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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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28/33

27.感謝

 

 ヤク爺さんにはいったい何を言われるのだろうと思っていたら、先に奥様がお茶を持ってきてくれた。

 途端にちょっとだけ緊張していた空気が緩む。


「ありがとうございます」

「このお茶は寝る前に飲んでいただくと、よく眠れるんですよ」

「そうなんですか? 香りも素敵ですね」

「本当ですね」


 カモミールに似た香りが鼻をくすぐる。

 私の言葉にクライス王子も同意してくれて、みんなが香りを楽しみながら、ゆっくりカップに口をつけた。

 奥様はすぐに居間を出ていってしまったけど、隣の食堂から楽しそうな声が聞こえてきたので、お嫁さんとお茶を楽しむのかも。


「お疲れのところ、すみません。ただ、改めてお礼を言わせていただきたくて……。ユーナ殿がいらっしゃってからずっとばたばたしておりましたからの。当初の失礼な態度も謝罪させてください。申し訳ありませんでした」

「そんな! いきなり現れた私たちに警戒するのは当たり前ですから、謝罪の必要はありません。それに、これは契約ですから。私はこうして泊まらせていただいて、美味しいお料理を食べることができる。みなさんはクラーケンが退治されたことで漁が再開できる。お互いにお得なことばかりで幸せですね?」


 ヤク爺さんは話し初め、エレシムさんと一緒に頭を下げられたから、私は慌ててその必要がないことを話した。

 クラーケンがこの街に現れた理由はわからないけれど、すぐに退治できなかったのは、やっぱりあの戦争のせいで国力が弱っているせいだもん。

 隣国との終戦協定は無事に締結したらしいし、幸いにして他の国からも干渉されることはないから、少しずつだけど国力も回復していくと思う。

 まさかここで、クライス王子が登場するとは思わなかったけど。


 うん。この人たちなら大丈夫。

 戦争を止めに入ったときのことを思い出して、これからは平和が訪れることを確信する。

 むしろ、かなり落ち着いたからこそ、クライス王子がやってきたとか? 

 だとすれば、私は逃走犯というか、お尋ね者ってやつなのでは?

 どきどきわくわくしていると、ヤク爺さんが今度はクライス王子に向けて頭を下げられた。


「まさか、あなた様ほどの方がいらっしゃってくださるとは思いもよりませんでした。この街を気にかけてくださり、誠に感謝しております」

「いえ、私は……何もできていません。そもそもこの街にやってきたのも正直に言えば、偶然のようなものです。この近くまでやってきたときに、魔鳥でクラーケンのことを知り、何かできないかと立ち寄ったのですから。私もまた、ユーナ殿にお礼を言う立場です。この街のためにお力添えいただき、感謝申し上げます」

「い、いえ! ですから私は……美味しい海鮮料理を食べたかっただけで……」


 って、ちょっと待って。

 この会話って要するに、ヤク爺さんはクライス王子の正体に気づいているってこと?

 ということは、私も?

 お尋ね者かもってどきわくしている場合じゃなくて、まさか私を捕まえるためにこのお茶に眠り薬が……なんていうのは考えすぎかな。

 とりあえずいつでも逃げられるように隣に座ったポンちゃんの手を握ると、嬉しそうな笑顔が返ってきた。

 うん、可愛い。

 でも視線を向けなくても、クライス王子がじっと見ているのを感じる。

 再会してから、王子はずっと何か言いたげなんだよね。


「あの、何でしょうか?」

「別に……気にしないでくれ」


 いや、気になるから訊いたんだけど。

 ちょっともやもやしつつ、これ以上は藪蛇かもなので深く追及するのはやめた。

 こういう場合は、必殺・話題を変えよう。


「ところで、ずっと気になっていたんですけど、エレシムさんとヤク爺さんのご関係を訊いてもいいでしょうか?」

「ああ、血縁関係にはありませんが、私はこの街の治癒師として、ヤク爺さんに何かとお世話になっているんですよ」

「いやいや、世話になっているのは我々のほうだ。今回のことだって、魔法使いの契約などと無茶を……二人ともされるから、冷や冷やしました」


 ジャックさんはエレシムさんにちょっと他人行儀というか、遠慮していたように思えたから、家族ではないのかなと思ったんだよね。

 それにしては、当然のようにヤク爺さんのお家でご飯食べてるし、と思ったんだけど、どうやらこの街の長と貴重な治癒師というだけの関係らしい。

 まあ、エレシムさんほどの治癒師ならどこでも歓待されるだろうし、大切にされるよね。

 ちらりとエレシムさんを見たら、また穏やかな笑みが返ってきた。


「本当は私の家に泊まっていただきたかったのですが、私は料理にあまり自信がありませんので、ヤク爺さんの奥方たちにお願いすることにしたんです」

「お二人のお料理はとっても美味しかったです」


 私の言葉に、ポンちゃんだけでなく、クライス王子も大きく頷いている。

 クラーケン料理も、お昼のお料理も美味しかったもんね。

 エレシムさんは私との契約の条件が『海鮮料理を食べさせて』といったものだから、ヤク爺さんの奥様方に頼ることにしたらしい。

 でも契約者はエレシムさんだから、こうして一緒に過ごしているってことかな?

 そう思っていたら、エレシムさんは予想外のことを口にした。


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