25.家庭の味
この世界の人たちは醤油というものがないので、私の知るイカ焼きはまだ食べることができない。
だけど、そんなの関係ないくらいにイカ料理――じゃなくて、クラーケン料理がテーブルにはいっぱい並べられていて、私のテンションはMAX。
フリッターみたいな揚げ物もあるし、リングになっていないイカ揚げ、ゲソ揚げ、と揚げ物三昧。
私のお腹もMAXでぐるるんって音が鳴る。
だけど、ポンちゃんが嬉しそうな声を上げたおかげで、誰にも聞かれなかった……はず。
「すごいです~! こんなにいっぱいクラーケン料理があるなんて! 揚げ物はボク、大好物なんです!」
うんうん。ごめんね、ポンちゃん。
揚げ物は面倒くさいからって、野宿ではあんまりしないから。
ポンちゃんが頑張るって言ってくれるんだけど、やっぱりまだ高温の油を扱うにはちょっと心配なんだよね。
だから、こんなに揚げ物料理が並ぶと、ポンちゃんが喜ぶのは当然で、それを見たエレシムさんがまたくすりと笑う。
ひょっとしてだけど、エレシムさんはポンちゃんの正体に気づいている?
だとしても、私のこと――〝悪逆の魔女〟だということも黙っていてくれるようだし、知らないふりをしてくれているのかも。
まあ、細かいことは気にせず、目の前のお料理をいただくぞ!
もちろん、お料理は揚げ物だけじゃなくて、イカのレモン炒め、イカのトマト煮みたいなお料理もいっぱい。……クラーケンだけど。
祝宴の本番は明日なのに、もうこんなにいいのかな?
そもそも、この短時間でこれだけ作れるなんて、さすがです。
「それでは、ユーナ殿があの厄介なクラーケンを退治してくださったことに感謝を込めまして、我々だけで一足先に……乾杯!」
「乾杯!」
「あんぁ~い!」
ヤク爺さんのお孫さんらしき小さな女の子も一緒に晩御飯。
もちろん、クライス王子も参加している。
ジャックさんは明日の朝早くから漁に出るからと一杯だけにするって話を奥様としていたけど、言葉と表情が合っていなくて面白い。
それでも奥様が頑として二杯目のお酒を注ぐことはなかった。
うん。奥様としては朝早く仕事にいく旦那さんのことを考えると心配だもんね。
みんなに内緒で魔法で海中を調べたところ、クラーケンのような大物はもういないようだったから大丈夫だと思う。
だけど、万が一のために、私も明日は早く起きて海の様子を探ろう。
そう考えていたら、隣に座ったエレシムさんがぼそりと呟いた。
「ありがとうございます、ユーナ殿」
「いえ、私はこうして海鮮料理を食べたくて……だから、私欲のためにクラーケン退治をしたんです。だから、明日はもっと楽しみです。ねえ、ポンちゃん?」
「はい。ユーナ様はすごいんです」
うん。ちょっと違うかな。
でも可愛いからいいか。ポンちゃんはクラーケンの唐揚げに手を伸ばし、嬉しそうに口へと入れてぱっと顔をかがやかせた。
「美味しいです~!」
「ほんとだ~! サクサクで中身は弾力あるけどもっちりしてて美味しいね!」
味付けはどうしているんだろう? スパイスだけじゃない気がする。
これぞおふくろの味。隠し味がありそう。
だけど、このグルメ旅は一期一会だと思ってるから、隠し味を教えてほしいとは言わないんだ。……再現する自信がないというのは内緒。
ただ、私の記憶はとっても便利なので、またこの味を食べたくなったら、この街に来ればいいんだよね。
まあ、あの炎リザードの料理が食べたくなったら、先にどこかで狩ってから、あの店主さんにお願いしないとだけど。




