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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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28.正体


「それに、私は独り身ですからね。いくらお弟子さんが一緒とはいえ、ユーナ殿を家に泊めるわけにはいきません」

「あ……。お気遣いいただき、ありがとうございます」

「当然のことですよ。まあ、ユーナ殿ほどの実力をお持ちなら、身の危険を心配する必要はないかもしれませんが、世間はなかなか厳しいですからね」

「そうは言っても、私は結婚する気はありませんから」

「未来は誰にもわからないものですよ」

「ああ、それは間違いない」


 どうやらエレシムさんは私の醜聞を気にしてくれたみたい。

 だけど、野宿だって気にせず、ポンちゃんと――子どもと宿に泊まったりするようなこの旅を続ける私に、気にするものなんてないんだけどな。

 それなのに、エレシムさんもヤク爺さんも首を横に振る。

 さらにはクライス王子までエレシムさんの言葉に賛成しているのか、うんうんと難しい顔して頷いていた。


 この世界では、女性の冒険者とかもいるらしくて、そこまで女性の名誉とか気にする必要はないと思うんだけど、三人とも古いタイプの男性らしい。

 ちなみに、この国の冒険者も戦争のせいで激減していたらしく、最近また少しずつ増えてきているって聞いた。

 ただ、魔獣の出没に対して圧倒的に冒険者は足りていない。

 だからこそ、私のような怪しい魔法使いも受け入れてもらえるんだけど。


「さて、では本題に入りましょう」

「ええ」


 やっぱり。今までのは会話の糸口を探ってただけで、本題は別だったか。

 クライス王子のことがわかっているのなら、私の正体もバレてしまっているのかな。

 第一級の犯罪人である〝悪逆の魔女〟の罪状はたくさんあるけれど、その中で一番大きいのは『聖女殺し』。

 いろんな魔女の記憶は私にあるけれど、本当に聖女を殺してしまったのかどうかだけはわからない。

 長い時間を生きていた〝悪逆の魔女〟の記憶は曖昧な部分も多い。

 私の不安を察したのか、ポンちゃんがぎゅっと手を握り返してくれる。

 小さい手で私を励ましてくれているんだから、本当に愛おしい。


「ありがとう、ポンちゃん。でも大丈夫だよ」

「ボクは何があってもユーナ様を守ります」

「うん」


 ポンちゃんは私より弱くても、その気持ちをいつも伝えてくれる。

 そんな私たちを見て、エレシムさんは穏やかに微笑んだ。


「心配なさらなくても、私もヤク爺さんも口は堅いですから。恩人であるユーナ殿に不利になるようなことをするつもりはありません」


 エレシムさんは穏やかに微笑んだまま言うと、ヤク爺さんも頷いた。

 ちらりとクライス王子を見ると、何を考えているのかわからない穏やかな笑みを浮かべているだけ。こういうのが一番やりづらいんだけど。


「我々はクラーケンの出現を王都に報せていたため、今回の退治については、騎士様とは別に魔鳥を飛ばしております。そのため、おそらく詳細を調べに後程査察官がやってくるでしょう。ユーナ殿はどうされたいですか?」

「私ですか?」

「ええ。この街でもリザの町を脅かしていた炎リザードが退治されたことは伝わってきております。若い娘の魔法使いと、子どもの弟子の二人組だったと。今回のクラーケン退治と炎リザード退治をしたのが同一人物だということは隠しようがありません。それでも、ユーナ殿をある程度は庇うことはできます。この街で匿ってもかまわないですし、クラーケン退治はこのエレシムと他の男たちと力を合わせてようやく成し遂げたことにすることもできます」


 そうか。たとえ〝悪逆の魔女〟ではなくても、炎リザードやクラーケンを倒すくらいの魔法使いなら、国が放っておかないもんね。

 要するに、国に縛られるってことで、言い方が悪いけど『王家子飼いの魔法使い』ってことになってしまう。

 ヤク爺さんはそれを私が望まないんじゃないかって、そのために――自由でいられるために協力するって言ってくれているんだ。

 しかも、クライス王子の目の前で。

 とはいえ、国の中枢部――王家の人たちは私の存在をすでに認識しているし、だからって捕まることはないから。

 正確にはこの国の人たち如きでは、〝悪逆の魔女〟には適わない。だからこそ、脅威なんだよ。気まぐれにあの戦争を起こしてしまったように。


 でも大丈夫!

 あの魔女が何を考えてあんな嫌な人になってしまったのかは知らないけど、孤独も原因の一つじゃないかって思う。

 その点、私にはポンちゃんがいてくれるし、この国の人たちは何だかんだで親切な人が多いって、エレシムさんやヤク爺さん、あの店主さんや御者のおじさんたちと接していてわかっているから。

 私は私の思うようにこの世界で生きたい。


 改めて決意していると、今まで黙っていたクライス王子がカップを置いて私からみんなへと笑顔のまま視線を向けた。

 お? なんだ、やるのか、このやろー。なんてちょっぴり身構えたけれど、クライス王子が発した言葉は意外なものだった。



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