のお風呂ってことで、かなり心惹かれる。
ここ最近はずっと浄化魔法だったんだよね。
一番風呂になっちゃうけど、下手に遠慮しても押し問答になるだけだろうから、素直に甘えちゃおう。
「もちろんですとも。妻に案内させます」
「ありがとうございます! ポンちゃん、よかったね! 久しぶりにお風呂に入れるよ」
「お風呂……ボクはいいです」
「ええ? せっかくなんだから、一緒に入ろうよ。ね?」
そういえば、ポンちゃんは以前からそれほどお風呂は好きじゃなかったんだっけ?
でも、タヌキ姿ではあまり好きじゃなかったようだけど、人間に変化できるようになってからは、ちゃんと毎日入ってたのに。
温泉も旅の醍醐味でもあるし、温泉を探すのも楽しそうだな。
ポンちゃんがもじもじしているところで奥様がやってきた。
そこで、エレシムさんとクライス王子が暇を告げた。
え? 泊まっていかないの? ヤク爺さん自慢のお風呂は?
声には出していないけど、顔には出ていたのか、エレシムさんが私の疑問に答えてくれる。
「クライス…殿は我が家に泊まっていただきます。高潔と名高い魔法騎士様の行動にあれこれ口を挟むつもりはありませんが、それでもやはり社会生活において規範というものはありますからね」
「あ、そうですね……」
紳士なエレシムさんは、私とクライス王子が同じお家に泊まるのはよくないと考えたのかもと思ったけど、ヤク爺さんも奥様方もいるのにそれは違うか。
あれ? ひょっとしてクライス王子が私たちの旅に「同行する」って言ったことに対して、これからまさかのお説教タイム? 王子様を?
たぶん、自分の目の届く範囲はってやつかな?




