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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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26.家族


 クラーケンのフリッターは、日本人である私に馴染みある味そのままで、トマト煮はちょっとした味付けの違いはありそうだけど、とにかくクラーケンの身が柔らかくて美味しい。

 ちょっとピリ辛だけど、唐辛子系かな? あとで奥様たちに訊いてみよう。

 それに、オリーブの実が入っているのもまたよし! 

 この世界でもオリーブオイルがあるのは嬉しかったな。

 ごま油もあって、本当にいろいろ助かってる。


 さて、王子様のお口にこの料理は合うのだろうかって気になってちらりと見ると、クライス王子は無言でぱくぱく食べてた。

 どうやら不満はないみたい。――というよりも、むしろ満足している?

 発言はないけど、顔がすごく嬉しそうというか、目がきらきらしている。

 わかるよ、わかる。奥様方が作ってくれたお料理は全部美味しいもんね。 

 このレモン炒めはすっぱくて、でもいい感じにワインが進む。


 明日、早く起きれるかな?

 肝臓を捧げるのは明日にして、今日はもうお酒はやめておこう。

 というより、お客さんである私がそろそろ遠慮しないと、たぶん皆さんお休みになれないんじゃないかな。

 漁師さんの朝が早いのは知識として知っているけど、どれくらい早いのかとか、ご家族みんな早いのかとかよくわからないし。

 何だかんだでいろいろな話を――ここまでの旅の出来事などを話していたら、あっという間に時間は経っていた。


「あの、そろそろお腹いっぱいで……ごちそうさまでした。すごく美味しかったです」

「いえいえ、お粗末さまでした。明日は街の者みんなが料理を持ち寄って広場でクラーケン退治の祝いですからね。楽しみにしていてくださいな」

「奥様たちのお料理をいただけただけでも幸せなのに、楽しみです。やっぱりそれぞれ家庭によって味付けが違ったりするんですか?」

「ええ。少しずつ違ったりするし、それぞれ得意料理も違うのよ。それに、明日は久しぶりに漁に出るから、クラーケンに海を荒らされていなければ大漁のはずだけれど……」

「そうだなあ。あれだけでかかったから、小魚だけでなく、貝類も食い荒らされてるだろうなあ。だが、海ってのは気まぐれなもんだから、俺たちも慣れてる。心配するな」


 泊めてもらっておきながらベッドに横になりたいとは言えなかったので、お礼を言って遠回しにお開きを要望してみる。

 すると、ヤク爺さんの奥様が謙遜されながらも空気を読んでくれたみたい。

 ジャックさんの奥様も同じように察してくれつつ、明日の祝宴について話してくれたけれど、久しぶりの漁についてはやっぱり心配しているようだった。

 ジャックさんはそんな奥様の心配を明るく笑い飛ばす。


「それでは、明日のためにもお前はもう寝なさい。ユーナ殿と騎士様はもう少しだけわしと話をしてくださいませんか? 明日になるとこうしてゆっくりはできないでしょうからな」

「は、はい。それはもちろん」

「わかりました」


 ヤク爺さんは優しい言葉をジャックさんにかけているけれど、促すにしてはその背中を叩く力は強い。

 そういうものなのかな?

 ジャックさんは「はいはい」と笑いながら答え、私たちに向かって「お先に失礼します」と言ってくれた。


「いえ、ゆっくり休んでください」

「突然お邪魔してすみませんでした。おやすみなさい」


 焦って立ち上がり、挨拶をすると、ジャックさんはささっと空いた食器を流しへと運ぶ。

 さり気なく家事も手伝うとか、素敵だな。勝手に亭主関白なイメージしててごめんなさい。

 私だけじゃなくてクライス王子までもが片づけを手伝おうとしたら、奥様に制されてしまった。


「あらあら、そのままで大丈夫ですよ。お客様なんですから、ゆっくりなさって……と言いたいところですが、もう少しだけあの人に付き合ってあげてくださいな」

「では、お言葉に甘えまして……。ありがとうございます」


 ヤク爺さんも自分が使った食器は流しに持っていっているのに、ちょっと手持ち無沙汰で、エレシムさんポンちゃんとクライス王子と一緒にお皿だけ重ねておく。

 それからヤク爺さんとエレシムさんに続いて、居間へと移動した。

 ポンちゃんはとっても空気を読む子なので、食後は私の隣で黙っているけど、上着の裾を掴んでいるのはちょっとだけ警戒しているみたい。

 改まっての話って何だろうって私も気になるけど、まさかここにきて何か危害を加えられるはずはないから、大丈夫だよって伝えるためにポンちゃんの手をそっと握る。


「ずいぶん仲がいいな」

「私の大切な家族であり、大好きな愛弟子ですから」

「えへへ。ボクもユーナ様が大好きです」


 居間へ入って勧められたソファに座ると、クライス王子が私とポンちゃんを見て微笑みながら問いかけてきた。

 私とポンちゃんは仲良しなんて言葉では語りきれないよ。

 いきなりこの世界に召喚された私があの森で頑張れたのは、ポンちゃんがいてくれたからだもん。

 今のこの旅だって、ポンちゃんがいなかったら、すごく味気ないものになったと思う。……グルメ旅だとしても。

 だからもし、この場でクライス王子が私の――悪逆の魔女の罪を追及してきたって大丈夫。

 どこまででも、ポンちゃんとふたりで逃げてやる!



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