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悪逆の魔女のグルメ旅  作者: もり


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23.解体作業

 

 やっぱりクラーケンの解体で一番大変なのは、墨袋の取り扱いだった。

 間違って破ったりしたら、あれだけ大きい墨袋だから、周囲が真っ黒に染まっちゃうよね。

 慎重に取り出されたおかげで無傷の墨袋は、中身の墨を上手く抜き出して商人に売るらしい。

 染料としても使えるし、インクとしても使えそうだもんね。

 実際に何に使うのかはわからないけど、売れるってことは需要があるってこと。


 クライス王子はさっそく王都やその他の地域にクラーケンが退治されたことを伝えるために、魔鳥を放ったらしかった。

 ただ、私について何て報告したのかはわからないから、明日には発ったほうがいいかな。

 それとも、浮遊魔法を使っても、この街までなら二日はかかるから、明日も泊まらせてもらえるかな?

 クライス王子だけなら、ポンちゃんを連れていても逃げ切れるし。


 無理をしてでもこの街に滞在したいのは、イカ料理を堪能したいもんね。

 明日の朝にはさっそく漁にも出るらしいから、新鮮な魚介料理も食べられそう。

 そうなると、やっぱり明日も泊まらせてもらおう。


 この街の人たちは大きなクラーケンでもあっという間に解体してしまって、ポンちゃんの風魔法の出番はなかった。

 予想通りクラーケンは表面以外は大物の魚より体は柔らかかったようで(さすがイカ)、大きな刃物がすうっと通っていたからね。

 でも、何よりすごかったのはここから。

 奥様方が手分けして、クラーケンの切り身をさっさとお家に持って帰り、残った切り身は天日干しするために男性陣が準備を始めた。


 別の男性陣は軟骨甲の鋭さと頑丈さに、国に献上するべきじゃないかなんて話し合い、また別の男性陣は広場の汚れを、汲んだ海水でざあっと流して洗っている。

 そのすべてが手際がよくて、私はただ感心するだけでぼうっと見ていた。

 あ、もちろんイカそうめんにするためのエンペラ部分やゲソの天ぷらにするために足の一部、それから胴体部分も分けてもらって、収納魔法で真空パックにして保存。

 これは後で野宿とかするときに、ポンちゃんと調理して食べるんだ。むふふ。

 おっと、いけない!

 クライス王子がじっと見ている。疚しいことはしていません。ちゃんと働かないと。


「それ! 私が油断して壊しちゃったんで、直します!」


 クラーケンが最期の悪あがきで壊してしまった空箱を撤去しようとした人たちに、声をかけて止める。

 イカ三昧に浮かれている場合じゃなかった。

 空箱が散らかった場所へと駆け寄って、修復魔法をかければ元通り。

 おおって歓声が上がって、みんなからお礼を言われてしまった。


「ありがとうございます。修復魔法も完璧ですね」

「治癒魔法ほど繊細な技術はいりませんから」


 男性たちの間からエレシムさんがやってきて褒めてくれたけど、無機物に対してはそこまで調整しなくていいからね。

 治癒師として戦場で過ごし、この街でもずっと頼りにされているエレシムさんは大変だと思う。

 それでも穏やかに微笑んでいられるなんて、本当にすごい。


「まだ、契約の証が消えてないのはなぜですか? ユーナ様はクラーケンを退治したのに」


 エレシムさんの袖から覗いた右手首を見て、不服そうに言うポンちゃんの質問で、そういえば魔法使いの契約したんだったと、今さら思い出した。

 すると、うっかりしていた私に代わって、エレシムさんが答えてくれる。


「ユーナ殿は約束を守ってくれましたよ。ですからほら、ユーナ様の花は満開です」

「あ、本当だ……」


 エレシムさんに指さされて右手首を見れば、蕾だった花が咲いていた。

 さらには花びらが散っていくかのように、ふっと一枚一枚消えていって、最後には蔦さえも消えてしまった。

 私だけじゃなくポンちゃんも呆気に取られている。


「ですが、私のほうがまだ……ユーナ殿にこの街に泊まっていただくという約束を果たしていませんので、私はまだ縛られているのです」

「え? あ……魔法使いの誓約って、こんな感じなんですねえ」

「ええ、私も初めて実際に目にしました。というわけで、私の約束を果たすためにも、宿泊はもちろん、もっともっと海鮮を召し上がってください。奥様方がきっと今頃腕を振るってくれていますから」

「楽しみです!」


 約束をきちんと果たしたほうの痣は消えるというのは、初めて知ったよ。

 でもそれじゃあ、あの〝悪逆の魔女〟の証である右肩の痣は、何かの約束を破ったままってこと?

 だから魔法を使っても隠せないのかな?

 あの魔女なら約束の反故なんて簡単にやりかねないけど、手首じゃないし、痣が肩から広がることはないから違うのかな。

 そもそもどうして、こんな右肩に痣があるのか、魔女の知識にも記憶にもないんだよね。

 そんなことを考えていたら、クライス王子の険しく低い声が聞こえた。


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