29.旅は道連れ
「私も、街長と同様の意見だな」
「……え?」
「街長はユーナ殿の生きたいように、思うように、これからを過ごしてほしいと考えているのでしょう? 私もそう願っております」
「でも……?」
悪逆の魔女である私を野放しにして大丈夫なの?
まだ私が私であるうちにどうにかしたほうがよくないかな?
たとえば魔法使いの約束で縛るとか。――って自分で何を考えているんだって話だけど、私が第三者だったら絶対にそう思うな。
「私もユーナには助けられたからな。下手に国に介入させたくはないんだ」
「いえ、そもそも私を助けてくれたのは……クライスのほうですよ?」
森の中で迷っていた限りなく怪しい私を、お付きの人たちの反対を受けながらも助けてくれたのはクライス王子だもん。
あのとき助けてもらわなければ、今頃私は本当に〝悪逆の魔女〟になっていたわけで、戦争もまだ続いていたかもしれない。
だから戦争を止めてくれたって恩に感じる必要はないんだよ。
『情けは他人のためにならず』って本当だよね。情けだけじゃなく、何事も自分に返ってくるんだよ。いわゆる『自業自得』ってやつ。うん、気をつけよう。
「どちらが助けたとかどうとかはひとまず置いておこう。問題は、すでにユーナに追手がかかりそうになっていたことだ」
「やっぱり……」
「ユーナ様、戦いますか?」
「ううん。戦いはしないかな。だから大丈夫だよ、ポンちゃん。いざとなったら一緒に逃げてね?」
「はい!」
今まで黙っていたポンちゃんが、不穏な流れになりそうな会話を聞いて心配そうに、でも力強く問いかけてきてくれた。
ポンちゃんがいる限り私はできるだけ平和に暮らしたい。そう思える相手がいるって幸せだよね。
そこまで考えて、ひょっとして魔女もそんな相手がいたのかも? なんて思い浮かぶ。
だけどこれはそれ以上考えるのはやめよう。
物語でも悪役にだって同情の余地があるとかいうけど、悪いことをしたのは事実で私は被害者なんだから。
大げさに被害者ぶるつもりはないけど、『魔女は悪い人』って私の中ではこれで完結しておくべきなんだよ。
「その子どもをずっと連れていくつもりなのか?」
「当然です。それに、その子どもじゃなくて、ポン太って名前があるんです。私の大切な家族ですからね」
「ユーナ様……」
失礼な言い方をするクライス王子をきつい視線を向けて答えれば、ポンちゃんは感動したようにうるうるした大きな瞳で見上げてくる。
こんなに可愛くて優しい子なのに、クライス王子は胡散臭そうにポンちゃんを見ていてちょっと腹立つ。
「私は別に追われていてもかまいません。捕まるつもりはありませんし、ポンちゃんと一緒に暮らせればそれで満足ですから」
恩人だから我慢するけど、そうじゃなかったらもっと言ってやるのに。
口調がきつかったからか、ヤク爺さんが困ったように私とクライス王子を交互に見た。
しまった。ここは大人としてきちんと対応しないと。
だけど、大人だったのはクライス王子のほうだった。
「私の言い方がまずかったようだ。すまない」
「い、いえ……」
王子様に頭を下げさせてしまった。
ポンちゃんはクライス王子の正体を知らないからか、むっとしているのがわかる。
でも直接何か言うことはないのは、偉い人だと何となく気づいているのかも。それで私の立場を気にしてくれているのかな。
普段は子どもっぽくて可愛らしいポンちゃんだけど、時々どきりとするような大人びた言動をすることもあるんだよね。
「少し遠回りになってしまったが、結論を言うと、私がユーナを監視することになった」
「監視?」
「ああ。だから、追手は必要ないと。その代わり私がユーナの傍で行動を見守ることになる。要するに、旅に同行させてほしい」
「……クライスと?」
「ああ」
それで、あのとき「一緒に旅をする」って言ったのか。
うーん。それは、かなり嫌かも。




